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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第30話:謁見と錬金術

「……フルオラ、心の準備はいいか?」

「は、はい、ばっちり……だと思います」


 アース様の問いかけに、緊張しながら答える。

 私たちは今、"謁見の間”の前にいた。

 いよいよ、王様とお会いするんだ。

 目に映るは金属製の重厚な扉で、両脇には衛兵さんが二人いる。

 表面には美しい模様が刻まれているのだけどドキドキして何の絵かよくわからず、素材は大変希少なSランクの<星鱗貴石>だろうということくらいしかわからない。

 心臓の鼓動を聞きながら、扉が開くのを待つ。

 衛兵さんが扉を開くと、大きな声が轟いた。


「「グラウンド辺境伯及び、専属錬金術師フルオラ嬢が参りましたー!」」


 一番奥に玉座みたいな立派な椅子があって、そこに痩せた初老の男性が座っていた。

 ビノザンド王だ。

 長い灰色の髪に同じく灰色の瞳が印象的で、魔法使いや賢者みたいなローブを着ている。

 優しそうだけど威厳のある雰囲気に怖じ気づくも、緊張を押し殺して歩く。

 アース様が跪くと、私も真似をしてさっと跪いた。


「ビノザンド王、お久しぶりでございます。地底辺境伯、アース・グラウンド参上しました」

「辺境伯様の下で専属錬金術師を勤めている、フルオラ・メルキュールでございます。このたびは謁見の機会をいただき、深く感謝申し上げます」


 お礼の口上を述べる。

 暗黒地底でたくさん練習したのでスムーズにできた(アース様とクリステンさんに、とてもとても厳しい指導を受けた)。

 挨拶はしたものの、王様は先ほどから険しい顔だ。

 こ、怖い人だったらどうしよう……。

 王様はゆっくりと重そうな口を開く。


「グラウンド卿よ、そんなかしこまらんでいいぞよ。もっと楽にするんじゃ。フルオラ嬢も顔が強ばっている、ホッホッホッホッホッ」


 "謁見の間”に優しい笑い声が響く。

 思っていたのと違う反応にポカンとしていると、隣のアース様が小声で教えてくれた。


「国王陛下はああ見えて、おおらかな人物だ。形式的な挨拶ということで、君にはこのような作法を教えたがな」

「な、なるほど……」


 おおらかな、と聞いて大変に安らいだ。

 心の中でホッとひと息ついていたら、王様の重厚な声が聞こえた。


「フルオラ嬢。グラウンド卿からの手紙を読むたび、貴殿に対する興味が湧いてたまらんのじゃよ。暗黒地底は貴殿の錬成した魔導具で、それこそ天国のような良い環境に変わったと聞く」

「……はい。ありがたきお言葉を誠にありがとうございます」

 

 錬金術の話題が始まりかけ、必死に自分のアレを落ち着かせる。

 悪癖を押さえつけなさい、フルオラ!

 ここは暗黒地底ではない。

 "謁見の間"なのだ。

 もしいつもの調子で始まってしまったら、アース様にご迷惑がかかってしまう。

 冷静にならないと…………よし、大丈夫。

 懸命に言い聞かせた結果、精神は落ち着いてくれた。

 それはもう凪のように。


「せっかくの機会じゃ。《エアコン》とやらの仕組みについて少し教えてもらえるかの?」


 ……はずだったのに、王様に尋ねられた瞬間、私の決心は粉々に砕け散った。


「もちろんでございます! 使用した素材は<アクアンフェアリーの涙>に<突風ドラゴンの鱗>、<花硬岩>でして、水と風属性の魔力を増幅させ……」


 先ほどまでの緊張はどこへやら、不思議なくらい止めどなく口が動く。

 相手は王様。

 だからこそ、一から十までご説明して差し上げたい……!

 というところで、アース様のこほんっという咳払いを聞き我に返った。

 静まり返った"謁見の間"。

 自分が何をしたのか、急激に自覚する。


 ――悪癖が……爆発してしまった。


 ここ最近、姿を見せていなかった私の悪癖……。

 よりによってこんな大事な場面で炸裂するとは……。

 こんなことになるのなら、小出しにしておけばよかったよ。

 こういうのを"後の祭り”だとか"公開先に立たず”とか言うんだろうね。

 血の気が引く感覚を覚えながら、大きくて豪華な壁掛け時計を恐る恐る見ると……まだ一分しか経っていなかった。

 王様は上機嫌で話す。


「……なるほどのぉ、そんな低ランクの素材から作れるとは素晴らしい実力じゃ。ますます、ワシはお主に興味を惹かれたわい」


 アース様が悪癖を未然に防いでくれたのだ。

 小声でお礼を伝える。

 

「ありがとうございました、アース様。止めていただいて……」

「君のこともだいぶわかってきたからな」

 

 私一人だったら、今もずっと話し続けていただろう。

 アース様がいてくれて良かった。

 王様は口髭を撫でると、穏やかな口調で話す。


「さて、お主らは王立図書館が使いたいそうじゃの。もちろん、入館を許可するぞよ」

「ありがとうございます、王様!」

「心より感謝申し上げます」


 やった!

 許可をいただけた!

 断られなくて安心するとともに、どんな本があるのだろうとさっそく興味が抱かれた。

 ワクワクする反面、王様はやや言いにくそうに話す。


「ただその代わりと言ったらあれなのじゃが……最近、年のせいか長時間座っていると腰や肩が痛くての。座りながら身体を癒やしてくれる椅子を作ってほしいんじゃよ」

「椅子……でございますか?」

「できたら、ワシの前で錬成してくれんかの。お主の錬金術を目の前で見たいんじゃ。……どうじゃ? やってくれるかの?」


 へぇ~、椅子の錬成か。

 今までにない魔導具だな、と思っていたら、アース様がこそっと私に言った。


「国王陛下は少々わがままなところがあるんだ。……作ってくれるか?」


 考えるまでもなく、答えは一つしかない。

 小さくこくりとうなずき、王様に返答した。


「もちろんでございます、王様。全力で作らせていただきます」

「ありがとうのぉ、フルオラ嬢! お主なら引き受けてくれると思っておった! 素材は宮殿の保管庫にある物を自由に使ってくれて構わんからの。専属錬金術師の実力を見せてもらえるのが楽しみじゃ」


 王様は笑顔で喜ぶ。

 これはきっと、アース様の評価にも繋がると思う。


 ――私は地底辺境伯の専属錬金術師だから。


 王様のためにも、そしてアース様のためにも素晴らしい魔導具を作るぞ!

 座るだけで身体を労ってくれる椅子と言ったら、アレしかない。

 心の中で強く決心し、私は宮殿の素材庫に向かう。

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