第八話:介入
放課後になった。俺は桜木と一緒に帰る予定である。彼女と一緒にいると米倉が、手を出しづらいということを理解しているがゆえの行動だった。
「桜木。」
俺は自分の席に座っている、桜木に声を掛けた。
「椿さん。なんでしょうか?」
彼女は、こちらを向いた。
「一緒に帰らないか?」
俺は、桜木にそう言った。すると彼女は少し考えてから言った。
「はい。分かりました。」
そして、彼女は立ち上がった。俺と彼女は教室を出た後、昇降口へと向かった。靴を履き替えてから外へと出る。校門を抜けたあたりで、米倉が俺たちのほうへと近づいてきた。
「椿くん!一緒に帰ろうよ!」
米倉は、そんなことを言いながら、俺に微笑みを向けてきた。そんな彼女の様子を見て俺はため息をついた後に彼女に対していった。
「これから桜木さんと用事があるんだ。」
俺がそういうと彼女は一瞬、動揺したような表情を見せたがすぐに笑顔に戻った。
「ふーん。椿君。昨日までは、桜木さんと一緒というわけではなかったわよね?桜木さんと何かあったの?」
米倉は、こちらを覗き込むようにしながら聞いてくる。
「まあ、色々とあってな。」
俺は言葉を濁した。
「二人の関係を知りたいな。ねぇ、一緒について行ってもいい?」
米倉はそういって、強引についてこようとした。
「……俺と桜木は付き合っているんだ。これから二人でデートするところだ。悪いな、米倉さん。」
俺は適当なことをいってその場をごまかそうとしたが、米倉には逆効果だったようだ。一瞬だけ、彼女は驚愕したような表情をしていたが、すぐに笑顔へと戻った。
「そういうことだったのね。……ごめんなさい、邪魔をしちゃって。それじゃね!」
どこか戸惑うような、そんな声だ。米倉は張り付いた笑みを浮かべて、俺たちの前から離れていった。米倉が去っていくと、桜木が歩き始めたので、俺もそれに合わせて歩き始めることにした。桜木の家は、俺の方向と同じなようで、俺の先を歩く彼女は、まるで俺の家へ向かっているような道を選んで進んでいた。
「椿さん。さっきのはどういう意味ですか?」
俺の先を歩きながら桜木は、俺にそう話し掛けてきた。
「すまない。ああ言えば、彼女も諦めるかと思った。」
俺はそう言った。
「いいえ。むしろ、私としても先ほどの提案は好都合です。私と恋人として付き合いますか?」
彼女は、こちらを振り返ることすらせずに、淡々とそう言った。とても愛の告白には見えない態度と口調だ。
「ああ、そうだな。そのほうが安全だろう。よろしくお願いする。」
俺は少し考えてから言った。すると、彼女は立ち止まって、振り返った。
「それでは、これから恋人としてよろしくお願いしますね。椿さん。」
桜木は、こちらをじっと見てそういった。相変わらず何を考えているのか分からない無表情だったが、俺に手を伸ばしてきた。俺はその華奢な手を取った。それから二人で手をつないで歩き出した。
「桜木の家はどこなんだ?」
「椿さんの家の前にあるアパートの一室です。」
「えっ?」
思わず俺は、声を上げた。俺の家の前には、アパートなんてあっただろうか?いや、ない。彼女は何を言っているんだ?混乱している俺の様子に構わず、彼女はつづけた。
「今、そのように設定しましたので問題ありません。」
「よく分からない。……家に帰れば分かる、ということか?」
「信じられないということであれば、そうです。」
「いや、大丈夫だ。」
俺は、なんとかそう答えたが混乱しているのには変わりがなかった。しばらく歩くと、俺の家が見えた。そして確かに目の前にアパートが建っていた。
手狭な長方形の建物で、2階建ての建物だ。オートロックなどはない。学生が住んでいるような物件で、駐輪場すら見当たらない。ただ、築年数は新しいようで白い外壁は、奇麗だった。
もちろん、今朝、家を出る前には無かった建物なのだから、築年数は一日も経っていない。とりあえず、桜木が何かをしたことは明白だった。
「どういうことだ?」
俺がそう呟くと桜木が答えた。
「私はあなたの家に住むことにしましたので、そのように設定させていただきました。」
彼女は淡々とそう言ったのだった。
「つまり、君と俺が同棲をするということなのか?」
