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結婚して、菊池じゃなくなったわたし

作者: 歌川 詩季
掲載日:2024/07/24

 本名より、ここの名前のほうがしっくりくる(笑)


※ コロン 先生主催の【菊池祭り】参加作品です


※noteにも転載しております。

 長年揉めていた、夫婦別姓/同姓問題に決着がつき、新法案が作成されたのが、5年前。わたしたちがつきあいはじめたのも、この頃だった。

 新聞は読まずに、ネットのニュースの見出しでしか、この話題を知らなかったわたしだけど。苗字(みょうじ)なんてどうなろうと、わたしたちが結婚するときはそんなこと、障害にもならないよねって冗談めかして言ってたっけ。

 そして、5年後のいま。

 可決した法案から、新法が施行されてしばらくした頃に。ちょうど、ふたりの結婚が決まったのは、運命でも、ましてや作為でも、きっかけでさえもない。


 ほんと、ただの偶然である。



「菊池さんおめでとう!」

「菊ちゃん、幸せになってね」

 友人たちからのあたたかいエールと、純白のウェディングドレスに包まれて。わたしはまさに幸せの絶頂。

 短い結婚式と、じゅうぶんに長い披露宴。

 そしてここから、ぐだぐだの二次会に流れこむのだが。

 そしたら、なんだかんだで、ここらへんまでがきょうのピークよね。

 ドレスから着替えたら、披露宴には招待されてない組も合流して。実質、新郎側と新婦側の合コンという(おもむき)になる。当事者のわたしたちそっちのけで、目の血走った未婚の連中が跋扈(ばっこ)する戦場。平和なのはもうしばらくだけだ。

「原、よくこんな美人つかまえたな」

「原くん、絶対に尻に()かれるよね」

 二次会未経験者である、わたしのお相手は、ここからくりひろげられる闘いの予感も肌に感じることなく。そっちの友人からの祝福に、ひとの()い笑みを返すばかり。

「ありがとう。

 でも、おれたち、もう『原』でも『菊池』でもないんだからさ」

 照れながら言う彼に、顔を見合わせたわたしたちの友人一同は、示し合わせて揃えた声で、改めての祝福のことばをあげるのだった。


「『菊池原』夫妻、ご結婚おめでとう!!」



 夫婦別姓/同姓問題は、二者択一としては解決を見ることが出来ずに。結局、横槍を入れるような第三案が採用されることになった。

 夫婦合姓(がっせい)——結婚したふたりの姓を(つな)げて、新しい苗字(みょうじ)を得るのである。

 これなら、ふたりとも旧姓を残せるし、家系というルーツも明らかにできる。まさに瓢箪(ひょうたん)からコロンブスの、画期的な発想だったわけである。

 いや、ひと世代めの夫婦はまだふたつの苗字(みょうじ)をくっつけるだけだからいいとしても、つぎのふた世代めは、くっつける苗字(みょうじ)、よっつぶんだぞ?

 第n世代には、2のn乗(nは自然数)。政治家は数学できないのか???


 新法が施行されてからも、批判はずいぶんとあるのだけれど。イタリアかどっかでは、歴代の先祖のファミリーネームをずらりと並べることなど、珍しくないとかで、国際的には評価は悪くないらしい。

 だいいち、そう決まってしまった以上、一般市民であるわたしたちがどうこう言っても、なにかが変わるわけでもなし。

 わたしたちは、望んで『菊池原』になったのだ。

 それでいいし、それ以上はどうでもいい。


 わたしと、彼、ふたりの『菊池原』は。

 死がふたりを分かつまで、ともに支えあい、愛を(はぐく)むことを誓います♡♡♡



 ちなみに。


「望んで『菊池原』になった」とは、婚姻を結んだという以外に、もうひとつの意味で、でもある。

 これはふたりで婚姻届を役所に届けに行ったときのことだ。

 届けを受理すべく、記載項目をチェックしていた、親切そうなお姉さんがわたしたちにこう告げた。

「『菊池原』だと、新婦さまのお名前がさきになりますが、よろしいですね。

 新郎さまのお名前がさきの、『原菊池』もお選びになれますが?」

 ふたりが平等に、じぶんの姓を尊重するための新制度なのに。結婚する本人たちは無頓着でも、そこでもどちらの姓がさきかで、男性優位に立たせようとする親族はいるもので、そういった確認をすることにしているの、と苦笑いする彼女に。

 わたしたちは(うなず)き合うと、迷わずこう答えた。



「『菊池原』でお願いします」

 何世代かあとには、遺跡の銅剣とかに彫られてるような、長いフルネームになりますね。

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菊池祭り
バナー作成/菊池(幻邏)先生
― 新着の感想 ―
[良い点] 数十世代後にはジュゲムになってそうな名字。多分そうなる前には妥協案が出て法改正されるとは思う。引き継ぐ名字は2代前までとか本人の希望で短縮可能とか。 いっそ名字を合体させるんじゃなく、2人…
[一言]  二世三世と、この先テストの時に苦労しそうです……。  あと幼少期のお名前シールも地味につらそう。  そのうち姓でなく名で呼ばれるようになるかもしれませんね。
[良い点] 全部バラして『きくちはら』をアナグラムにすれば解決だ! [気になる点] 家系図ではどちらに入るのか…… [一言] 最後はぜひダジャレで締めてほしかった
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