第02話 試練の中で
修行開始から3日目の午前9時、僕は一つ目の試練をクリアするべく大岩の前に立っていた。
「カグラ様、今から1時間経つまでにこの大岩が再生出来ないように粉砕して下さい。この大岩を粉砕するには、特に魔素が重要になるので…カグラ様期待してますよ。」
「りょーかい!任して!!」
「それでは、始め!」
よし、とりあえずいろいろ試してみるか。
まずは…
「はっ!!」
[ゴンッ]
「痛ってえぇぇ!」
魔素無しで大岩を殴ってみるが大岩はびくともせず、自分の手がとてつも無く痛んだ。
流石に生身だけじゃ無理だったか…それじゃあ、
「ふっ!」
自分の拳に魔素を集中させる。自分の拳が白く光るとかっこよくて何だか気分が上がるな。よし、じゃあこの魔素をどうやって扱うのが正解なのか、一つずつ試してみるか。
まずは、魔素を拳に纏わせて殴る。生身より純粋に強化されてるはずだしさっきよりは手応えがあるはずだ。
「はぁっ!」
[ドゴォッ]
「おおっ!結構いったなぁ。」
大岩が殴ったところを中心に大きく削れている。
魔素を纏わせるだけでこの威力の違い、魔素ってやばいな、、、改めて。
[ギュイン]
音と共に大岩の削った部分が元通りに修復されている。
「なるほどぉ、ほんとに元通りに修復されているなぁ。」
でも、思ったより再生スピードは、速くないな。
これなら連続で殴り続ければ行けるんじゃないか。
よし、やってみるか。
「でりゃりゃりゃりゃゃゃ!」
[ドゴォッドゴォッドゴォッ!!!]
激しい音と共に大岩が貫通した。
「よっしゃ!これでどうだっ!」
[ギュイン]
あんなけ大きな穴を開けたのにすぐに元通りに修復されてしまった。
これでもダメか、何がダメなんだ?魔素を纏わせることは、出来ているはずなのに。僕の殴り方がいけないのか?確かにお父さんに少し殴り方を教えてもらっただけだから、殴り方が良いわけないけどそしたら今の僕ではこの試練をクリア出来ないということになってしまう。それに、彼女がこの試練は特に魔素が重要といってたから殴り方が良いのか悪いのかは、関係ないと思うし。ん〜どうすればいいのか、もっと強く効率よく魔素を利用できる方法があるはずだ。例えば、魔素を集めることが出来るのなら、この集めた魔素を一気に放出することも出来るんじゃないか?そうすれば、もっと強く大岩を殴ることが出来る!
「よし!早速やってみよう!」
まずは、拳に魔素を纏わせて、
「ふっ!」
[ポワン]
そしたらこの纏わせた魔素を押し出す感じで放出させる!!
「はぁっ!」
[ポスッ]
おおっ!ちょっとだけだけど魔素が拳から放てている。
「よし!これを何回か繰り返してコツを掴んでいこう。」
20分後
「でりゃあっ!」
[ボンッ!!]
拳から白い魔素が音を立てて勢いよく放たれた。
「よっしゃぁぁ!出来た!!これならあの大岩も壊せるぞっ!」
案外、速く習得できたな。試練の制限時間まであと30分くらいか、これならクリア出来そうかな。
僕は再び大岩の前に立ち、
「だりゃあっ!」
[ボンッ!!]
さっきのように思いっきり、大岩に向けて魔素を放出させる。
[ドッガァァン!!!]
凄まじい音を立てながら今までとは、比べものにならないくらいに威力が上がったことを全身で感じる。今回は、一発で大岩を貫通さした。だけどこれじゃあまた大岩が再生してしまう。なら、さっきのように連続で殴り続けるだけだ!
[だららららぁぁ!!]
[ドガガガガガガァァァン!!]
