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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第24話:暗黒地底の最深部

 数十分ほど地下へと洞窟を進み、私とアース様は一枚の扉の前に着いた。

 重そうな金属製で、表面にはルーン文字が円を描くように刻まれる。

 漫画やアニメでよく見るような、何かを封印している扉……的な雰囲気だ。

 いずれはこの文字も調べてみたいね。

 アース様は扉の前に立つと、私の方を振り向いて言った。


「フルオラ、これが"大穴”に通じる扉だ。すぐに"大穴”が現れるから、落ちないように気をつけてくれ」

「は、はい、わかりました。十分注意します」


 私が緊張するも、アース様はいとも簡単に片手で扉を開ける。

 恐る恐る後に続くと、扉の中には地底屋敷のある場所よりも大きな広い空間が広がった。

 7mほど目下に見えるのは、まさしく直径20mもあろうかという巨大な穴。

 表面は明るい紫色に光り、まるで池みたいだ。

 風は拭いていないのにゆらゆらと揺れるのが不思議……。


「見てわかる通り、これが"大穴”だ。この向こうに魔族たちが住む冥界がある。飛び込んだら冥界に入り込んでしまう」

「お、おっかないですね」

「表面に薄らと結界が張られているのがわかるか?」

「ええ、確かに白っぽい光が見えますね」


 ジッと"大穴”の表面を見る。

 白い膜みたいな結界が確認できた。


「先祖はみな、魔法が得意な人間だったらしい。羨ましい限りだ」

「へぇ~、グラウンド家には優秀な方が多いんですねぇ~……って、うぉぉわっ!」

「フルオラ!」


 気をつけろ、と言われたのにうっかり足を滑らせた。

 ずるりと"大穴"に向かって落下する。

 大事なところで足を滑らす……これも私の新しい悪癖か~、と思いながら身体が宙に放り出されるのを感じた。

 アース様のお顔が遠くなる中、走馬灯のように地底での楽しい日々が思い出される。

 毎日大好きな錬金術に没頭できて幸せだった。


 ――さようなら、アース様……お世話になりました。冥界に面白い素材があることを祈ります……。


 心が冥界に飛びかけたとき、ガシッと私の腕が掴まれた。

 アース様が腰から下げた剣を岩壁に突き刺し、私を力強く支えている。

 そのまま、ぐいっと"大穴”の縁に引き上げてくれた。


「まったく、君からは目を離すことができないな。……あ、いやっ、別に大した意味はないのだが……!」

「……本当にすみません。助けていただいてありがとうございました……」


 しおしおと謝罪する。

 アース様は顔(というか頬)を赤くされていたので、やはり私の重量はヘビーだったらしい。

 重い物を持たせてしまい、二重に申し訳なかった。


「まぁ、君が無事ならそれでいい。君を守るのも、私の大事な使命なのだから」

「アース様……。私も"大穴”を塞げるよう頑張ります。それが私の……使命です」

「……そうか。よろしく頼む」


 アース様は穏やかに微笑む。

 そう、私の使命は求められる錬金魔導具を作ること。

 気を取り直して、全体の様子をよく観察する。

 魔族や強い魔物はグラウンド家の結界で防げる。

 弱い魔物が通過するのは、きっと負担を減らすためだ。

 となると、私の魔道具ではその穴を埋める設計にしてみようかな……。

 半永久的にもたせないといけないね。

 かなり広範囲だけど、ここには人間の魔力なんて比較にならないほど巨大なエネルギーがある。

 

「地底の熱を利用する魔導具なら、門全体を完全に塞ぐことができると思います」

「そうか。さすがだな、フルオラ」

「ですが……設計が少々難しそうです。これほどの大規模の魔導具はまだ錬成したことがなく、できれば本で一度資料を読みたいですね」


 錬金術の勉強は怠ったことはないけど、今持つ知識だけで製作できるかは少々不安だ。

 何より地熱を利用するとなると、地学についても学ぶ必要がある。

 私の言葉を聞くと、アース様は顎に手を当てながら言った。


「ふむ……それなら、王立図書館に行くのが一番いいだろう。あそこの蔵書量は王国一だ。きっと、君の望む本や文献が見つかるはずだ」

「ぜひ行ってみたいです。でも、特別な許可がないと入れない図書館なんじゃ……?」


 王立図書館は宮殿の中にあり、基本的に外部に公開されてないと聞く。

 私などが入れるのだろうか……。


「問題ない。私が国王陛下に手紙を書いておく」

「え! ありがとうございます、アース様! それならバッチシですね」

「君のためなら何でもするさ」


 さらりと仰った言葉は、私の心にじんわりと染み入った。

 耳をくすぐられるような、不思議な余韻が残る……。

 気がついたら、アース様はすでに扉の前にいた。

 後を追いかけ地底屋敷に戻る。

 私の手には、自分でない体温の温かさがいつまでも残っていた。

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