「いいえ。同棲ではなく同居人です。」
彼女は全く同じ意味の単語をいった。
「いや、でもそれは……」
頭を抱えるようにしながら、俺は言葉をひねり出す。しかし、そんな俺の言葉を遮るように彼女は続けた。
「今の私は、あなたを監視するためにここにいます。そして私とあなたは恋人同士になっています。これ以上ない設定かと。」
俺は何も言えなくなったが、なんとか言葉を絞り出した。
「わかった。だが、せめて親には言っておかないとな。」
そんな俺の言葉にも彼女は表情を変えずに言ったのだった。
「問題ありません。既に許可をいただいておりますので。」
そんな彼女の答えにさらに疑問が追加されていくが、もはや俺は考えることを諦めつつあった。
「それなら問題ないのかな?……とりあえず家に入るぞ?」
俺は、そういうと自宅へ進もうとした。すると彼女は、俺の手を引っ張った。
「椿さん。とりあえず私のアパートへ来てください。」
桜木はそう言って、そのまま俺の手を取り、アパートの方へと進み始めた。俺はただ黙ってついていくことにしたのだった。彼女は部屋は、一階の俺の家の道路に面した部屋だった。
「どうぞ入ってください」
彼女はそう言ってから、鍵を差し込み扉を開けた。俺は中へと入ることにした。ワンルームだ。玄関からすぐに簡単なキッチンがあり、その反対側には、おそらくユニットバスへ続く扉が見えた。しかし、今日建ったばかりで、その内装は奇麗だ。というよりも生活感がまるでない。部屋の中心には、背の低いテーブルと周囲に座布団が置いてあり、奥にはベッドがあった。そして、部屋の要所には、洗濯機や冷蔵庫、電子レンジが置いてあったが、引っ越してきた当初のままを感じさせた。
「どうぞ、お座りください。」
桜木は、俺をテーブルの前の座布団に座らせた彼女は冷蔵庫から、500mlくらいあるペットボトルのお茶を2本取り出すと、そのままテーブルの上に置いた。そのまま、飲めということだろう。俺はペットボトルのキャップを外した。
口を付けるとお茶は冷えていて美味しかった。一口、二口と飲んでいく。それから再びペットボトルをテーブルに置いた。彼女は、俺とテーブルを挟んで向かいあうように座って、俺がお茶を飲む様子を観察しているようだった。
「さて、椿さん。」
彼女は、お茶を一口飲んでから言った。
「ここでは何を話しても構いません。」
「ああ。」
俺はそう返事をした。
「まず、これからのことについて議論しましょう。特に米倉さんについてです。」
真剣な表情で桜木は、そう言った。
「米倉か。」
「はい、そうです。彼女からの殺害の運命を回避する、それが仲介者になるための条件だと、椿さんはおっしゃいました。」
そういった後、桜木は、お茶を一口飲んだ。
「ですから、私があなたと恋人になり、同居人としていることで、その運命から回避が出来ている、と思われる。……つまり」
桜木は、そういった。
「いや、そういうことじゃないんだ。それは対症療法だ。俺は、根本的に彼女を諦めさせたい。」
桜木の話を遮って、俺はそういった。
「なるほど、椿さん。理解しました。根本的に米倉さんが椿さんを殺害する動機を消失させたい、と。」
桜木は、そういうとペットボトルのお茶を飲んだ。それにしても相変わらずの無表情なのだが。お茶を飲むとき一瞬だけ表情が和んでいるようにも見えた。
「……早川か。」
俺がそうつぶやくと、桜木はお茶を飲む手を止めた。そして俺を見る。
「……それはどういう意味ですか?」
桜木はじっとこちらを見てきた。
「周囲からも、俺に対する米倉の態度や行動は異常だと感じるはずだ。だから、友人である早川は、早急に気が付くはずだ。」
「それは、どういう意味ですか?」
彼女はそういいながら、ペットボトルのふたを閉めた。
「俺が思うに、早川は米倉に何か影響を与える。俺が、米倉に説得をするよりも、米倉との友情がある早川のほうが適任なはずだ。」
しかし、俺はそういいながら、米倉がゴミを見るような目で俺を見ていたことを思い出した。確かに、米倉の友人である早川のほうが適任なのかもしれない。しかし、米倉は本当に心の底から、早川を友人だと思っているのだろうか。俺は、彼女の独白を思い出す。あの告白を要約すれば、米倉にとって、全ての人間が無価値なのかもしれない。そうなれば、誰も彼女への説得など不可能だ。
