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「すばやさ30、腕力30、動体視力、深視力それぞれ20に底上げ……干渉物は維持」


能力の使用によって髪がフワリと逆巻く。それと同時に、ナツメの呼吸は酷く乱れ始めた。


――――避けて、駆けて、撃って、倒す。一人倒せば、後は楽なモノだろう。


安直な考えだが、今のナツメに出来る精一杯の行動の範囲内である。


無茶は出来る。だが今の状況はそんなことをするべきではないのだ。一人ならまだいい。ただの喧嘩など、自分のためのことならどうでもいいくらいに無茶をする。


だが、たとえどれ程脳内麻薬が精製されても、ナツメは自分を貫き、確実性を求める。


それでもまだ自分が、本当に自分を貫けるのか不安なときは、口に出してみる。


「……マイペースで頑張ろう」


「こないなら、こちらから行きましょうッ!」


呟いた直後に、グレネードランチャーを構える男が叫び――――鈍い衝撃のような発砲音を掻き鳴らして、その大きな銃口から榴弾をはじき出した。


拳より一回り以上小さい、丸い爆弾のような形をするそれは真っ直ぐ飛び、凄まじい勢いでナツメへと迫る。


一秒と掛からない刹那の時間、だがその榴弾が発射された瞬間、既にナツメは銃を構え、引き金を引いていた。


グレネードランチャーの発砲音に重なる、軽い射撃音。そこから飛び出た銀の弾は、その身に精一杯の聖なるご加護を纏って宙を滑り――――


それは見事な程に予測どおり。


ナツメと男を挟む距離の、真ん中辺りでそれらは衝突。その直後、爆発。


強風のような衝撃がナツメを僅かに後退させ、辺りは硝煙の臭い迸る煙が一気に弾けるように包み始める。


大気を震わす爆発の後――――ナツメはその衝撃を利用して弾むように大きく後ろへと跳ぶ。


それは一度攻撃を防いだ故に出る隙を狙ってくる射撃を防ぐための行動で――――


地面を蹴って背後へと飛び始めた瞬間に、一度。豪快な発砲音が鳴り響き、ナツメが居た空間を貫く銃弾は、そのまま階段にぶち当たり、木製のソレを一部分だけ破壊していった。


続けて、耳に障る射撃音、連続する発砲。絶え間なく、射撃を欠かさない敵はそれでも器用に避けまわるナツメに弾を掠らせることすら出来ずに居る。


そして飛ぶ榴弾。それさえも悉く避けてかわされるが、衝撃波によって体力を削ることは見事に成功していた。


床を蹴って背後に飛び、壁際に追いやられるが壁を蹴ってギリギリ回避。敵の攻撃に当たることは無いが、直線で近づくことが難しいので、距離を詰めるには暫し時間が必要であった。


肩を烈しく上下させながらしっかりと床を踏み、撃鉄を起しながら拳銃を構える。


ようやくグレネードランチャーの男がようやくマガジンを交換したのを見て、ナツメは1つ大きく息を吸って引き金に力を込めるが――――


再び、脳を圧迫する痛みがナツメの思考を一瞬白く染め上げた。


キィンと甲高い耳鳴りが鳴りはじめると共に、空間中に中で停止する弾丸が幻影として現れ始めた。


それは恐るべき速度で玄関ホールを埋め尽くして行き、ナツメは一番に自身の危険を感じて、前へ転がるように、恐らく来るであろう射撃を回避する。


そして図ったような発砲音。


ナツメの背後で、再び何かが破壊される音がした。


立ち上がった際に眩暈を感じた。だが、そんなことを気にする余裕もいよいよなくなってきたナツメは、その幻影を利用して、身を隠しながら全速力でグレネードランチャーの男へと駆け寄る。


真っ直ぐ、一直線に。


男の姿は既に幻影で埋め尽くされて見えないが、相手も同じことだ。ナツメは心の内でそう呟いて、拳銃を構え、再び引き金に指をかけ――――


また、銃声が空間に鳴り響く。


ナツメは身体が宙に浮き、横から現れた強い衝撃に吹き飛ばされるのを理解してから、左腕に激痛を感じた。


――――撃たれたのだ。


足が完全に床から離れるのを感じる。何故か時間は緩やかに流れていくが、ナツメはソレに対して疑問を抱く余裕すらなかった。


――――あの速度だ。驕るわけではないが、当てられるはずがない。という事は、先を読まれたという事か? 姿が見えないのに? いや、あぁ、そうか。


ナツメは心の中で嘆息する。


――――この幻影は、俺『だけ』に見えているというわけか。しかし、恐らく電波でコレを見せているのに、どうやって……。


コレ、そういいながらナツメは見開いた眼から辺りの状況を貪欲に、そんな現状でもまだ状況を覆そうと視覚情報を脳に送り込む。


そうして理解したその空間には、既に件の幻影は消え去っていた。


露になる敵の姿。射撃手は驚いたような顔でナツメを見て、擲弾兵笑みを作っていた。


ナツメは身体が徐々に下がり始めるのを感じて、その緩やかに流れる時間の中でフッと、口角を上げて、手首を軽く捻ってから、引き金に掛かったままの指に、改めて力を込めて、そのまま引き金を絞った。


その直後に、緩慢な時間は終わり、ナツメの身体は乱暴に床に叩きつけられた。激痛が、ようやく脳を支配する。視界が紅く染まりあがる中、ナツメはその手の中に残る衝撃を感じていた。


未だ生きているナツメの能力によって通常の拳銃の如く弾き飛ばされた弾丸は、そのまま真っ直ぐ、銃口の先―――擲弾兵目掛けて飛び出す。


ただでさえ控えめな発砲音は、ナツメが床に倒れる音に簡単にかき消されていく。だが確かに飛び出した弾丸は、突然の事態を把握はおろか適応、理解すら出来ていない擲弾兵の腹に喰らいついて、その身を腹の肉に埋めていった。


「ぐぅ……うああァッ! く、くそォ……ちくしょォ……ッ!」


擲弾兵は銃を手放し、仰向けに倒れて腹を押さえる。どうやら撃たれ所が悪かったらしく、胃に流れ込んだ血が逆流して、口から血を吐き出し、呻き声を上げる。


それに対し、ナツメは早くも立ち上がっていた。


血に染まりあがる外套を脱ぎ、破り、止血する。肘より少し上に被弾したナツメは、そこより少し高い位置に、強く布を縛りつけた。


だが――――弾は貫通しているらしく、左腕は動かない。ナツメの意識は、昨夜から繰り越した疲労とダメージの所為ですでにギリギリの位置にあった。


短い呼吸を繰り返す、そのまま床に倒れ込みたい衝動を抑えながら、ナツメは射撃手へと身体を向かせた。


脳に響く痛みを感じながら、ガタガタと震える足を情けなく思いながら、ナツメは射撃手を睨んだまま離さずに居る。


拳銃を下げたまま、撃鉄を起す。引き金に指をかけて――――ナツメは性懲りも無く、今後訪れるであろうチャンスだけを計算し始めた。

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