殴るのをやめた時にはもう大岩の形は何処にも残っていなく、再生もされなかった。
「一つ目の試練クリアおめでとう御座います。カグラ様余裕でしたか?」
彼女が突然現れて、僕に言った。
「いや、そうでも無かったよ。魔素を放出させるっていう考えを思いつかなかったらクリア出来て無かったと思うしね。」
実際、魔素の集め方と纏わせ方しか教わっていなかったし、殴れるなどの体の使い方も教わっていなかったから、クリア出来たのは、奇跡なのかもしれない。
「そうですね。本当だったら明日から教えるつもりの技術だったのですが、さすがカグラ様ですね。」
「まぁね♪」
(カグラ様、嬉しい時にすぐ顔に出ますね。)
なんか、生暖かい目を向けられている気がする。
ちょっと顔に出てたかなぁ?まぁでも、
「さぁ、次の試練もさっさとクリアしちゃおう。」
「そうですね。2つ目の試練の準備は完了しています。いつでも大丈夫ですよ。」
見るとそこには、4箇所十字架に置かれた発射台のような物が置いてある。どうやって動かすのかなと思っていると
「この装置はカグラ様が真ん中の四角の範囲に入ってから、5秒後に動き出します。どの発射台から何処に石が飛んでいくかは、ランダムで、石がカグラ様に一つでも当たった時点で、発射台の動きが停止します。
カグラ様があの、2メートル×2メートルの四角の範囲から出ずに1分間石に当たらなければクリアです。」
んー2メートル×2メートルって結構小さいな。しかも発射台は、四角の範囲から0距離の所に置かれている。やってみないことには、分からないけど、頭で認識してから動いては、遅そうだ。
「結構難しそうだね。とりあえずやってみるよ。」
「はい、それがいいと思います。あ、そうそうこの試練では、魔素を見ることが特に重要なので、頑張ってください。制限時間は、1時間です。」
「りょーかい!」
「それでは、始め!」
さぁ、とにかくコツを掴むまで挑戦してみよう。
そう思い、早速四角の範囲の中に立った。
5…4…3…2…1…
来る!!5秒立った瞬間に、真っ正面の発射台から足が自分の顔目掛けて飛んできた。
[ヒュン]
ギリギリのところで左へ一歩進み、交わせた。
耳に石が通過していく音が聞こえたのも束の間、今度は、左側の発射台から石が、今度は自分の足目掛けて飛んできた。その石をまたギリギリのとこでジャンプして交わす。まだ中に浮いているところに、右の発射台から自分の横腹目掛けて石が飛んで来る。その石を着地と同時にしゃがんで避ける。
よし!避けれない速さじゃない。これならクリア出来そうだと思った瞬間、
[ゴン]
鈍い音が聞こえ、背中に痛みを感じる。発射台の動きも止まった。後ろの発射台からか…目に見えない物を避けるなんて、無理だ。なおさら、高速で飛んで来る石なんて避けようがない。
「ま、一発じゃ無理かぁ。あの後ろからの石をどうに
かしなきゃいけないんだけど、魔素を見るってどういうことだろう?」
魔素は、あれからちゃんと見えるようになっているし、なんならさっきも魔素の流れを見て何処の発射台から石が飛んで来るのかを判断していた。発射台が動くとき、発射台周辺の魔素も一緒に動くので魔素を見た方が分かり安いし避けやすくなると思っていたし、彼女に魔素を見ることが重要と言われたので魔素を見ることはさっきの間でしてたのだ。だけど、魔素を見て避けるという事をしていたからこそ後ろの石をどう避けるか分からなくなってしまう。
とにかく、考えてもいい考えは思いつきそうに無いしとりあえず挑戦してみよう。何回もやっていたら、少しでもなにか掴めるかも知れない。
ー約30分後ー
「ダメだぁぁぁ」
