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天田一行を治安維持委員会と言う組織へと連れていって早数時間。
ナツメは西篠を喫茶店に残したまま、未だその姿を現さなかった。
「こっちとしても助かったから、今日の所はいってもいいぞ」
店主はカウンターに肘をつきながら西篠に声を掛ける。
西篠は驚きに肩を揺らしてから、遠慮気味に店主へと視線を投げた。
「い、いや……ここで待っていろといわれましたし、ここを出ていくと確実にはぐれてしまうので」
弱々しい声で答えると、西篠は何かに怯えるように身体を小刻みに震わせながら俯く。
店主は「そうか」と嘆息し、人気のない店内を一望してから、また一つ、大きなため息を吐いた。
――――治安維持委員会とは、所謂地方自治体である。
だが、ソレとは区切られて表現される理由は、国家機関に直接繋がっていて、そこからの派遣などにより、地方自治体なんてものは屁でもないくらいの権力を持っているから、というワケなのだ。
さらに細かく言うなれば、それぞれ、『区』ごとに置かれ、主な仕事は名の通り治安を一定に維持すること。故に、凶悪犯は捕まえることを最優先にするために、最も人が惹かれる金を懸賞として見せびらかしているのである。
それに少なからずとも反対するものも居るのだが――――それによって生活を潤わせている人間が居る以上、そう無下には出来ない存在なのだ。
そもそも、治安維持委員会が居るおかげで、街は一定の平和を保っていられるのだが――――その街の住民の半分以上は、その事を自覚せずに生き、死んでいく。
西篠は、差し出された、水が豊富に注がれているコップを口につけ、喉を潤わせて、溜息をついた。
その瞬間――――背後の扉が勢いよく開かれ、軋む音を響かせる間も無く稼動領域全開まで開かれた扉は、軽い音を大きく鳴らせて壁へと衝突していた。
「すまない。遅くなった」
ナツメは、茶封筒を手に、肩で息をするほど呼吸を乱してそこに現れる。
「さて、いくらだったか?」
天田敏一味。それは御多分に漏れず、悪事を働いたがために懸賞金を掛けられた数人のグループ。
婦女暴行、強盗、殺人……などなど。一般的な悪人であるが――――その全員を捕まえた総額は、『20万円』。
ナツメはその気持ちの良い厚さを持つ茶封筒から一枚の紙幣を取り出し、カウンターに置いた。
店主は笑顔でソレを受け取り、「まいど」と、金庫に仕舞い込むが――――
「おっと、お釣りは貰うよ?」
「えぇ? ケチ臭いんじゃあないか? そんな分厚い封筒持っとるくせに……」
「金と悪人にはシビアなのよ。ほら」
催促するように手を出す手に溜息をついて、金銀の硬貨とナツメの差し出した紙幣とは違うモノを、それぞれ数枚ずつ乗せた。
ナツメはそれを財布に仕舞い込み、そして封筒を肩から提げるバッグに入れた。
その後、逆側の肩から提げるショットガンを降ろし、ストラップに細工をして――――背中に背負う風に改良させて、意図した通りに背負って、その上に外套を羽織った。
「よし、動きやすい」
腕を動かし自由を確認し、
「それじゃ、またいつか来るよ」
そう残して、ナツメは椅子から立ち上がった西篠を確認して、店主に背を向け、酒場を後にした。