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第16話:復讐のチャンス(Side:ペルビア②)

「修理に来ているのに、どうしてさらに壊れるんだ! あんたは本当に錬金術師なのか!?」

「た、たまたまうまくいかなかったのよ! もう一度貸しなさい!」

「あんたに任せたのが間違いだったな! ああ、なんでこんな無能に頼んでしまったんだ!」


 その後も、メルキュール家には魔道具の修理や製作依頼の客が何人も訪れていた。

 下はDランク、上はAランクまで様々だ。

 でも、あたくしは一つも作れなかった。

 製作はおろか、修理さえできない日々。

 ……なぜ?

 お義姉様を見た通りにやっているのに。

 今日もみすぼらしいおじさん男爵に怒られていた。

 美男子ならまだしも、こんな老いぼれに好き勝手言われ、あたくしは怒り心頭だ。


「もっと別の言い方があるんじゃないかしら……?」

「知るか! 二度とここには来ない! フルオラ嬢を探す!」


 叫ぶように言うと、おじさん男爵はずかずかとメルキュール家から出て行った。

 チィッ! 腹立たしいわね。

 追いかけて性根を叩き直そうかと思ったけど、かわいそうなので見逃してやった。

 ふんっ、感謝しなさい。

 どうせ大した人生送ってないんでしょ。

 おじさん男爵が帰ると、すぐメルキュール家はがらんとした空気に包まれる。

 今までの客たちが悪評を流しているのか、最近はめっきり客足が減ってきた。

 お義姉様がいたときは四六時中誰かが出入りしていたのに……。

 まるであたくしが避けられているようで、大変に不愉快だった。


「お~い、ペルビア。どうしたんだぁ? 中にまで話し声が聞こえてきたぞぉ。何なら俺が話してやっても……」

「あんたはとろいのよ! このボンボンが!」

「ぐああああ!」


 ナルヒン様の顔面を爪で切り裂く。

 ヘラヘラした笑い方が一段と気に障った。

 この男は事が終わってからしか姿を現さない。

 自分だけ逃げているようでイライラするわ。

 役立たずの婚約者にストレスを溜めていると、外から男性の話し声が聞こえてきた。


「ねえ、兄さん。錬金博覧会にはどんな魔道具を出そうか」

「そうだな……小さな魔法玩具にしようか。それくらいなら僕たちでも作れる。しかし、開催場所は暗黒地底と聞いているが大丈夫だろうか」

「それがすっかり様変わりしたみたいだよ。何でも、すごい優秀な錬金術師が来たらしいんだ」

「へぇ、博覧会にはその人も出るのかな。ぜひ会ってみたいものだね」


 ……錬金博覧会? 暗黒地底? 優秀な錬金術師?

 あたくしは耳が鋭い。

 少しのウワサ話も聞き逃さないのだ。

 すかさずお店から出て声の主を探す。

 五十歩ほど離れた道を、二人の男性が歩いていた。

 たぶん兄弟ね。

 見失う前に、ズダダダダッと彼らの前に走りよる。


「錬金博覧会ってなに!?」

「「ひぃぃっ!」」


 何がひぃぃっ! よ。

 おまけに、二人はガクガクと怯えている。

 化け物でも見たかのような顔で。

 ずいぶんと失礼な男性ね。

 ナルヒン様のように身体に教え込んでやろうとしたけど、念のため控えた。

 まずは情報の入手が先決だ。


「錬金博覧会って……なぁ~に?」


 とっておきのプリティボイスとプリティフェイスでにっこりと笑いかける。

 可愛い可愛い令嬢が話しかけてくれているというのに、兄弟はさっきより激しく震えだした。

 だから失礼でしょうが!


「あ、あなたに教える筋合いはありません! ほらっ、行くぞ!」


 兄は弟の手を掴み、一目散に走り出す。

 逃がしてなるものですか!

 猛ダッシュで追いつき、兄の首を掴む。


「こらっ! 教えなさいっ!」

「ぐああああ!」

「や、止めてくださいっ! 兄さんを殺さないでっ! 誰かあああ!」


 激しく揺さぶると、兄弟は白状し始めた。

 地底辺境伯が錬金博覧会を開く、各地の錬金術師が集い互いに競い合う……。

 情報を得ると兄弟を解放する。

 二人は脱兎のごとく逃げるけど、もう追う必要はない。


 ――錬金博覧会が暗黒地底で開かれる……。


 いいことを聞いた。

 ほぼ絶対お義姉様も出るだろう。

 無論、あたくしも参加してやる。

 日頃の鬱憤をぶつける、復讐の絶好の機会だ。

 うす暗い地底に隠れていればいいものを……。

 待っていなさい、お義姉様!

