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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第33話:夜会

「フルオラ様、よくお似合いですよ。妖精や天使と言われてもおかしくありません」

「あ、ありがとうございます。ドレスが美しいからですよ」


 鏡の中のカリステンさんに話す。

 とうとう、夜会が始まる。

 今は王城の控え室で、身だしなみの最終チェックをしてもらっているのだ。

 カリステンさんが用意してくれたのは、濃いネイビーのシックなドレス。

 当初は真っ赤だったりピンクピンクなドレスを渡されたけど、落ち着いた印象のものを所望した。

 陰の者には荷が重すぎる。

 最後にウェストをきゅっと絞られ(き、きつい……)、支度は完了した。


「はい、これで終わりですよ。お疲れ様でございます」

「あの……本当にこんな綺麗なドレスを貰ってしまっていいのですか?」

「ええ、もちろんでございます。フルオラ様に着ていただき、この服も喜んでいることと思いますよ」


 なんと、日頃妹クリステンさんがお世話になっているから、ということでお店のお洋服をプレゼントしてくれた。

 たぶん……大変にお高いだろうに。

 値段の参考にしようと"リステン・リステン”に飾られた服をさりげなく見たけど、そもそも値札がついていなかった。

 引っかけて破かないようにしなきゃ……と、鏡でドレスの全体像を把握していたら、控え室の扉がノックされた。


「フルオラ、私だが……こちらの準備は終了した」

「あっ、私もちょうど準備が終わったところです。どうぞお入りください」


 控えめに扉が開かれると、アース様が入られた。

 その姿を見ると……思わず目を奪われてしまった。

 普段は黒っぽい服装をされているけど、今日は白と金を基調とした格好で、軍服を思わせる硬派なデザインがかっこいい。

 帯刀も正装のようで、腰からはいつもの長い剣が垂れていた。

 赤くて長い髪は地底にいる頃より手入れがなされ、歩くたびにさらりと揺れる。

 まるで……王子様みたいな雰囲気に、私は言葉を失ってしまう。

 緊張して話せないでいると、アース様がわずかに顔を背けながら言った。


「に、似合って……いる、と……思う。……綺麗だ」


 絞り出したようなアース様の言葉を聞き、じわじわと私の胸に嬉しさがあふれる。

 心が満たされ、充実感でいっぱいになる。

 魔導具が褒められたのとは、また別の喜びで……。


「アース様もいつにも増して……素敵でございます」


 素直な気持ちをお伝えすると、アース様は一瞬ハッとしたけど、すぐにほのかな笑顔を浮かべた。

 どちらともなく、ふふっと笑い合う。

 幸せだなと思ったとき、にまにまにま……という例の音が聞こえた。

 すかさず、アース様が厳しい視線を向ける。


「……カリステン、どうした?」

「いえいえ、妹の手紙通りだと思いまして」

「……そうか」


 軽く睨まれてもまったく動じないのだから、クリステンさんと同じように精神力も強いのだろう。

 カリステンさんは、にまにましつつも会場手前まで送ってくれた。


「それでは、わたくしはこれにて失礼いたします。どうぞお楽しみくださいませ」

「本当にありがとうございました、カリステンさん」

「感謝する」


 アース様と一緒に会場の大広間に入る。

 天井から吊されたシャンデリアが煌々と輝き、夜だけど昼間のように明るかった。

 片隅では小さなオーケストラの一団が厳かな曲を奏でる。

 さながら舞踏会のような雰囲気だ。

 すでに何十人もの貴族が食事やお酒を楽しみながらお喋りしていた。

 夜会といってもかしこまった形ではなく、気軽な会のそうだ。

 想像していたより幾分か緩い雰囲気に、私の緊張は和らぐ。

 しばし待つと、王様が何人かの年老いた貴族(見るからに高位っぽい)と談笑しながら現れた。

 まずはご挨拶を、ということで私たちは他の貴族に続いて王様の下に向かう。


「……国王陛下、失礼いたします。アース・グラウンド、フルオラ・メルキュール、ただいま参上いたしました」

「お招きいただきありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします」

