表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆきだるまとシマエナガ  作者: 鈴音あき
2/4

『ねえ、シマエナガ。ここは僕の夢の中のようだ』


「そうなのかい?」


真っ白の雪の大地の真ん中で、雪だるまは小鳥に話しかけた。


『うん。僕は事故に巻き込まれて、今は体が動かないし声も出せないみたいだ。なんだかこの夢と似てる』


「君は声が出てないけど私には伝えたいことが分かるよ。それではいけないのかい?」


『うん。夢の中のここだけでも、僕は自由に声を出してあなたとお喋りがしたい』


「そう。なら、君に魔法で口を作ってあげよう」


『え、いいの? 嬉しい!』


雪だるまは喜んだ。


「でもね、もしかすると、私の魔力が無くなるかもしれない。そうしたら、また記憶を失くしてしまうと思う。それでも良い?」


『あ……』


雪だるまは小鳥がいなくなるのは困ると思った。


『シマエナガがいなくなるのは寂しいよ! 困る! えっと、どうしたら僕の事を忘れないでいてくれる?』


独りぼっちになることを雪だるまは嫌がった。


『じゃぁ、少しだけっていうのは? 無理かな?』


雪だるまは必死になってどこまで譲れるのか考えて提案してみる。


「そんな中途半端なこと、したことない……」


小鳥は不安げに小声で零したが、やがて決心を瞳に宿して雪だるまに告げた。


「でも、やってみる。じゃないと、出来るかどうか、わからないものね」


『やってみてくれる?』


「うん。……やる」


『ありがと』


そして、小鳥は雪だるまに小さな口を付ける魔法をかけた。




僕はまた、あの雪の原の夢を見ていたようだ。


ゆっくりと目を開けて、僕は夢の中で魔法をかけてもらったことを思い出し、声を出せるのか試したくなった。


夢の中での魔法が現実でも続いているなら、どんなに良いだろう……。


僕は事故に巻き込まれる前は普通に喋って、歌って、友達と口喧嘩もしたし、たくさん笑っていたんだ。


だから声を出せない、喋ることができない、伝える事が出来ない、そんなことはないはずなんだ。


声を失うなんてこんなにつらい事はないと思う。


一年間寝てたからって喋り方を忘れる事はないはずだ。


「あ、朔くんおはよう。よく眠っていたようだね」


あ、この声は僕の身体を触りまくったお医者さんだ。


「ぅぅ……」


「あ、少し声が出せたね。昨日は目覚めて直ぐに無理をさせてしまってごめんね」


昨日?


僕はどれくらい眠っていたんだろう?


僕はゆっくり二回瞬きをしてお医者さんに合図を送った。


「分からない・困ってるの瞬きだね」


お医者さんは僕の合図を分かってくれた。


「何に困っている?」


「何が分からない?」


お医者さんたちは僕が何を伝えたいのかを考え始めた。


「朔くん。朔くんが何を聞きたいのか分からないから、教えてほしいと思う事をどんどん言っていくから、また瞬きで返事をしてくれるかい?」


瞬き一回。


「よし。じゃあ、朔くんが効きたいと思う事を聞くよ? 最初はー。あ、お医者さんの名前?」


瞬き二回。


本当、誰なのかは知りたいけど今は要らない。


「えッ!? 知らなくていいことなのか!? ショック!」


白くぼやけたままの視界でもお医者さんポイ人が後退り、ガタガタと物音をたてたのが分かった。


「……フフ……」


空気の漏れるのと一緒に僕の笑い声が混じった。


「あっ!! 朔くん、笑った!!」


「笑ったな~! ……うーん、笑うなんてひどいじゃないかー」


「でも笑ってくれて良かったですね、先生」


「うん。あ、知りたくなくてもいいけど、教えておくよ。俺の名前は藤代将希藤代将希(ふじしろまさき)。君の主治医、よろしくな」


瞬き一回。


「朔くんが効きたいこと……。あ、自分の身体がどうなっているのか、かな?」


うーん、それは前に聞いたからいいや、瞬き二回。


「そうだね、昨日少し説明したから大丈夫なのかな」


あっ、瞬き二回。


「うん? 昨日、説明したことが分からなったってこと?」


瞬き二回。


「分からない、か」


「昨日?」


瞬き一回。


「昨日?……昨日は五月八日です。今日は五月九日、午前八時半。それがどうしたの?」


……聞いてみたかっただけ、なんだけど?



でも、他にも聞きたいことがある。


お父さんは?


お母さんは?


お母さんはどうしたの?


お母さんは確か事故の時に、僕に抱き着いてきたはずなんだ。


なのに何でお母さんの話が聞けてないんだ?


僕は声を出そうと口を動かす。


「ぉ……あぁ、…ん」


口が、僕の声が、言葉にならない……。


も一度!


「お…ああ、…ん!」


僕は、お母さんは?って聞きたいんだ、解かって。


お医者さんの藤代先生に聞こえたかな!?


「朔くん。……聞きたいことがわかったよ。お母さんがどこなのか知りたいんだね」


先生は淡々とした声で、応えてくれた。


そうなんだ、わかってくれた、やっと。


僕は瞬き一回をしっかりとやった。


「朔くん。お母さんのことはもうすぐお父さんが来る時間だから、それまで待ってくれるかい?」


なんで?


瞬き二回。


「これはお父さんが話すって、決めているからね。ごめんね」


瞬き一回。


「分かってくれてありがとう」


コツコツと足音が近づいて、聞き慣れたお父さんの声が聞こえた。


「朔……。あぁ。本当に、朔が目を開けている!……良かった。……本当に、良かった……。朔、生きてくれて、戻ってきてくれて、ありがとう。お父さん、お前が生きていてくれて嬉しいよ」


僕の左手をそっと掬い上げて、優しく握りしめてくれた。


お父さんの、握ってくれている手が震えている。


声も震えていて、……泣いているの?


左手が暖かい水滴で濡れていく。


お父さんの流した涙?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