もし泉にラブレターを落としたら
フラれた……。
渾身のラブレターだったのに、そのまま返された……。
俺はクシャクシャに丸めたラブレターを、泉に向かって投げ捨てた。
ラブレターはどんどん吸水していって、泉の底へ沈んでいった。
「……ん?」
泉の真ん中で、ブクブクと小さく泡が立っている。それは徐々に大きくなっていき、やがてザバーッと白い羽衣を着た女性が出てきた。
両手に金と銀の斧を持った長髪の女性の頭には、ナイフが突き刺さっている。
「ど、どうも〜……」
死にそうな声で言った女性の頭からは、ドクドクと血が流れている。
(え、ええええええええええ?)
なんなのこの人? なんなのこの人?
「あ……あなたが落としたのは、この銀の斧ですか? それとも金の斧ですか?」
いや金でも銀でもない白い紙ですが。
「早く答えて下さい……。わ、私……赤いモノを落としたようで、気分が悪いので……」
そうだね。どんどん流れ落ちてんね鮮血が。
「さ、さっき……殺人鬼が泉にナイフを落としてから気分が悪くて……」
それえぇ。それ突き刺さってんのが主な原因。
「ま、まあ……その殺人鬼は嘘をついたから八つ裂きにしましたが……」
こええよ。
「い……『泉の女神あるある』ですよね〜♪」
いや泉の女神あるまじき行為だよ。
「そ……そういえば今、とても恥ずかしい内容のラブレターが落ちてきました。アレはキモかったです……」
おい止めろ。傷口にハバネロ擦り付けるようなマネは。あんたホントに泉の女神か?
「で? あなたが落としたのは?」
キモいと言われた直後に言えと言うのか。それなら八つ裂きにされた方がマシだ。
「……金の斧……」
俺が答えると、女神はため息をついてから、
「はー、嘘つくとかキモッ。モテないワケだわ。じゃあね」
泉の底に消えていった。
なにこれ泣きそう。