「おおっ、ちょうどいいところに来たの! みなに紹介したい人物がおる。グラウンド卿の下で専属錬金術師を務める、フルオラ・メルキュール嬢じゃ!」

「「なんと、こちらが噂に聞く天才錬金術師、フルオラ嬢でございますかっ!」」


 王様に紹介されると、瞬く間に貴族たちに囲まれてしまった。


「暗黒地底を改善したという魔導具の数々! たくさんの噂を聞いておりますよ! ぜひ一度見学させていただきたいですな!」

「王様にも素晴らしい魔導具を作られたと聞きました! 座るだけで疲れが癒やされるとは、なんて画期的な椅子でしょうか!」

「私にも作っていただけませんか!? 日頃から長時間座ることが多いので、ちょうどそんな魔導具が欲しかったのですよ!」


 みなさん、大変に興奮したご様子。

 人だかりの隙間から壇上が見えると、《マッサージチェア》が置かれていた。

 昼間は"謁見の間”にあったはず……。 

 きっと、ここまで運んできたんだ。

 もっと軽量化しておけばよかったね。

 《マッサージチェア》を貴族たちに羨ましがれるたび、王様はご満悦となられる。

 どうやら、みんなに自慢したかったらしい。

 錬金術の話をされるたび悪癖が顔を出そうとするけど、ぐっと押さえつける。

 王様の手前、高貴な貴族の手前、暴走したら大変だからね。

 深呼吸して気持ちを整えたところで、貴族のみなさんから質問された。


「「あの《マッサージチェア》はいったいどんな仕組みなんでしょうか!」」


 私の決心は音を立てて崩れ去り、代わりに悪癖が元気よく炸裂した。


「よくぞ聞いてくれましたっ! あの椅子は<雷琥珀>の雷魔力が動力源で、マッサージ部分は<グミ石>の弾力性を利用して……!」


 自分の知識をお伝えすることで、みなさんにも錬金術の楽しさを少しでも感じてほしい……!

 そんな使命にも似た熱意に取り憑かれていた。

 しばらく話したところで、アース様のこほんっという咳払いが聞こえ我に返る。

 呆気にとられた貴族たちの顔を見て、私は不気味なほど冷静に思う。

 とある実感とともに。


 ――ああ……またやってしまった。


 いったい何時間話してしまったのか……。 

 恐る恐る大変に豪華な壁掛け時計を見ると…………まだ、三分しか経っていなかった。

 今度は私が呆然とすると、王様が嬉しそうな笑顔になった。


「どうじゃ! フルオラ嬢は幅広い知識を持っておるじゃろ!」

「「深い知識と理論の精密さに驚きました! あなたはお若いのに、噂に違わぬ素晴らしい錬金術師だ!」」


 貴族の方々も大盛り上がり。

 何が起こったのか、私にはもうわかる。

 また止めてくれたアース様に小声でお礼を伝えた。


「……ありがとうございます、アース様」

「私がいるときは遠慮するな。適当なところで止めるから」


 アース様が私の隣にいてくれてよかった……。

 色んな人とお喋りをし、お料理を食べていると、一度外の空気を吸ってリフレッシュしたくなった。

 会場はがやがやしているし、ちょっと疲れてしまったのだ。

 

「アース様、少し外の空気を吸ってきます」

「ああ、私も行こう」


 アース様と一緒にテラスへ向かおうとしたら、王様がこちらに来た。


「グラウンド卿、暗黒地底の話を聞かせてくれんかの? なかなか行く機会が少なくてな」

「承知しました、国王陛下。フルオラ、悪いが先に行ってくれ。私は後で行く」

「わかりました」


 私は一人でテラスに出る。

 周囲には森が広がっており、深呼吸すると夜の澄んだ空気が身体を満たした。

 今日は満月だけど夜空には雲が薄くかかり、ぼんやりとした明るみが周囲を照らす。

 賑やかな会場から一歩外に出ただけなのに、ずいぶんと静かだ。

 しばし静粛な雰囲気を楽しんでいると、木陰で女性がぐったりと倒れているのが見えた。

 大変だ!


「あのっ、大丈夫ですかっ!」


 テラスの階段を駆け下りて女性の下に向かう。


「しっかりしてくださいっ!」

「うっ……」


 ゆさゆさ揺すると、女性はわずかなうめき声を上げた。

 気絶しているだけのようでホッと安心する。

 早く誰か呼ばないと。

 そう思い、会場に戻ろうとしたとき……。


「……え?」


 何者かに口を押さえられ、拘束されてしまった!

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