「椿さんの話を要約すると、早川さんに米倉さんを説得させる、ということですね?」
考え込んだ俺に、桜木が話しかけてきた。
「……ああ、そうなるな。」
俺は、自分で言っていても不確定要素が多すぎると思った。結局、二人の友情パワーを信じるという選択だ。
「分かりました。では、早川さんに米倉さんを説得してもらうという方向で動きます。」
そういうと、無表情で立ち上がった桜木は、そのまま玄関へと向かい始めたので、俺は慌てて立ち上がり彼女の後を追ったのだった。俺がアパートから出て玄関の扉を閉めると桜木は、アパートの鍵を閉めた。
「椿さん。こちらを。」
彼女はそういって、アパートの鍵を俺に渡した。
「どういう意味だ?」
「このアパートは安全地帯です。もし最悪の場合、この中へ避難してください。その際は鍵を閉めることを忘れないでください。」
桜木は、事務的な調子でそういった。恋人の部屋の合い鍵を預かる、そんなシチュエーションにも関わらず、恋沙汰とはまったく無縁の雰囲気だった。俺は素直に、桜木のアパートの鍵を受け取った。それを通学用鞄に入れた。
それから、俺と桜木はアパートを出てから、目の前の俺の家へと向かった。彼女は、俺の横を歩きながらも、無言だった。そしてすぐに自宅へと到着した。俺は桜木が後ろにいる状態で、玄関のカギを開けた。
「じゃあ、上がってくれ。」
「椿さん。それでは、お邪魔します。」
桜木は無表情でそう言ったが、俺はなんとなく彼女が少し喜んでいるような雰囲気を感じた。しかし、それは気のせいだったのか。さっさと彼女はリビングからキッチンへと向かった。そして、あたかも自分の家であるかのように、給湯器のスイッチを彼女は弄った。リビングのソファに座った俺は、そんな彼女を見ていると、いつの間にか彼女は料理を始めた。
「桜木の料理か。どんな物なんだろうな。」
俺は、そんな事を思わず口に出したが、彼女の耳には届いていないようだ。彼女は手際よく調理を進めていく。すると、お風呂が沸いたようだった。
「椿さん。先にお風呂に入ってきてください。」
そんな桜木の言葉に従って俺は、お風呂に入ることにした。脱衣所で服を脱いでいると、洗濯機の上に着替えが置かれているのに気が付いたので、それを着ることにした。下着とTシャツだ。そして、浴室へと入る。シャワーを浴びて体を洗い始めた。俺は明日、米倉と早川をどうすればいいのかを考えていた。そんな思考をぐるぐるとしていると、ずっとシャワーだけを浴びている自分に気が付いた。
「はぁ。」
俺はため息をつきながら、シャワーを止めて、湯舟につかった。湯舟に浸かりながら、桜木という仲介者が明日も上手いことやってくれないかな、なんてことを考えていた。しばらく、そんなことを考えていると、一向に疲れが取れた気がしない。俺は、さっさとお風呂から上がることにした。バスタオルで体をふき取り、脱衣所にある服を着た。リビングに戻ると彼女は料理をしていた手を止めたようだった。彼女の来ている服が変わっていた。夏服のセーラー服から、ピンクのパジャマ、そのゆったりとした服の上からエプロンをしている姿へと。彼女は、どこからそんな服を出してきて、着替えたのか?俺は疑問に感じたが、アパートを一瞬で『あったこと』にしてしまう桜木へは、もはや何の疑問を持たないことにした。
桜木はこちらを向くと、俺に向かって言ったのだった。
「椿さん。そこで待っていてください。」
淡々とした彼女の声の調子は変わらない。しかし、桜木のその様子でなんとなく分かるのが、彼女からリラックスしているような緩い雰囲気が流れていた。それは彼女が、パジャマを着ているからだけではないはずだ、たぶん。俺がそんなことを思っている間も、彼女はキッチンで料理を続けていた。俺はソファに座ってテレビをつけることにした。適当に番組を見ていると、彼女が料理を運んできた。そしてそれをテーブルに並べ始めたので、俺も手伝うことにした。
「風呂には入らないのか?」
「夕食の後に入らせていただきます。」
桜木はそう言った。俺はこいつとは、ほんの短い付き合いだが、なんとなく彼女は、食事が好きなんだなということを感じていた。
