夢か幻か
まあ色々あって余命三時間と告げられた。
早急に手術すれば大丈夫とのことで、俺はすぐさま麻酔を打たれた。
起きた頃には手術は終わっていて、あなたはもう大丈夫。そう言ってくれた医者を信じ、俺は目を閉じた。
そして目が覚めたのだが……。
そこはまだ手術室だった。眠りからは覚めたものの、麻酔は効いているようで、全身の感覚は無い。
視線は動かせる。声は……出せない。
どうやら執刀の瞬間から終わるまでの過程を自覚して手術を受けるという、生き地獄を味わうことになりそうだ。
俺は聞いたことがあった。こういうことは、稀にあるということを。
(マジかよマジかよ……)
やはり執刀される瞬間やら、どこぞの臓器をイジられていることやらの情報を聞きながらの手術は怖い……。
心の準備がまだ出来ていない状態で、手術服を着た医者が俺の傍らに現れた。彼は俺が覚醒していることに気づいてない。
「では始めます」医者は言った。「……と言いたいところなんだけどさあ。こういう頭を使う時の前には、やっぱり甘いものだよね」
……ちょっと何言ってんの医者。いいから早くしてくんない?
「てなわけで、バウムクーヘン食べまーす」
医者が言うと、ナースが医者の傍らにバウムクーヘンを乗せた台車を転がせてきた。
「じゃあ食べるよー」医者はバウムクーヘンに向かって、「メス」
メスの方向こっちいいいぃ!
何でバウムクーヘン優先?
こちとら余命数時間なんだけど。
いいから早く臓器的なもの捌いてくんない?
「うーん、ウマイウマイ。やっぱり手術前はバウムだよねー」
バウムって何だ腹立つな。ちゃんとクーヘンまで言え。
そしてバウムを食うへんで早く手術シロ。
「あー美味しかった。じゃあついでに手術しまぁす♪」
俺はバウムのついでに助かりました。
もうここにはクーヘンぞ。