あれからもう15回以上は挑戦しているが後ろから来る石をまだ1回も避けられていない。発射台から出る音を聞いて避けようともしたが、発射台から出る音なんて聞こえなかった。流石に何か考えないとまずいなと思い少し考えて見るとふと初めて魔素を見たときを思い出した。
「そういえば、あのときは自分の後ろ側まで見えてた…自分を上から見ているようなそんな見え方だった気がする。」
まるで第3者目線の様だった。あの感覚を取り戻せれば、この試練をクリアできる。そう直感した。
ゆっくりと四角の範囲の中へ行き目を閉じる。
暗闇の中で風の音だけ聞こえる。
[ポワン]
魔素が見える。自分を上から見ているような感覚、自分の後ろ側まで見えた。
目を閉じて魔素だけを見ると、この景色が見られるのか。
[ポワン]
自分の正面から魔素の塊が飛んで来る。
石も魔素の塊になって見えていると理解する。
2歩右へ動く。
[ヒュン]
自分の左側を通過していく。
[ポワン]
今度は右、次は左、また正面、そして後ろ
後ろから飛んで来た石を左へ避ける
(あぁなんか動きが遅く感じる、視界がいつもより広いからか)
[ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン]
最初の余裕の無い姿は無く、ゆっくりと脱力した状態でひらりはらりと避けていく。
しばらく避け続けていると、魔素の塊が飛んで来なくなった。
「おめでとうございます。カグラ様、2つ目の試練クリアです。これで試練は終わりです。よく頑張りましたね。」
どうやら1分経ったらしい。
「ありがと。でも、たぶんこれ正攻法じゃないよね。何となく分かるよ。」
あの景色を見ていた時、自分の魔素を見る力以上の景色を見ていた。初めて魔素を見た時よりももっと繊細に見えていたんだ。たぶんこの試練は、こんな難しいことをしなくてもクリア出来る。
「はい、その通りです。この試練は、魔素の流れを見て石を避けるのが正攻法です。石が発射台から放たれる直前、飛んで来る方向の魔素が動き、その魔素の動きを見て避ける。これは、カグラ様が最初に魔素を見ていた景色でも可能なことです。後ろから飛んで来る石も、他の方向に比べたら分かりにくいものの、落ち着いて見ていれば簡単に分かります。」
そうだったのか、そんな簡単な事だったのに…試練はクリアしたけど、あんまり素直に喜べないな。
「そう落ち込まないでくださいカグラ様。もしかすると、スキルの発現の可能性があります。」
「スキルの発現?どう言う事なの?」
「はい、ではまずスキルについてお教えします。
簡単に言うとスキルとは、ある条件を満たすと発現するアシスト機能の様なものです。スキルを発動させるとスキル中のみ、自分の実力以上のことが出来る様になります。例えば、剣で鉄を切る事が条件で発現する『鉄剣斬』と言うスキルがあります。初めて鉄を剣で切ることが出来た時、鉄剣斬がその場で自動的に発動します。スキルは1回発動出来れば、スキル名を言えばいつでも発動できる様になるので戦闘
中などで使うことが出来るのです。」
ん〜、難しいなぁ。とにかくスキルを使うと普段より強い攻撃が出来るってことかなぁ?
「じゃあ、皆んな戦う時は、ずっとスキルを使って攻撃してるの?」
「良い質問ですね。実は、スキルを発動するには、スキル名を言うだけで無く、スキルモーションを取る必要があるのです。この2つを行うとき、僅かな隙が生まれます。また、スキル発動後は体が一瞬動かなくなる硬直時間がありスキルの連発は、あまり出来ないんです。」
「じゃあスキルに頼らない、攻撃も混ぜていかないと行けないんだ。」
「その通りです。」
スキルかぁ、なんかかっこ良さそうだし使って見たいな。でも、さっきの違和感と何が関係あるんだろう?
