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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第21話:薬の調合を手伝う魔道具、《万能調合鍋》

 さっそく保管庫に行き素材を選ぶ。

 マチルダさんも見学したいそうで、私とアース様の三人で来た。

 中は棚があったりして少々手狭なのでルオちゃんは外で待っててもらい、クリステンさんも別の仕事があるとのことで保管庫にはいなかった。

 マチルダさんは興味深そうに素材を見渡す。


「……へぇ~、屋敷の奥にこんな場所があったとは思わなかったよ。珍しい素材が揃ってるじゃないか。お土産にいくつか貰おうかねぇ」

「もちろん拒否する」


 アース様は相変わらず辛辣な様子だけど、機嫌が治ったみたいでよかった。

 何はともあれ、早くお鍋を作ってあげよう。

 今回は三種類ほど選んでみた。



<黄昏苔>

 ランク:A

 属性:聖

 能力:とても希少な聖属性の魔力が宿る苔。自然物が持つ魔力を増幅することができる。


<ニュー鉱石>

 ランク:B

 属性:無

 能力:最近発見された鉱石。粘土が高く打撃に強い。


<大鐘鉄>

 ランク:A

 属性:無

 能力:地中の高圧力により凝縮された鉄。鉱石の中でも指折りの硬度を誇る。



 せっかくなので、上等な素材もいくらか使わせてもらった。

 マチルダさんは魔女だけどお薬を作ることが多いと聞いたので、何回使っても壊れないような丈夫な魔導具にしたい。

 錬成陣を床に書いていると、マチルダさんがこれまた興味深そうに覗き込んだ。


「ふ~ん、初めて見る術式だね。どんな理論で描くんだい?」

「ええ、特に大事にしているのは素材同士の相性と……」

「こら、フルオラの邪魔をするな。集中が切れたらどうするんだ、今すぐ離れなさい」

「ちょっと質問しただけだろうに」


 答えようとしたら、アース様がマチルダさんを引っ張った。

 有無を言わさず壁際まで連れて行く。

 そこまでしなくてもいいような……。

 でも、悪癖が暴走しなくてよかった。

 一度話し出すと止まらないからね。

 アース様とマチルダさんが格闘すること数分、錬成陣が完成した。


「お二人とも、準備ができました。それでは始めますね……【錬成】!」


 錬成陣に手を当てて魔力を込める。

 素材たちが青白い光に包まれ粒子に姿を変えていく。

 粒子は互いにくっつき結ばれ、新しい形になる。

 

「これは見事な光だね……。ここまで美しい錬成反応は初めて見たよ」


 すぐ傍からマチルダさんの呟きが聞こえる。

 嬉しいけど、最後まで気を抜いてはいけない。

 完全に錬成が終わるまで集中するのが肝要なのだ。

 五分も経つと青白い光は徐々に収まり、錬成陣の真ん中には金属の鍋が転がっていた。



《万能調合鍋》

 ランク:S

 属性:無

 能力:素材に含まれる成分を保護できる丸底鍋。軽くて丈夫で使いやすい。



 黒鉄色の丸底鍋が完成した。

 うまくできてホッとひと息つく。

 お薬を作るときは、熱で大事な成分が傷んで消えてしまうことがある。

 だから、素材の良さが100%守られるような設計にしたのだ。

 

「どうぞ、マチルダさん。持ち運びしやすいように軽めにしてみました」

「こ……これは素晴らしい調合鍋じゃないか! こういうのが欲しかったのさ! しかも、Sランクの魔導具なんて初めてだよ!」


 マチルダさんは《万能調合鍋》を持ち上げてはとても喜ぶ。

 

「喜んでくださってよかったです。頑丈な素材を使ったので、しっかりメンテナンスすれば長持ちすると思いますよ」

「本当にありがとうね、フルオラ。この魔導具があれば新しい薬がどんどん作れるよ。さっそく地底の素材で試そうかねぇ」


 嬉しそうに喋るマチルダさんに、アース様は顔をしかめる。


「用が済んだなら今すぐ帰りなさい。地底屋敷に君が泊まる部屋はないからな」

「またそんなことを言う。いいかい、アー坊。まずはそのしかめっ面と口の悪さを直さないと……」


 やっぱり、アース様とマチルダさんは仲が良いんだね。

 みんなでわいわいと話しているうちに、気がつけば地底の空には星が瞬いた。



 □□□



「……いやぁ、相変わらずクリステンの料理はおいしいねぇ。どれも絶品だよ。レストランをやったら毎日大繁盛だろうさ」

「ありがとうございます、マチルダ様」


 アース様は抵抗していたけど、マチルダさんは今晩地底屋敷に泊まることになった。

 今はみんなで夜ご飯だ。

 私とアース様、クリステンさん、ワーキンさんもいてとっても賑やかな食卓。

 ルオちゃんはこの時間だともう寝ちゃった。

 分厚いお肉のロースト、色とりどりの瑞々しいサラダ、ふかふかのパン……などなど、それこそいくらでも食べられてしまいそうだ。

 興奮で悪癖が暴走しないように努めて冷静に食べていたら、マチルダさんが酔っ払った様子で言った。

 

「それで、アー坊とフルオラ」

「なんだ」

「はい」


 マチルダさんは言葉を切って、ぐびぐびとお酒を飲む。

 なぜか続きのお話をしない。

 気になるな……。

 間が持たなくてアース様と一緒のタイミングでお茶を飲んだら、待っていたかのようにマチルダさんは言った。


「あんたらはいつ結婚するんだい~。まさか、ずっと主と専属錬金術師の関係でいるつもりはないだろ~」

「「ぐぼっ!」」


 二人揃ってむせてしまった。

 い、いきなり、何を仰るのですか。

 アース様は慌てた様子でマチルダさんに話す。


「こ、こら、マチルダッ。やめさないっ」

「あんたらの関係はもっと進展した方がいいだろうよ~。ヒッヒッヒッヒッヒッ、ヒック」

「いいか? 私はたしかにフルオラのことは大切に思っている。信頼している。だからこそ、そして、クリステンとワーキン、にまにまとした笑顔は止めなさい」

「「いえいえ、仲がよろしいことで」」


 私は特に何も言えず、淡々と食事を続けることしかできなかった。


 ちょっとした波乱はあったけど、小一時間もするとご飯は終わり寝る時間となった。

 マチルダさんはすっかり寝てしまい、クリステンさんが客室に運んでいく。

 私とアース様はぎくしゃくと屋敷を歩き、居住スペースに来た。


「お、おやすみなさい、アース様」

「あ、ああ、おやすみ」


 にまにまとした音が聞こえる中、挨拶を交わす。

 いつの間にか、クリステンさんとワーキンさんが廊下の隅にいて、温かい目でこちらを見ていた。

 アース様は彼らをキッと軽く睨んでからお部屋に帰られた。

 私も自室に入り身支度を整えベッドに横たわると、マチルダさんの話が思い返される。

 アース様との関係……か。

 私は初対面のときより距離が近くなったのはよく感じる。

 でも……。


 ――アース様はどうなんだろう。


 笑顔が増えた気はするけど、私のことはそれこそ専属錬金術師としか思ってないんじゃないかな。

 そう思うと、ちょっとだけ寂しい自分がいた。

 …………寂しい?


 ――錬金術ができたらそれでいいはずだったのに……。


 私は自分の心を見つめる。

 以前は感じなかった想いがあるような……気がする。

 何にせよ、もっと仲良くなれたらいいな。

 そんなことを考えているうちに、夢の世界に入ってしまった。

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