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恐怖の地底に放棄された男爵令嬢ですが、冷徹辺境伯様に実力を認められ専属錬金術師として保護されました  作者: 青空あかな


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第10話:資源採掘者の問題

「あの……そういえば、鉱石の採掘ってアース様がやられているのでしょうか」


 ビトラさんの一件が終わってから数日後のお昼。

 みんなで昼食を食べた後、以前から気になっていた質問をアース様に尋ねた。

 地底屋敷にはたくさんの素材(主に鉱石)があるけど、誰が採取しているのか気になっていたのだ。

 アース様は食後の紅茶カップをテーブルにコトンと置く。


「いや、私ではない。ついでに言うと、クリステンでもない。鉱石を採掘している人間が別にいるんだ」

「そうなんですか。てっきり、アース様かクリステンさんが集めているものだと思っていました」

「思い返すと、まだ君を紹介していなかったな。では、さっそく彼の元へ行こう。資源を採掘しているのは、ワーキンという名前のドワーフだ」


 鉱石を採掘してくれている方はドワーフなんだ。

 資源の採取にピッタリのイメージだった。

 みんなが椅子から立ち上がると、クリステンさんがそっとアース様に話しかけた。


「グラウンド様、事前にフルオラ様にお話しされておいた方が……」

「ああ、そうだった。ワーキンはドワーフ特有の少し気難しいところがあってな。私と同じ、人嫌いな性格だ。おまけに、やたらと他人を信じない。初対面の君には不躾な態度を取るかもしれないが、どうか大目に見てやってほしい」

「わ、わかりましたっ。失礼がないよう気をつけますっ」


 ドワーフって気難しい人が多いのか……緊張するな。

 この世界に来てから会うのだって初めてだ。

 もちろん、前世で会ったことは一度もなかったけど。

 そんなことを考えながらぼんやりとアース様たちの後を追ったけど、お屋敷を出たところで二人を止めた。


「あっ、お待ちください。《ミニエアコン》を持っていきます。きっと暑いでしょうから」

「そうだな、ワーキンにも渡してくれると助かる。採掘場は地底でも深部だから暑いんだ」


 自室に戻り《ミニエアコン》を一つ持ってきて、アース様たちに合流する。

 今回も私の魔道具が役に立ちますように……。


 アース様とクリステンさんに連れられ地底を潜ること、数十分。

 お屋敷のある階層より、さらに数段階地下に着いた。

 この辺りにはまだ松明しか灯っていない。

 私たちが普段暮らしている空間に比べると半分くらい狭いけど、平坦な地面が広がっていた。

 小さな広場みたいなスペースだ。

 よく見ると石の地面には削られた痕がある。

 平らになるよう人為的に加工したのかもしれない。

 空間の隅っこには、こじんまりとした小屋が一つ。

 ワーキンさんが寝泊まりしているのかな? と思ったとき、背の低い男性が中から出てきた。

 骨太な体型、ギラリと鋭い目つき、もじゃもじゃの茶色い髭。

 前世の漫画やアニメで見たドワーフそのものだ。

 私たちを見つける否や、洞窟に大きな声が響いた。


『おい! 誰だ!』

「仕事中にすまないな、ワーキン。私だ」

『辺境伯様だったか! 何用で!? 今忙しいんだ!』


 ワーキンさんはとても声が大きい。

 ただ話しているだけだろうに、怒鳴られているような気分になった。


「先日、地底屋敷に新しい仲間が増えてな。君に紹介したいのだ」

『新しい仲間!? 誰だ、そいつは!』

「フルオラ、こちらに来てくれ」

「フ、フルオラ・メルキュールでございますっ。どうぞよろしくお願いしますっ」


 お辞儀をするも、ワーキンさんは私をチラッと見ただけだった。


『なんだ! 小娘じゃないか! なんでこんなヤツを雇ったんだ! 結婚すんのか!?』

「ち、違う! そうじゃない! 結婚ではない! 手違いで婚姻したとかそんなことはない! 彼女は地底屋敷の専属錬金術師だ!」

『錬金術師ぃ? この小娘がぁ?』


 ワーキンさんはじろじろと私を見る。

 本当に錬金術が使えるのか信じられないようだ。

 それならば……。


「あ、あのっ、良かったらこれどうぞ。身に着けたらお身体が涼しくなると思います」


 鞄から《ミニエアコン》を差し出す。

 途端に、ワーキンさんは訝しげな表情になった。


『なんだよ、これは! こんな箱見たことないぞ!』

「それは《ミニエアコン》と言いまして、涼しい空気で身体の周囲を覆う魔道具です。私が作りました」


 勢いに圧されつつも、魔道具の説明をする。

 ワーキンさんは怪訝な顔のままではあるけど、《ミニエアコン》を首から下げてくれた。

 出っ張りを押すと涼しい風が吹き出し、表情がいくぶんか和らいだのでホッとする。


『ふーん……確かに涼しいな。こりゃあいい。暑くて仕方なかったんだ』

「これで私が錬金術師だと信じていただけるでしょうか……?」

『いいや信じない!』

「えええっ!?」


 そんなぁ。

 信じてくれないなんて。

 ガーンッ! と思っていると、ワーキンさんはたちまち厳しい顔つきに戻ってしまった。


『俺は自分の目で見たことしか信じない! これは俺のポリシーだ!』

「ワーキン……彼女を信じてやってくれ。たしかに、まだ若いが実力は本物だ」

「フルオラ様は類まれな錬金術師でございます」


 アース様もクリステンさんも説得してくれたけど、ワーキンさんは絶対に首を縦に振ろうとはしなかった。


『小娘! そこまで言うのなら、俺にも考えがある! 錬金術が使えるんなら、俺の目の前でやってみせろ!』


 ワーキンさんはひときわ大きな声で私に命ずる。

 さっき自分の目で見たことしか信じないと言っていたし、実際に錬金術を使ってみせないと信頼は得られなそうだ。


「わかりました。でしたら、何をお作りすればよろしいでしょうか」

『壊れないピッケルだ! ちょっと待ってろ!』


 ワーキンさんは小屋に行くと、何本ものピッケルを台車に乗せて持ってきた。

 地面にガラガラと置く。


『これを見ろ!』


 と叫ぶので、一つ取り上げて観察した。

 先っぽの尖ったところが欠けている。

 よく見ると、他のピッケルも同じように壊れていた。


『ここの岩盤はひと際硬いんだ! 辺境伯様がたくさんピッケルを用意してくれてるんだけどな、俺はなるべく道具を壊したくない! だから、いくら採掘しても壊れないピッケルを作れ! そうしたらお前が錬金術師だと信じてやる!』


 ドドンッ! と指をさされ宣言される。

 アース様は渋い顔で佇み、クリステンさんはおろおろしているような気がするけど、私の心も目もすでに新しい仕事に向いてしまっていた。


「……お任せください、ワーキンさん。絶対に壊れないピッケルを錬成します!」


 絶対に壊れないピッケルか……難しそうだ。

 いやぁ、楽しくなってきたね。

 今まで作ったことがない魔道具を要望され、沸々とやる気が湧いてくる。

 うまくいったら、また一歩成長できると思う。

 何より、ワーキンさんも地底屋敷の大事な仲間。

 絶対良いピッケルを作るぞ!

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