「では、説明に戻りますよ。」
「うん、お願い。」
「この世界には、大きく2種類のスキルに分けられ、先程例に出した『鉄剣斬』の様な、敵を攻撃する為のスキルである、攻撃スキルと敵を攻撃する事以外のスキルである、支援スキルがあります。因みに、支援スキルとは、スキル名を言うだけで発動でき、硬直時間もありません。スキル内容としては、自分への強化スキルや、付与スキルなどがあります。そして、攻撃スキルの中の魔法攻撃スキルと支援スキルの使用には、魔素が必要になります。スキルの規模が大きいほど、魔素の使用量が多くなり、自分の魔素量以上のスキルは、発動することが出来ないんです。」
「攻撃スキル….支援スキル…魔素量…いろいろあって難しいなぁ。でも、」
彼女の話しの中に出て来た支援スキル、もしかして彼女が言っていたスキルの発現が本当なら…
「もしかして、さっきの視覚って!」
「はい、支援スキルにより強化されていたのでは、ないかと思います。」
「どうしたら、スキルが発現されたのか分かるの?」
「そうですね、カグラ様今から私が言う言葉を真似して見て下さい。」
「りょーかい!」
「それでは、言いますよ。『感知強化・全』」
『感知強化・全』
[ポワン]
あぁこの景色だ。魔素の流れが真っ黒な世界に白色の魔素が良く目立って自分の後ろ側まで見える。
「カグラ様、心の中で『オフ』と唱えて下さい。」
「りょーかい。」
心の中で…『オフ』
[シュン]
視界が元に戻った。
「今のスキルって、どんなスキルなの?」
「今のスキルは、支援スキルの中でも強化スキルの分類に入るスキルです。そして、感知強化とは、魔素や人などの気配を感知する能力を強化するスキルです。」
「なるほどぉ。じゃあ最後の『オール』ってどう言う事?同じスキルでも、他にいろいろ種類があるってこと?」
「正解です。感がいいですね。」
「だろぉー♪もっと褒めて〜。」
「前々から思ってましたけど、カグラ様褒められるの好きですね…」
「もちろんだよ!褒められて嬉しくない人なんていないでしょ!」
「そうですか。そんなことより、話を戻しますよ。カグラ様が言われた通り、強化スキルには、いくつか種類があります。例えば、カグラ様が発現させた『感知強化』には、感知範囲を強化する『範囲」、感知精度を強化する『精度』、感知出来る物の種類を強化する『種類』そうですね…例えば、魔素の他に人や動物が感知出来る様になります。この様な3つの種類があり、この全てのスキルを習得する、または全てのスキルの発現条件を満たすことで『全』スキルが発現します。」
「じゃあ僕は、その『範囲』、『精度』、『種類』の発現条件を満たしてたってこと?」
「そういうことですね。因みに『感知強化』の発現条件が、魔素の流れを完全に見ることが出来ると言う物で、『範囲』、『精度』、『種類』の3つはそれぞれ、一定以上の範囲を一定以上の精度で見ることができ、一定以上の種類の魔素を見分けることが出来ることが条件です。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って?一定以上出来ることってどう言うこと?すごく曖昧な条件じゃない?」
「その通りです。スキルとは、まだ謎が多く発現条件が完全に分かっていない物も幾つかあります。なので一定以上などの曖昧な条件しか分かっていない。と言う方が正しいですね。例えば、スキルは、人によって向き不向きがあり発現条件が若干変わるなんて事も言われているのです。」
「へ〜。ほんとスキルって難しいね。頭パンクしちゃうや。」
「まぁ、スキルってそんな物なんだなぁくらいで頭に入れといて下さい。」
「はーい。」
長いスキルの説明が終わり、肩の力が抜け、疲れがどっと来た。体が重い。思わず地面に座り込んでしまった。何でだろう。こんなに疲れた事今まで無かったのに。
「さすがのカグラ様でも、疲れが見えますね。まぁ、当たり前でしょう。魔素の大量の放出や新しいスキルの発現でカグラ様の体の中の魔素が枯渇してしまって今す。魔素が枯渇すると、とてつもない疲労感に襲われるので気をつけて下さいね。」
「………………………」
「カグラ様?」
返事が無いですね。座って俯いているカグラ様を除き込んだ。
「カグラ様、眠ってたのですね。」
まぁ、当たり前でしょう。1回目の試練の日で試練を2つともクリアしましたし、今日は、このまま寝させてあげましょう。
カグラ様を起こさないように寝床を出し、寝かせてあげ、
「おやすみなさい。」
と、ささやいた。