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両手でも、片手でも扱える程度の重量、長さを持つ西洋剣を構えながら、ナツメはどこに居るかも分からぬ西篠へと声をかけた。


先ほどの轟音が嘘のように静まり返る中、男達の呻き声が空気を振るわせる。


視線を流す。正面から右方向へ、そして左方向へ。


荒れに荒れた玄関ホールは、榴弾と射撃の流れ弾によって大きな被害を受けてボロボロ。隠れる場所なんてモノは、この中には無いのだが……。


烈しい息遣いを抑えながら辺りを見渡す。すると――――玄関ホールの隅にある扉が、錆びたような音を立てながら開いていくのをナツメは見た。


直感的に、そこに西篠が居る感じたナツメは、静かに足を向け、歩き出す。


足音が気になるほど静かなホールを振り返り、もう一度だけ確認したナツメは、前に向き直って中途半端に開いた扉を全開に、その中へと入っていった。


「……寒ぃな」


中に入ると、そこは先ほどの扉一枚の横幅程度しかない。手を伸ばしきらない内に量の手が壁へと、容易に触れることが出来る狭さ。


人造石製らしい壁には小さな灯りが一定間隔で付いているが、薄暗いことには変わりはない。


空気は冷え切っている。一畳ほど歩くと、薄暗い光りで何とか分かる段差――――階段があった。


立ち止まり、心の中で言葉を紡ぐ。一度髪が垂れ、再び逆巻くのを確認してナツメは能力の再発動を確認。


1つ感想を漏らしたナツメは、左腕の流れ続ける血もその原因の1つだろうと考えて、先を急いだ。


足音が、その中でエコーが掛かるように響く。それがやかましいと、心の中で不平を漏らして階段を駆け下りる。


地下牢。入った瞬間に理解したそこに、そうしてナツメはたどり着く。


階段は終わり、扉も何も隔ててないままナツメは通路へと出た。


横幅の変わらない通路、左手直ぐには鉄格子があって、その向こうにはやや広い、石畳の牢屋。右手の壁にはやはり、蝋燭の光りが間隔をあけて灯っていた。


大きく息を吸って、ナツメは途切れそうな意識を強く持つ。床を擦っている剣をそのままに、柄をしっかり握りなおし、


「おい、出て来いって――――」


ナツメの声が響く瞬間、幾度も見た青白い一閃が迫ってきたと、そう理解する。


だが理解したときには既に遅く、ナツメの身体には既に鮮烈な電撃が走っていた――――。


激痛、腹部に鈍い衝撃を覚え、次いで内臓を焼き尽くすさんとする極炎の如き熱が身体を支配し……。


意識がトぶ。声も出ずに白目を剥くナツメに、容赦なく、目の前の暗き虚空から再び電撃が放たれた。


ナツメの体が大きく、弾けるように跳ねる。跪くが、それ以上倒れることが無いように一撃、更に一閃。


傷口を介して体内に入った電撃は、いとも簡単にナツメの意識を奪い去っていった。それでも、その西篠でんげきつかいは周到に電撃を打ち放ち続ける。


やがて――――周囲に焦げ臭い、人肉が焼ける異臭がし始めて、その動作を止め、鼻を覆う。


加える衝撃が消えたナツメは、ようやく、その場にバタリと音を立てて倒れる。ゴツンと、後頭部でもぶつけたような音がして、西篠は、完全に意識を失っているのだと理解した。


「貴方は勘がいいから直ぐに避けてしまいますから、戦い易い場所を選ばせて貰いましたよ」


何もない空間が、バチバチと電撃を迸らせて歪み始める。微小な光りすらも通さなくなり始める、歪む其処に、やがて人の形をしたモノが浮かび上がり――――そうして、『電磁波を身に纏い光に当たらず、姿を消していた』西篠は、其処に現れる。


「最も、そもそもの容量キャパシティがない僕は、もう能力でんげきは使えません。まぁ、今後、起き上がることはおろか、意識を取り戻すことはないと思いますけどね……ナツメさん」


両足でしっかりと立つ西篠に、『あるはずのない』返答が空気を振るわせる。


「それはちょっと違うかな」


軽快な足音が迫り、


「なっ!?」


何かを擦って音を掻き鳴らす金属音が辺りに響き――――


「取り戻すって言うか、失ってないんだよ。意識をさ」


眼を疑う素早さで一気に距離を詰めたナツメは、何故そんな動きが出来るのか、などの西篠の疑問に答える間もおかず、その懐でそんな言葉を投げて、剣を逆手に持ち、柄尻を鳩尾に叩き込んだ。


くの字に曲がる体。無防備になる大勢を見てナツメは剣から手を離し――――追撃。


背後によろける西篠の顔面に鋭い拳を放つ。強い衝撃を受け、西篠は大きく仰け反り、バランスを崩し、そのまま地面に倒れた。


ナツメは自然落下する剣を再び手にして、その切っ先を倒れた西篠の首元に当て、


「さて、僅差で俺の勝ちってことで」


無理に笑顔を作ってナツメは言うが、西篠は恐怖に怯えた表情のまま、震えた声を口から漏らす。


「ぼ、僕を殺すんですか……、い、いや、その前に、なな何で……電撃を……ッ!?」


話さなければ会話が成り立たないと感じたナツメは、大きく嘆息してから、説明する。


「剣をアース代わりにしたんだよ。それに剣より姿勢を低くしたりして。相手がお前だと限定されてたから、それに備えて能力も発動してたし」


「の、能力……? でも、ナツメさんのは……」


「自己治癒力に身体機能ステータスの殆どを振り分けたんだ。流石に体内の分子を表に引き出して絶縁体を作るとかは無理だからな。お前の電撃を喰らった瞬間から全力で回復し始めた」


「治癒力を……? でも、その左腕は」


「意図的に治さなかった。お前が不審に思うという可能性も考えて、一時的に干渉しないようにしてんだよ」


そういい終えて、ナツメは大きく深呼吸をした後、その鋭い剣の刃を、柔い首筋の肉に押し付けた。


「さて、次は俺から質問だ」


先ほどよりも一層恐怖を感じてそうな西篠を見て、ナツメは辛いことも忘れ、漏れてくる邪悪な笑顔を顔一杯にした。

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