その笑顔に隠れて
ディオロイ城外の森の中、シャロに無理にお願いして外見を変え外に出たシャーロット。不安そうな顔でキョロキョロと周りを見渡しながら少しずつ少しずつ歩く。リリーも先に進んで木の枝に止まりシャロの様子をみた後、また戻って肩に乗るを繰り返している
「そんな風に歩いていたら、変に見られるよ、変な奴って」
「うるさいわね。外に出て歩くなんてはじめてなのよ仕方ないでしょ」
「はじめて歩くなんて余計に変なの」
「そんなに喋る鳥に変って言われたくないわよ」
言い合いをしながらも町に向かっていくリリーとシャーロット。草むらに隠れている虫や蝶に怯えながらディオロイ城から一番近い町のニアという村に進んでいく
「やっぱり魔術師なんかに容易く頼むんじゃなかったわ」
いつも庭や広場がちゃんと整備されているディオロイ城とは違い森の中やデコボコ道を歩いて疲れたシャーロットが不機嫌そうに呟く。一方リリーは疲れた様子もなくご機嫌で歌を唄いながらシャーロットの少し前を歩む
「やっと着いた」
森を抜けニア村に着いた感動もなく、はぁ。とため息をつく。少し木にもたれて息を整えている間に先に村に行っていたリリーも戻り、シャーロットがいる前の道をふと見ると、今度はお昼の準備で忙しそうに通りすぎていく人達で溢れていた
「で、パン屋はどこなの?」
「あっち」
リリーがシャーロットの前にある家とお店の間の路地に向かって少し飛んでいく。シャーロットも続いて路地を歩く。歩くとすぐに大通りに出る道に出てリリーが先に進む。シャーロットも大通りに出ようと一歩踏み出した時、歩道に人がたくさん集まっているのが見えた
「あれはなに?」
シャーロットが人混みに近づいて、人混みの真ん中で村人達が話しかける人を見た。リリーも輪に入ろうと駆け寄った時、シャーロットが慌てて来た抜け道に戻っていった
「どうしたの?行かないの?」
「ダメよ、あの中にお母様がいる……」
と、リリーに返事をしながら来た路地裏の物陰に隠れて様子を見る。その間にも歩道にたくさんの村人が集まっていた
「ノース様、お久しぶりです」
「久しぶりね、町に変わりはないかしら」
「ええ、クローム様とノース様のお陰で町は平和です」
ディオロイ城にいるシャーロットも見慣れた警備の者を多数引き連れてやって来たノースが村人の返を聞いてニコリと微笑む。その笑顔につられて子供達も笑う。ノースが子供達の頭を撫でて会話を楽しんでいると、男性の老人がノースに声をかけた
「ノース様、今日はクローム様とご一緒じゃないのですか?」
「ええ、今日は隣国の会議に出掛けているから、私一人ね」
「それは寂しいですね」
「いえ、皆さんの生活のためですから」
ノースがそう言うと人々が顔を見合わせ頷く。その後は他愛もない話をしてのんびりとした一時が過ぎていく
「何の話をしているのかしら」
まだ隠れて様子を見ていたシャーロット。もっと話の内容やノースの姿を見ようと、隠れているお店の角から少しずつ顔を出していく。リリーもシャーロットの肩に乗り一緒に見る。もっと様子を伺おうと隠れて見ていた体がだんだんと斜めになっていき、ぐらりとバランスを崩してシャーロットがよろけ、リリーも慌てて逃げた
「シャロ。危ないよ、気をつけて」
「シャロじゃないわ!」
リリーの言葉に反射的に大声で言い返したしゃー。慌てて手を塞ぎ先ほど歩いた路地裏へと逃げるように走った。リリーも後を追うように路地裏に向かう。その後すぐ声が微かに聞こえたノースがシャーロットがいたお店の方に目線を向けた
「どうしましたか?」
ノースが目線を向けたまま動かなくなり集まった人々が心配そうに声をかける。その視線に気づいたノースが心配を払うように人々に向けてフフッと微笑む
「いえ、声がした気がしたの。でも、気のせいね」