結婚して、菊池じゃなくなったわたし
本名より、ここの名前のほうがしっくりくる(笑)
※ コロン 先生主催の【菊池祭り】参加作品です
※noteにも転載しております。
長年揉めていた、夫婦別姓/同姓問題に決着がつき、新法案が作成されたのが、5年前。わたしたちがつきあいはじめたのも、この頃だった。
新聞は読まずに、ネットのニュースの見出しでしか、この話題を知らなかったわたしだけど。苗字なんてどうなろうと、わたしたちが結婚するときはそんなこと、障害にもならないよねって冗談めかして言ってたっけ。
そして、5年後のいま。
可決した法案から、新法が施行されてしばらくした頃に。ちょうど、ふたりの結婚が決まったのは、運命でも、ましてや作為でも、きっかけでさえもない。
ほんと、ただの偶然である。
「菊池さんおめでとう!」
「菊ちゃん、幸せになってね」
友人たちからのあたたかいエールと、純白のウェディングドレスに包まれて。わたしはまさに幸せの絶頂。
短い結婚式と、じゅうぶんに長い披露宴。
そしてここから、ぐだぐだの二次会に流れこむのだが。
そしたら、なんだかんだで、ここらへんまでがきょうのピークよね。
ドレスから着替えたら、披露宴には招待されてない組も合流して。実質、新郎側と新婦側の合コンという趣になる。当事者のわたしたちそっちのけで、目の血走った未婚の連中が跋扈する戦場。平和なのはもうしばらくだけだ。
「原、よくこんな美人つかまえたな」
「原くん、絶対に尻に敷かれるよね」
二次会未経験者である、わたしのお相手は、ここからくりひろげられる闘いの予感も肌に感じることなく。そっちの友人からの祝福に、ひとの善い笑みを返すばかり。
「ありがとう。
でも、おれたち、もう『原』でも『菊池』でもないんだからさ」
照れながら言う彼に、顔を見合わせたわたしたちの友人一同は、示し合わせて揃えた声で、改めての祝福のことばをあげるのだった。
「『菊池原』夫妻、ご結婚おめでとう!!」
夫婦別姓/同姓問題は、二者択一としては解決を見ることが出来ずに。結局、横槍を入れるような第三案が採用されることになった。
夫婦合姓——結婚したふたりの姓を繋げて、新しい苗字を得るのである。
これなら、ふたりとも旧姓を残せるし、家系というルーツも明らかにできる。まさに瓢箪からコロンブスの、画期的な発想だったわけである。
いや、ひと世代めの夫婦はまだふたつの苗字をくっつけるだけだからいいとしても、つぎのふた世代めは、くっつける苗字、よっつぶんだぞ?
第n世代には、2のn乗(nは自然数)。政治家は数学できないのか???
新法が施行されてからも、批判はずいぶんとあるのだけれど。イタリアかどっかでは、歴代の先祖のファミリーネームをずらりと並べることなど、珍しくないとかで、国際的には評価は悪くないらしい。
だいいち、そう決まってしまった以上、一般市民であるわたしたちがどうこう言っても、なにかが変わるわけでもなし。
わたしたちは、望んで『菊池原』になったのだ。
それでいいし、それ以上はどうでもいい。
わたしと、彼、ふたりの『菊池原』は。
死がふたりを分かつまで、ともに支えあい、愛を育むことを誓います♡♡♡
ちなみに。
「望んで『菊池原』になった」とは、婚姻を結んだという以外に、もうひとつの意味で、でもある。
これはふたりで婚姻届を役所に届けに行ったときのことだ。
届けを受理すべく、記載項目をチェックしていた、親切そうなお姉さんがわたしたちにこう告げた。
「『菊池原』だと、新婦さまのお名前がさきになりますが、よろしいですね。
新郎さまのお名前がさきの、『原菊池』もお選びになれますが?」
ふたりが平等に、じぶんの姓を尊重するための新制度なのに。結婚する本人たちは無頓着でも、そこでもどちらの姓がさきかで、男性優位に立たせようとする親族はいるもので、そういった確認をすることにしているの、と苦笑いする彼女に。
わたしたちは頷き合うと、迷わずこう答えた。
「『菊池原』でお願いします」
何世代かあとには、遺跡の銅剣とかに彫られてるような、長いフルネームになりますね。




