目と目があったら
一方その頃、シャロの家では、シャロがボロボロの古い本を右手に持ち、左手には何も書かれていない新書の本を持って立っていた。二冊の本のページを開いて、ゆっくりと深呼吸をし、両手に持つ二冊の本の間に、ふぅ。と長く息を吐く。すると、新書の本に古い本に書かれた文字が写し書かれていく。シャロが二冊の本を交互に見て、写した文字に変わりないか確認していく。新書の本の半分まで写した頃、家の外でドタバタと騒がしい音と声が聞こえた。シャロが音のする方に少し目線を向けると、手のひらにある二つの本はその隙に燃えて消えてしまった
「ダメか」
熱くなった両手の手のひらを見つめ呟く。熱い手のひらを誤魔化すため何度か手を叩く。まだソファーの側に少し積まれて置かれた本から一冊手に取った
「記憶に残しておくだけだと惜しいのに」
「ちょっと待ちなさいよ!」
シャーロットの叫び声と、バタバタと飛ぶリリーの翼の音が家に響き渡る。リリーがシャロのいるリビングまで来ると、シャロの周りをグルリと回った
「リリー、うるさい」
「うるさいのはあっち。こっちは何も言ってないよ、うるさくない」
「あっちって何よ!私にはちゃんとシャーロットって名前があるのよ!」
リリーから少し遅れてリビングに来たシャーロットが大声で言い返す。シャロが少し振り向いて、シャーロットと目線が合う。すぐにシャロと目線を反らすようにリリーと買いに行ったパンや果物が沢山入った袋を近くにあったテーブルに置いた。リリーが袋に近づいて、シャロも袋に目線を向けた時、手に持っていた本がまた独りでに燃えはじめた
「えっ、何をしてるの……」
「なにって、燃やされたの」
「ここの物も燃やされたの?魔術で?」
燃えて無くなった本に驚くシャーロット。リリーも赤くなった手のひらを見つめるシャロを心配そうに周りをグルリと回って肩に乗る
「ねえ、あなた本当に魔術が使えないの?」
「ええ。そうよ」
「魔術が使えないなら何が出来るの?」
シャロの問いかけにシャーロットが袋を探りだし、一番長く硬いパンを持ち天井に向けた
「剣術よ。この世で私に勝てる人なんていないわ」
シャロの質問にパンを天井に向けたまま声を高らかに言うシャーロット。その様子をシャロとリリーがただじっと見つめている。視線に少し恥ずかしくなったシャーロットがパンを下ろした
「な、なによ……」
「別に。変な奴」
そう言うと、リビングの入り口の方へと歩き出すシャロ。肩に乗っていたリリーもテーブルに移動すると、シャロが少し振り向いて、シャーロットとまた目線が合った
「お風呂入ってくる。リリーと適当に過ごしてて」