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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第34話:月明かり

 な、なに!?

 突然の事態に混乱するも、すぐに抵抗を試みる。

 

「もがが……!」


 必死に暴れるも口には誰かの手が布越しに当てられ、噛みつこうにも噛みつけない。

 両手は後ろ手に捻り上げられており、こちらも動かせなかった。

 いったい、誰がこんなことを……。

 そう思ったとき、木陰で倒れていたはずの女性がむくりと起き上がった。

 この状況を知らせないと……!


「びべでっ(逃げてっ)!」


 どうにかして呼びかけると……女性はこちらに歩いてきた。

 やけに落ち着いた様子でゆらりと歩く。

 え! な、なんでっ!? 

 薄暗いけど不審者がいるのはわかっているはずなのに……!

 ふと雲が裂けて月明かりが差し込む。

 近寄るその顔が明らかになったとき、私は驚きで思わす動きが止まった。

 そ、そんな……この女性は…………。


「こんばんは。ずいぶんと良いドレスを着ているじゃないの。ねぇ…………お義姉様?」

「がるぎがっ(ペルビアッ)!」


 信じられないけど、目の前にいる女性は私の義妹、ペルビアだった。

 な、なんで宮殿にいるの……?

 月明かりに照らされると、彼女の髪型も明らかとなった。

 本来の地毛である茶色に戻り、初めて目にするポニーテールだった。

 ペルビアだと気づかれないよう、あえて髪の色や髪型を変えたのだろう。

 となると、これは計画的な襲撃だ。

 ということは、私を捕まえている人は……。


「ようやくペルビアに気づいたか。相変わらず、のろまな女だな」

「ばるびんああっ(ナルヒン様っ)!」


 覗き込むように私を見るのは、ナルヒン様だった。

 ペルビアはもったいぶるように、ゆっくりと歩きながら私に話す。


「あたくしたちはね、ずっとお義姉様に復讐したかったの。お義姉様が教えてくれなかったせいでお店は失敗するし、“錬金博覧会”でも大恥をかいた。あたくしが辛い目に遭ったのも、全部全部、お義姉様の責任よ」


 い、いったい、何を言い出すの。

 錬金術を教えようとしたことは何度もあるけど、その度に逆ギレされてしまった。

 そんなの逆恨みじゃない。

 口を押さえられて何も言えないでいると、ペルビアは勝ち誇った表情で言葉を続けた。


「ねえ、お義姉様。これからどうなるか知りたい? あんたはね、誘拐されるの。クーデターの計画に邪魔だから。あたくしはこの国の権力を手にするのよ」


 ク、クーデター?

 権力を手にする?

 物騒な話を聞いて心臓が不気味に冷たくなったとき、後ろからナルヒン様の焦った声が聞こえた。


「お、おい、ペルビアッ。話しすぎだぞ」

「別にいいじゃない。お義姉様はこんな状態だし。さてと……」


 ペルビアはニヤリと不適な笑みを浮かべながら、私の少し前に立つ。

 怪しげな小瓶を揺すりながら……。


「これを嗅がせれば、お義姉様は深い眠りに落ちてしまうわ。驚いた顔が見れたからもういいでしょう。さようなら、お義姉様。次お会いできるのが楽しみね」


 ま、まずい!

 意識を失ったらどうなるかわからない。

 急いで後ろ手を動かして、あれを取り出す。

 アース様に言われ、手首に巻き付ける仕様に調整したのだ。

 ペルビアが来る前に、思いっきりボタンを押した。

 ……お願い、アース様に届いて!

 

『ビビビビビッ!』

「な、何の音だ!?」

「きっと、お義姉様の魔道具よ! ナルヒン様、取り上げて!」


 《ビビー》を奪おうとするナルヒン様に力の限り抵抗する。

 どうにかして時間を稼がないと……。

 そう思った瞬間、突然、ものすごい轟音が轟いて身体が自由になった。

 え……な、何が起きたの?

 後ろを振り向くと、ナルヒン様は木の幹でぐったりと倒れている。

 私の目の前には、背の高い誰かが颯爽と現れた。

 片手を私の前に出す。

 ペルビアから私を守るように……。


「フルオラに危害を加えようとする者は、誰であろうとこの私が許さない」


 月明かりに、アース様の赤い髪が輝いた。

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