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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第39話:話

 執務室に入ると、アース様はまた紅茶を淹れてくれた。

 ことりとテーブルに置かれ、芳醇な香りが湧き立つ。

 互いに一口飲んだ後、アース様はいつにも増して真剣な表情となった。

 その真面目な雰囲気から、どんなお話なのだろうと緊張してしまう。


「君に伝えたい話とは……私の性格についてだ」

「え? アース様の性格でございますか?」


 考えていたのと違うお話で、思わず聞き返してしまった。


「ああ、そうだ。君は私と初めて会ったとき、どんな印象を抱いた?」

「そ、それは……えっと……」

「正直に言ってくれて構わない。いや、むしろ正直に言ってほしいんだ」

 

 そう言われ、初めて暗黒地底に訪れた日を思い出す。

 アース様にお会いしたときの感覚……。


「何というか……ちょっと怖かったです。何人足りとも寄せ付けない雰囲気というか……。あっ! もちろん、今は怖くなんてないです! 怖いどころか、すごく優しくて頼りがいのある方というか……!」

「いや、いいんだ。君がそう感じるのも無理はない。そう思わせるような……性格にしたのだから」


 ほんの少し俯くアース様の顔を見て、私は言葉を失った。

 今まで見たことがない感情が浮かんでいたから。

 それは……。


 ――……悲しみ。


 物憂げで物寂しい、悲しみの表情を浮かべたアース様。

 いつもの堂々とした力強さは消え失せ、代わりに暗い影が差す。

 その悲しげなお顔を見るだけで、胸が痛んだ。


「君も知っての通り、私は昔各地を旅しながら剣術の修行に励んでいた。もちろん、いずれは地底辺境伯を継ぐ身であることはわかっていたが、予想以上に早くてな。道半ばで剣術を断念したことや地底の劣悪な環境もあり、心が荒んでしまった」

「アース様……」


 呟くように話す様子は、いつもの気丈なアース様とまるで別人だった。

 元気がなく、私まで悲しくなってしまう。

 

「元々人嫌いな性分もあり、私は他人を遠ざけるようになった。いつしか、自分の心さえも地底のように硬く閉ざして……」

「そう……だったのですか……」


 アース様は疲れたような微笑みを浮かべながら話す。

 最初は怖い人だな、と感じたけど、まさかそんな理由があったなんて……。


「だが、君に会えて私は変われた。地底の生活をよくしようと、他人のために頑張る君を見て、私の心に光が差し込んだのを感じた。暗黒の闇に、天よりの光芒が差し込んだんだ。君は本当にすごい女性だよ」

「い、いや、しかし、私はただ好きな錬金術を好きなようにしていただけです」


 地底に来てから私がやったことと言えば、大好きな錬金術に没頭しただけ。

 すごくも何ともないと思っていたけど、アース様は静かに首を横に振った。


「好きなことに真剣に夢中になれる君だからこそ、私の心に光を差し込んでくれたんだ。だから、そんな君に伝えたいことがある」


 アース様は床に跪くと、そっと私の手を握った。

 優しく包み込むように……。

 

「フルオラ、私と結婚してくれ。ずっと傍にいてほしい」


 その言葉を聞いたとき、胸の中に一面のお花畑が咲いた。

 比喩じゃなく、本当にお花が咲いた気分だったんだ。

 だって…………大好きな人と結ばれて、心の底から嬉しかったから。


「はい……はい! 私もアース様といつまでも一緒にいたいです!」

「フルオラ……君が好きだ!」


 涙ながらに言う私を、アース様は力強く抱きしめてくれた。

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