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ナツメ達がカウンターの席に、それぞれ腰を落とした直後――――
低く唸るような地鳴りと、振動する大気が一瞬にして辺りを静寂へと導いた。
いくらか騒がしいくらいだった店内は、まるで水を打ったかのように静まり返る。
妙な緊張感が――――辺りを支配し始めたその頃。
「店主さん、冷えた水と飯を二人分適当に見繕ってくれ」
鈍感な声が、何にも気付かない風な台詞を紡ぎ、無意識なのか、あるいは意図的にか――――その緊迫を打ち破っていった。
「あ、あぁ、承知した」
少しばかりの動揺を見せつつ返事をしたのは、カウンターの向こうにいる、口元に髭を蓄えたガタイの大きい中年男だった。
「……、な、ナツメさん」
頭の中で適当なリズムを刻みながら店主の、水を汲みたるをボーッと見ていると、不意に、横から弱々しい声がかかる。
「ん。どうした」
「なんだか、周りの視線が痛いくらいに突き刺さるような気がするんです」
「……、仲良くなりたいんじゃあないか? 振り返って挨拶でもすればいい」
適当にあしらうように言葉を吐き捨て、頬杖をつくと――――背後で、椅子の脚が床を擦る音が耳に届いた。
「兄ちゃん、随分大層な装備をしてるみたいだが――――腕は伴ってんのか?」
足音がすぐ背後まで近づくと、冷やかすような口調でナツメに声を掛ける。
その声の更に後ろ、テーブルに着く数人の集団は何が楽しいのか――――下品な笑いをそれぞれ漏らしていた。
「いやぁ、アナタみたいな雰囲気でお強いという事が分かる人と比べるとチリみたいなものですよー、この武器だってこけおどしで持っているだけですから」
淀みなくサラサラと流れ出た言葉には、一切の感情もなく、振り向くことなく返事をしたナツメの背は、いかにもつまらないモノを前にした、という感じが丸見えであった。
男はそんな返答に、拳に力を込めるが――――理性で押さえ込み、眉の端が怒りで痙攣するままに、次の言葉を発する。
「なら、試してみねェか? どっちが強いか……気になるだろ?」
ナツメは、そんな言葉にわざとらしく大きなため息をついた。
「同じ言語だと思ったが、どうやら違うみたいだな。話がてんで噛み合わない。西篠――――通訳してくれるか?
お前のが強いと言ったのだ、その腐りかけた頭によく刻んでおけってな」
「ナツメさんっ! 流石にそれは言い過ぎ――――」
西篠の言葉が終わる前に――――背後に立つ男の拳が、横薙ぎにナツメへと襲い掛かる。
風を切る拳、それは座ったままのナツメの横腹に勢い良く喰らいつき――――その拳に体の全てを持っていかれたナツメは、そのまま数席分吹き飛び、壁へと叩きつけられた。
壁に衝突し、ナツメはそのまま床に倒れこむ。
そんな光景を見て上がるのは、一般客の悲鳴と、逃げ出すために床を蹴る足音のみ。
ナツメが吹き飛ばされたその軌道には、残らず破損した木製の椅子が散らばっている。
「ッたく、ホントにただの雑魚かよ。確かに、弱い犬ほどよく吠えるって――――」
男の言葉が、突然止まった。
何故か――――その理由は、至って簡単。
先程吹き飛ばされ、床と接吻を交わしているはずのナツメが、何故か今、男の目の前に居て――――
その大きく開ける口に、強引な様子で、回転式拳銃の銃口をねじこんだから、というワケである。
「その言葉、そっくりそのまま突き返すぜ――――よォし、話通りだ。賞金首の天田敏だな? やっぱこう簡単な仕事のがいいな。おい、お前らも大人しくしてろよ、そうしないとコイツの頭は……」
脅すような声の中――――やがて、その『賞金首』は、ナツメの手によって捕らえられた。