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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第29話:王都にて

『お二人ともお疲れ様でした。王都が見えてきましたよ』


 ルーブさんの声が聞こえて眼下を見ると、大きな宮殿が見えた。

 美しい白い壁に深い紺色の屋根。

 宮殿の他にも立派な家々が建ち並び、私がこの世界で訪ねたどの街より豪奢な雰囲気だ。

 暗黒地底と王都は馬車で片道一週間はかかると聞いたけど、およそ半日で到着してしまった。

 ちなみに、スピードが速かったのは最初だけで、ゆっくり飛んでくれた。

 といっても、やっぱりドラゴンは速い。

 途中でご飯を食べたり、休みながら飛んでいたのにもう着いてしまったのだから。

 空には道がないから、最短距離で移動できたのも大きいと思う。

 へぇ~、これが王都か~と思っていたら、アース様の声が前方から聞こえた。

 

「君は王都に来たことがあるか?」

「いえ、初めてです。あまりメルキュール家から出ることはなかったので」

「そうか。それなら、ついでに色々と見て回るといい」


 ルーブさんは徐々に速度を落とし、王都近くの森の中に着陸した。

 外からは見えないほど木々が生えており、人に見られる心配はなさそうだ。


『お二人とも長旅お疲れ様でした。では、私はこの森で待っています。近くに水辺があったので、魔力の補給もできると思います』

「ご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございました、ルーブさん。お土産買ってきますからね」


 ルーブさんに手を振り、私とアース様は森の外に向かう。

 王都でもアクアドラゴンは珍しいので、謁見が終わるまではここに隠れてもらうのだ。

 森から出ると、アース様はクリステンさんから貰った地図を見ながら話す。


「さて、国王陛下との謁見までは、まだ五日ほど時間があるな。まずはカリステンを訪ねるとするか」

「ええ、そうですね。クリステンさんのお姉さんなんて、どんな方なのか楽しみです」

「どうやら、王都で服飾店を開いているようだ」

「えっ、すごいですね。そんな一等地でお店をやるなんて」

「まぁ、クリステンの姉だからな。色々と優秀なのだろう」


 しばらく街道を歩くと、アース様はピタッと立ち止まった。


「あの、どうされたのですか?」

「いや……君は疲れていないかと思ってな……。私は慣れているが、ドラゴンに乗るのは意外と疲れる。一旦休憩しよう。腹も減っていることだろう」


 その言葉を聞いて、なんだか胸がキュッと温かくなった。

 甘酸っぱくてあったかい気持ちになる。


「ありがとうございます。アース様は……お優しいですね」


 素直にお礼を伝えると、アース様のお顔が赤くなった。

 林檎のようにぽっと。

 アース様はやたらと慌てて答える。


「べ、別に、当然のことを言ったまでだっ。私はルーブの背に乗ったことはすでに数十回ほどあるが、君は今回が初めてとなる。よって、初めてドラゴンの飛翔を経験する君の心配をするのは必然的であってだな……」


 しばらく、アース様は論理的に説明してくださり、それも私の心を温めた。

 お話を聞いていると、一つ良いことを思いついた。


「でしたら、カリステンさんに挨拶しつつ、どこかおすすめのカフェとかレストランを聞くのはどうでしょうか」

「ふむ、それは名案だ」

「でも……アース様も休んでくださいね。いくら慣れているといっても疲れは溜まってしまいますから」


 私がそう伝えると、アース様は一瞬ハッとした表情になったけど、すぐに穏やかな笑みを浮かべて言ってくれた。


「ああ……ありがとう」


 十五分ほど歩くと、10mくらいの巨大な門に着いた。

 門番の人たちはアース様を見て驚いたけど、問題なく王都に入れてくれ、私は生まれて初めての王都に足を踏み入れる。

 アース様が道の片隅で地図を見せてくれた。


「カリステンの店は王都の中心部みたいだな。要するに、国一番の一等地だ」

「ええっ、すごいっ! どんなお店なんでしょうね~!」

「君の服も見つかるといいな」

 

 王都は活気にあふれ、街ゆく人はベリーファッショナブル。

 同業者みたいな人がいないかなとちょっと期待していたけど、錬金術師の類いはいなさそうだね。

 目に入るお店や街の装飾、感じられる雰囲気など大変に華やかで、歩くだけでも気持ちが楽しくなる。

 だけど、わくわくしながら歩くうち、徐々にテンションがしぼんでしまった。

 アース様は気づくと、心配してくれる。


「フルオラ、どうした? 暗い顔をしているが」

「いえ、素材を売っているお店はあまりなさそうなので……」

「素材……」


 王都にあるお店は、陰の人間を消し飛ばしそうなほど光り輝く宝石や、布地が少ないくせにやたらと高いドレスなどを売るショップばかりだった。

 ここまで面積が少なかったら、もはや下着では……。


「王都なので想像はついていましたが、私の好みに合いそうなお店はあまりなさそうです。魔物の臓器とか売ってないですかね~?」

「……売ってないだろうな。確実に」


 なぜか呆れた様子のアース様について歩くこと、およそ五分。

 王都の中心部にそのお店はあった。

 上品な白い壁に、シックな紺色の屋根。

 看板には金の文字で"リステン・リステン”と書かれている。


「うわぁ……可愛いお店……」

「着いたぞ、フルオラ。ここがカリステンの店だ。話は伝えてあるとクリステンは言っていたが……」


 私とアース様がお店の前に立った瞬間、扉が静かに開かれ、一人の女性が現れた。


「お待たせいたしました。フルオラ様と辺境伯様でいらっしゃいますね? 長旅お疲れ様でございました」


 静々と大変丁寧にお辞儀をされる。

 私は強い衝撃を受けてしまった。

 え、嘘……こ、この人は……。


「……クリステンさんですか?」

「……君はクリステンか?」

「いえ、姉のカリステンでございます。双子ですので、顔立ちがよく似ております」

「「双子……」」


 そう聞いて納得した。

 カリステンさんはクリステンさんそっくり。

 それはもう生き写しと言われてもおかしくないくらい。

 濃い茶色のお下げが二つに、大きな丸メガネ。

 暗黒地底の頼れるメイドがそこにいた。

 カリステンさんも瓜二つだとわかっているのか、姉妹の違いを教えてくれた。


「わたくしは妹と似ておりますが、明確な差が一つございます。わたくしの方が1.27cm身長が高いのです」

「そ、そうなんですか……」


 ずいぶんと細かい明確な差だ。

 きっと、カリステンさんもS級メイドに匹敵する実力者なのだろう。

 アース様はこほんっと軽く咳払いすると、本題を話し出した。


「さて、カリステン。フルオラにドレスを見繕ってくれないか? その前にどこかで休めるとありがたいのだが」

「ええ、もちろんでございます。店の奥は応接室なので、どうぞお休みください。そろそろお着きになられる頃かと思い、お茶の用意も完了しております。」

「それは助かる。君は優秀なんだな」


 お店に入ろうとしたら、どこからかにまにまにま……という謎の音が聞こえる。

 な、なんだ?

 と思って辺りを見渡したら、音の正体はカリステンさんだった。

 ……うん、知ってた。


「妹から、お二人のことはよく窺っております。見守るだけで胸がキュンキュンしてしまうとか」

「……帰ったら、クリステンを問い詰める必要がありそうだな」

「ぜひ我が家にお泊まりいただければと思いますが、寝室はご一緒でよろしいですね?」

「別にしなさい!」

「別々で!」


 当然のように言うクリステンさんに、私とアース様は即答する。

 その後、アース様と王都を観光したり準備をしていると、あっという間に王様に謁見する日がやってきた。

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