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「こちらの存在と意図は既に気づかれているでしょうね。この中に居るなら、の話ですが」


ナツメは横に佇む涼谷を一瞥する。


へびが出るか、じゃがでるかだ」


「蛇しか出ないですね。いや、それを言うなら――――」


そう言う刹那、一閃、何かが走り――――目の前の扉が突如として大きな穴を開け、破片を飛び散らせ始めた。


何が起こった? いや、何をしやがった!? 心の中で叫ぶナツメは、言葉を無視して振り上げた剣が、そのまま扉を破壊していくのを目の当たりにして、吃驚する。


何の合図も無く、協調性のカケラも見せない涼谷に言葉を失い、次いでに驚きで身体を硬直させていると、涼谷は気にする風もなく。無残に破壊された扉を、蹴って粉々に。ようやく自身が通るほどの大きさになったところでズカズカと中に入っていった。


「むっ」


入った途端に、涼谷は声を漏らして立ち止まる。


ナツメも急いでその後をついて行き、立ち止まった理由を目の当たりにした。


何か、耳鳴りのようなものが頭に響く。そんな中、珍しく明るい玄関ホールの、階段の前には武装した集団が居た。


「な、えっ――――」


予測しきっていた事態に、それでも驚愕し、ナツメは息を詰まらせる。


何故か? それは無意識の内に、ナツメは嫌な予感を脳裏に過ぎらせ、それを本能として感じていたからである。


予感、抽象的な表現だが、理屈では説明できない何かを、ナツメは確かに感じ取っていた。


だからこそ、驚きに筋肉が硬直し――――少し前で、肩当てを外し、それを繋げて盾にして装備すると直ぐに前へと、その集団へと駆け出す涼谷に、ナツメは着いていけなかった。


床を鳴らし、脚甲の音を掻き立てて見る見る内にその集団へと迫っていく涼谷。


何の恐れも、畏怖もなく勇ましいままに剣を、ただの棒切れのように軽々と振り上げ――――


その瞬間、青白い一閃が、涼谷のその掲げられた右腕の下、無防備な右横腹へと突き刺さる。


身体が大きく弾み、地面を蹴って浮いた身体はそれでも勢いを殺すことなく、その集団の中へと突っ込んでいった。


だが――――それなのに、涼谷はその集団を蹴散らすことも、なんの危害も被害も起さず、綺麗に隙間を縫ってその階段へと身を転ばせた。


それはまるで、集団を『通り抜けた』ように……。


すり抜けた? どうやって、目の前の集団は確かに眼に映っているのに――――


処理しきれない疑問を多く抱え始めるナツメは、一旦その全てを保留にして、重く、扱いにくい剣を抜刀。


刀身が鞘から抜け切るのを確認して、そのまま手を離して、剣を放り捨てた。


直後、動体視力では追いつくことは到底不可能である電撃の一閃が、その剣に直撃。


刃は半分から2つに分かれてそれぞれ自由に飛び散って――――その直ぐ後に、鼓膜を突き破るほどの甲高い、野生の動物にも似た悲鳴の如き音が辺りの空気を鋭く振るわせた。


本能的に耳を塞ごうとする、反射動作を無理矢理抑えたナツメは、その電撃でようやく発射元を確認。


涼谷の安否確認を後回しに、撃鉄を起したままの拳銃を引き抜いて――――能力を発動させた。


「干渉……撃針衝撃、100――――再振り替え終了……ッ!」


銃が妙に重くなる。一気に頼り無く見え始めるその銃を、二階の吹き抜け部分、階段から少し離れた位置にある『影』に構えて、引き金を迷い無く絞った。


――――撃針、それは弾丸の火薬に火をつける雷管という部分に衝撃を与えるもの。


この弾丸には、弾丸が弾丸として飛ぶ火薬がない。だから、本来の銃では飛ばすための力がないソレは役立たずなのだが……。


ナツメは考えたのだ。火薬は無いが大きさは同じのソレの雷管部分に、通常よりも遥かに大きい衝撃を与えればそれは常通りに飛ぶのではないか? と。至極安易なまでに思惟を働かせ、そして試した。


撃鉄が通常の位置に戻ってガチンと音を鳴らす。


失敗か。刹那の速さで脳が判断するその直後。手の中に強い衝撃が残り――――遠く離れた向こう側、影が背にしている窓が割れた。


パリンと音がして、ガラスが飛び散る。


それでも、その、人ならば中腰くらいの高さの身長を持つ『小さい影』は身動きを1つしないで、僅かに強くなった光りを背に受け続ける。


逆行の為に誰なのか、窺い知れないその人物は、既に何者か、ナツメには理解できていた。


「俺が甘かったがな……今度はちゃんと、お前を送ってやるよ。西し――――」


キィンと、脳にモールス信号じみた電波のような何かが響いて、ナツメは思わず頭を抱えて跪く。


いつの間にか強く瞑っていた眼を、なんとか回りだけは確認しようと、徐々に開いていく。


「なっ――――」


今度ばかりは、ナツメは心底虚を突かれて言葉を失った。


ナツメが眼にした今度の姿は――――見覚えのある姿の……、それは西篠の集団であった。

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