リビングにあるテーブルに所狭しと料理が並んでいた。肉と野菜の炒め物、それとは別にチキンステーキ、コンソメ―スープ、ドリアのような手のこんだもの。ロールキャベツ。サラダ。そしてなぜか冷凍ピザが調理されて真ん中に置かれている。二人の食事としては明らかに多いような?冷蔵庫の中身をすべて使い切りたいかのような料理だ。まあ、お金は両親が払っているのでいいだが。中身を補充をするのは面倒だ。明日、学校の帰りに買い出しに行かなければ、と俺は思った。俺は、彼女の料理を食べることにしたのだった。
「どうぞ召し上がってください。」
彼女は相変わらず無表情でそういった。
「いただきます。」
俺はそう言ってから、肉と野菜の炒め物から食べ始めた。一口食べると、それは美味しかった。
「美味しいな!」
そんな俺の言葉に対して桜木は、特に何も言うことはなかったし、料理を食べることに熱中しているようだった。俺もそれ以上は何もいう事は無かったが、彼女は、黙々と食事を続けたのだった。
「ごちそうさまでした。」
俺は、まだある料理を後目に、そういうと、自分の食器をキッチンへと運んだ。そしてそのまま洗い物をすることにした。桜木はというとまだ、料理を頬張っている。リスのように頬を膨らませてもぐもぐと。俺はそんな桜木を横目に見ながら、食器を洗っていくのだった。
「ごちそうさまでした。それでは、私はお風呂に入ります。食器は置いておいてください。お風呂から上がったら、私が洗います。」
彼女はそう言ってから、リビングを出ていった。風呂場のドアが開く音が聞こえた。俺はそれを聞きながら食器を洗い続けたのだった。夕食のほとんどは、桜木の胃袋へと消えていった。仲介者って食事量が多いかな、と俺は思った。彼女は自分で洗うとは言っていたが、俺は彼女の分まで食器を洗うことにした。全ての食器を洗い終えたくらいで、彼女が風呂から出てきたようだ。桜木は、さきほどとは違うパジャマ姿だった。黄色いパジャマ。頭には、同じ色のナイトキャップがしてある。それらをどこから出したのか疑問だが、もう考えるのは止めた。四次元ポケットでも彼女は持っているのだろう。
「椿さん。私の食器まで洗ってくれて、ありがとうございます。」
「ああ、気にしないでくれ。」
そんな会話を交わしながら、俺はキッチンの蛇口を捻って水を止めた。俺が、リビングに戻ると桜木はソファに座っていた。彼女は、隣に座るようにジェスチャーをしてきた。俺は桜木の隣に座った。彼女の短い髪からは、ミルクのような甘い匂いが漂った。
「椿さん、少し話をしましょう。」
「ああ。」
俺はそう答えると、桜木はこちらを見た。その無表情な顔を俺に向けたのだ。
「米倉さんの事ですが、明日、私が早川さんを誘導して説得するように仕向けてみます。」
「ありがとう。」
俺は彼女にそういった。無表情な桜木だったが、心なしかその顔が微笑んでいるように見えた。
「椿さん。そういえば、明日は何時に起床しますか?」
「いつも通りだ。……ええっと」
「なるほど、いつも通りですね。了解しました。」
桜木はそういった。
いつも通りで通じるのか、と俺は思ったが、それ以上は追及しなかった。
「それでは、私はそろそろ寝ます。何かあったら、いつでも起こしてください。」
彼女はそう言って立ちあがた。そして、まるで自分の家を歩き回るかのように、リビングから出ようする。
「えっ。おーい。桜木。」
俺は、彼女を呼び止めた。
「なんでしょうか?」
「桜木は、どこで寝るんだ。」
「私の部屋ですが?」
彼女は首を傾げてそういった。
「いや、俺の家だろう?そんなのどこにあるんだ?」
俺は彼女にそう言った。しかし彼女は無表情なままだ。そしてこう言ったのだった。
「この家の2階にある、私の部屋ですが?」
「いや、2階には、俺の部屋しかないはずだ。」
俺は、彼女にそう言ったが桜木は全く別の答えをした。
「2階に私の部屋があります。既に椿さんの両親の許可も得ています。」
彼女は無表情でそういったが、俺はそんなわけにいくか、と思ったのだった。
……いや、しかし。
俺の脳裏に、ある考えが浮かんだ。
もしかして、この家の2階の部屋を桜木が増やしたのか?