 幸せな時間は終わり。

 これからは私刑が始まるわ。

 目にもの見せてやるんだから。

 メルキュール家に戻ると、あたくしはさっそく計画を考え始めた。


「ククク……錬金博覧会でお義姉様を思いっきり見下してやるわ。あたくしも錬金魔導具を作って、お義姉様との格の違いを世の中に証明するの」


 どんな魔導具にしようかしら。

 どうせなら大きくて強い物がいいわね。

 おそらく、錬金博覧会にはたくさんの人が集まる。

 名も知れぬ兄弟さえ知っていたんだから。 

 貴族も来るでしょう。

 もしかしたら、ナルヒン様以上の物件に乗り換える良いチャンスにもなりそう……。

 あたくしの美貌と錬金術の腕前を見てしまったら、世の男どもは夢中になってしまうわね。 そうと決まったら、素材の手配だ。

 メルキュール家にもあるにはあるけど、どれもこれも低ランクの物ばかり。

 であれば……。


「ナルヒン様!」

「な、なんだよ、ペルビア……。頼むからあまり大声を出さないでくれ……。傷に響く……」


 顔面ズタボロのナルヒン様は呟くように言う。

 これしきの傷で辛そうにしてんじゃないわよ。


「魔導具を作るから、さっさと素材を持ってきなさい。最低でもAランク以上の物を用意すること、いいわね?」

「さ、最低でもAランク!? お、おい、ペルビア、いくらなんでも……」


 あろうことか、ナルヒン様は口答えしてきた。

 立場の違いをもっと身体に教え込める必要がありそうね。


「つべこべ言わない! また局部を蹴られたいの!?」

「わ、わかった! わかったから構えるのを止めろ!」


 キックのポーズを取ると、ナルヒン様は大急ぎでクロードザック家に走った。

 あの男に最高品質の素材を持ってこさせ、あたくしの素晴らしい錬金技術で最高のゴーレムを作る。

 最高×最高=最最高。

 無駄が一切ない美しい方程式だ。

 素材が到着次第、すぐにゴーレムを作ってやる。

 あたくしに実力で負けたお義姉様の情けない顔を想像しながら、あたくしは素材が来るのを待った。



□□□


 

 ゴーレムを作ると決めてから一週間後、ようやく素材が揃った。

 数時間程度で集まると思っていたので、計画が後ろ倒しになってしまったじゃない。

 倉庫の床で息も絶え絶えのナルヒン様を叱る。


「ナルヒン様、ずいぶんと用意が遅かったですわね。待ちくたびれてしまいましたわ。時間を返してちょうだいな」

「む、無茶言うなよ、ペルビア……。どれも入手するのが本当に大変だったんだからさ」


 そんな辛そうにしても同情の言葉をかける気にもならない。

 まぁ、いいわ。

 目的の素材は集まったし。

 今回は見逃してあげましょう。

 目の前に積まれた高級素材を見ると、お義姉様に負ける気がしなかった。


<輝石ルナサイト>

 ランク:A

 属性:光

 能力:月の力が宿ると言われる光り輝く美しい石。割ると月の重厚な魔力があふれ出る。


<霊結晶>

 ランク:A

 属性:霊

 能力:著名な幽霊屋敷の地下に保管されていた結晶体。幽霊の魔物を追い払う効力がある。


<瑠璃秘石>

 ランク:S

 属性:無

 能力:瑠璃色に煌めく大変に貴重な鉱石。鋼鉄にも負けない強度を誇り、宝飾品としての価値も高い。



<深海焔石>

 ランク:S

 属性:炎

 能力:海底火山の噴火で析出した鉱石。火山が持つ莫大な炎の力が宿る。



 最低でもAランク、Sランクにいたっては2つもある。

 これだけ良い素材があれば、素晴らしいゴーレムができるに違いないわね。

 しかも術者は稀代の錬金術師たるこのあたくし、ペルビアだ。

 国宝級のゴーレムができてしまうかも……。

 そう思うとワクワクしてたまらなかった。

 いつものように錬成陣をちょいちょい~と描き、魔力を込める。


「【錬成】!」


 素材たちが黒っぽい光に包まれ粒に分解され、新しい形となる。

 お義姉様のときは青白い光だったと思うけど、あたくしがやると黒っぽい光になるのよね。 ま、あたくしの方が正しいということでしょう。

 国宝級レベルに違いないゴーレムが少しずつできあがるにつれ、じわじわと実感がわく。

 あたくしが覇権を取る日もそう遠くはないわね。

 見てなさい、お義姉様。

 あたくしの実力に吠え面をかいても知らないんだから。

 オーホッホッホッ!

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