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プロローグ

 

 迸る炎。それを纏ったレイピア。

 果たして勇者は魔王を殺せるのか。


 ようやく魔王城へ辿り着いたのだと、ここで終わってたまるかと青年は改めて己の心を叱咤する。


「悪いが、人類のために倒させてもらうぞ、魔王!」


 勢いよく走りだしたのは、勇者の一人、金髪碧眼のルイス・クラッド。ここまでやってきたという事実が生み出す自信故か、十七歳という若さ故か、あるいは他の魔族を食い止めてくれている仲間たちを思ってか。様々な理由から、勇者は剣を構えて走る。


「やれるものならばやってみよ!」


 対するは魔王。赤と黒が入り混じったような複雑な色味の長髪を振り乱し、動じることもなく淡々と魔法を発動させる。表情は無に近く……いや、何も考えないようにしているようだ。あえてポーカーフェイスを保っている。


「はああああああああああああああああッ!!」


 かれこれ三十分ほど戦っている二人のうち、消耗しているのはどうみても剣聖ルイスだ。幾度となく使用した攻撃魔法と身体強化、回復によって魔力は底を尽きている。そもそも、彼は剣聖だ。魔術師は他のメンバーでいつもはその人がバックアップをしているのだが、今回は魔王城入口での他魔族の足止めを任せているため、この場にはいない。


 もはや剣以外の攻撃手段を持たなくなった剣聖ルイスは、捨て身の攻撃をせざるを得ない。願うは人類の平和。魔族の滅亡。ただそのためだけに、己の命を使う。


「……ふん。見飽きたわ」


 初めての攻撃だったはずなのに、魔王はそういった。けれどその意味を考える余裕は今の剣聖ルイスにはない。振り上げた剣を止められることもない。重力に従って、剣は落ち。


 魔王の脳天をたたき割る前に、四方から現れた魔法陣が出した鎖がルイスの両手両足、剣を縛った。拘束用の魔法だ。これではもう、身動き一つとれない。


「くッ……こんな、もの……ッ」


 手足の肉に食い込む金属の感触から意識を背け、剣聖ルイスは気丈に魔王を睨む。


「たとえ、俺が死んだとしても……いずれ次の勇者が現れるぞ、魔王!!」


 予言をするようにそう言った剣聖ルイスだが。


「それは、あり得ない」


 魔王はそれだけ返すと、剣聖ルイスの首をあっさりと撥ねてしまった。


「いつの世も、勇者はお前だ」


 剣聖ルイスはもう死んでいる。魔王の言葉は届かない。


 剣聖ルイスの首から血が噴き出し、魔王の顔を汚して。拘束用の魔法が消え、開放された剣聖ルイスの胴体はどさりと地に倒れた。


 世界が、白色をした淡い光に包まれ出して。


「……また、駄目だったか」


 魔王はその場を離れ、窓へと近づいた。外には勇者軍を倒そうと必死に奮闘し、悲しくも返り討ちにあった仲間の魔族たちの亡骸が転がっている。魔王が戦っている間も、彼ら魔族は果敢に剣聖ルイス以外の勇者に挑んでくれていたのだ。そうして、魔王は見事剣聖ルイスを倒せたのだ。


 だというのに。


 淡い光が全てを包んで。次の瞬間、真っ白で何も見えなくなったその空間に、文字が浮かぶ。


『コンティニューしますか? Yes or  No』


 人間の言葉でそう書かれている。


「……忌々しい」


 魔王がそう吐き捨てると同時、まだYesもNoも選んでいないというのに、いつもの如くYesの文字が赤く輝きだして。


 白い光が消えた時、世界は五年、巻き戻っていた。


 立ち位置は先ほどと同じ窓辺だが、剣聖ルイスの遺体も何もそこにはない。あるのはただ、外から差し込む日の光だけ。


 魔王は窓枠に手をかけた。まるでもたれかかるように。


 ──分かってはいた。予想はしていた。だが……。


「どうすれば、魔王軍は勝利を掴めるんだ……?」

 

 魔王の言葉はあまりにも弱弱しい。


 そう、世界は幾度となく繰り返している。これは、五十三回目の世界だ。

 魔王が勝つたびに、勇者が死ぬたびに。世界は勇者選別式が開かれた五年前にさかのぼる。


 それだけでも十分絶望的だが、これに追加して、揺るがないルールがこの世界にはあるのだと、魔王はその経験から知っている。どんなに抵抗しようと、選ぶ選択肢を変えようと、それはきっと絶対の理なんだろうと。

 一つ、魔王と勇者軍の最終決戦は勇者選別式より五年後である。

 二つ、どんな策を練ろうと最終決戦の日まで勇者軍が死ぬことはない。


 そのあまりの理不尽さに、魔王の心が軋む。


「世界は、我らの勝利を認めない……」


 今日からまた、五年間。

 来る運命に逆らうべく、俺は。魔王イグナイト・ロキは。

 運命をすり抜ける方法を、模索するのだ。


一話も書き溜めていないですし、同時進行で複数連載しているため投稿は極めて遅いかもしれません。すみません。でもちゃんと書きます。


魔王討伐を描く話は多いのに、魔王視点は少ないな、と思って勇者討伐御一行を描くことにしました。のんびりとお読みくだされ。


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