「それでは、私はこれで失礼しますね。」
俺が黙っていると、桜木はそう言った。彼女が階段を登る足音が聞こえている。しばらくして、扉が閉まる音がしたので、俺は思考を中断した。そして、彼女の後から2階へと上がったのだった。
「あれ?」
2階の様子が少しだけ変わっていた。俺の部屋の扉の横に、もう一つ扉が出てきた。たしかに、俺の部屋の隣には、部屋が出来ているようだ。
俺は、自分の部屋の扉を開けた。俺の部屋で変わらない、ことは、まったく無かった。もとにあった俺の部屋からは、二倍ほどの広さになっており、その部屋には、桜木がいた。部屋の中央には、壁や隠すものはまったくない。しかし、まるで中心に透明の壁があるように、その中心を区切りにして部屋の様相が、まるで異なっていた。桜木がいる領域『桜木の部屋』は、まるで新築であるかのように、桜木が寝ているベッド以外に何も置いていない。ちなみにそのベッドの位置は、『俺の部屋』から一番の遠い壁に沿うように置かれていた。もう半分の『俺の部屋』の領域には、俺の私物が所狭しと置かれている。微妙に、俺が置いてあった棚などが移動されている。ベッドは、『桜木の部屋』から、いちばんの遠い壁に沿うように置かれていた。
「えっ?」
俺はそう言って、部屋の扉から覗き込むように、廊下側からこの部屋を見た。たしかに廊下側からみると、扉は二つに増えているのだ。しかし、二つの扉は、結局どちらも、このような奇妙に広い部屋に繋がっているだけなのだ。
「桜木?これは?」
「私の部屋を作りました。椿さんを監視する都合上、このような構造の部屋が最適だと思います。」
彼女は、ベッドから身を起こしてから、こちらを向いて無表情にそういったのだった。
「桜木さんの部屋というのは?」
「椿さんの部屋の隣にある、新しく作成した部屋になります。」
桜木は真面目にそういっているようだ。これは新時代のシェアハウスなのか? しかし、プライベートな個室を合体させるなんて前代未聞だ。というより、二つの部屋から壁を取り去れば、それはもはや一つの部屋である。単純にこれでは、俺の部屋が広くなっただけなのでは?と俺は思ったが、もはや突っ込む気力もなくなった。
「ああ、桜木さん。別に部屋ということで二つに分けなくてもいいかな?だって、この部屋は一つでしょ?」
「そうですか。椿さんがそれで良いというなら、私はそれでも構いません。」
桜木はそういった。そして、彼女はベッドに横になってそのまま寝始めたようだ。
「はぁ・・・。」
俺はため息をついた。そして、部屋の半分で区切り、それぞれに、LEDの電灯が二つある状態を見て、改めてこの仲介者の思考回路のよく分からなさを感じた。俺も明日に備えて寝ることにしよう、と俺は思った。そして、桜木を起こさないように、と俺も自分のベッドに入り、そのまま寝ることにしたのだった。