最終話「はじまりのはじまり」
涼谷が自称する榴弾砲、実際の携帯式対戦車用無反動砲は、大気を揺るがす轟音を響かせながら榴弾を撃ち放った。
少しして、地面を揺るがす爆音、爆発。上守宅の門が爆炎と煙で包まれる中、ナツメたちも大振りなバズーカ砲のようなソレが尻から吐き出す煙に包まれていた。
涼谷は、間をおかずにサックから次なる榴弾を取り出し、装填し始めた。
「ソレって使い捨てじゃないんですかっ!」
大声を出さなければ届かない声をなんとか聞いた涼谷は、発射筒を調整しながらマイペースに答える。
「お前の考えてるソレとは違う、改良型だからな、幾発かは大丈夫」
言いながら肩に乗せ、照準を合わせ、言葉が終えると同時に射撃。
唸る轟音は、耳を塞いでいても鮮明にその音を鳴り響かせ、目標に着弾した衝撃は、鈍い衝撃を地面に伝える。
そうして涼谷は計5発を打ち込んで――――残弾の無くなったそれをその場に置いて、頭の後ろから突き出る柄に手を掛け、走り出す。
まだ煙も晴れない、敵まだ生きているのか、そもそも敵なのか分からないそこへと駆け出していく。
ナツメはソレを見て、慌てた様子で銃をホルスターに仕舞い込み、腰の剣に手をやりながら、後を追っていった。
――――涼谷の予想外過ぎる行動に、ナツメは全ての計画を崩された。否、それは涼谷のせいではないだろう。寧ろ涼谷は最も正しい判断をしたのではないか?
仮にあのまま、何もせずに突っ込んでいったら先手を打たれ、死ぬことは無いにしろ手傷は負っていただろう。
だから、まぁよしとするか。考えも浮かばないほど、時間は無いのだ。
無理にまとめた頃、ナツメはようやくその煙の前に到着する。
鼻を突き刺す硝煙の臭い。眼に染みる煙に少しばかり怯みながら、中に入ろうとすると――――その煙は、突然内側から吹く風によって、切り裂かれるようにして2つに分かれていった。
否、切り裂かれるように、などではなく、それは確かに切り裂かれたのだ。
黒い鉄の残骸の上に、大剣を片手に下げる涼谷が背を向けているのを見て、ナツメはそれを理解する。
「どうやらダミーだったようだな」
クセのある、少し長い髪を掻き上げて言う涼谷に、ナツメは肩をすくめて返した。
「早とちりもいいところですよ。全く」
呆れたように、少し小ばかにしたように返してみる。すると、涼谷は首を回して、ナツメを見た。
横顔から見えるその瞳はつりあがり、明らかにナツメを睨んでいるものであった。
「何もしてないクセに口だけは達者だな」
「何もしてないから、口だけが達者なんです」
そうに返すと、涼谷は口元に笑みを浮かべてから、前に向き直った。
「そうだな。だが、今度はちゃんと手伝えよ? 今ので完全に宣戦布告になっちゃったからな。証拠云々は、取り合えず皆を黙らせてからだ」
バラバラに砕かれた鉄壁の残骸を踏みながら、やがてついでにと破壊された門をくぐって中へと入る。
巨大な庭は、やはり昨日と変わらず自然豊かな様を見せ付けていた。
噴水からは水が吹き出て、豊かな緑はそよ風にたなびく。そんな平和的な風景に、大剣を持った涼谷と少し長い剣の柄に手を掛けるナツメが、場違いのように立っている。
そんな景色を楽しむ気はさらさらない2人は、敵の気配だけを神経質に探って、前へと進んでいく。
水の流れる音、それに乗じて足音はしないか、綺麗な果断の中に人は潜んでいないか、などなど。
神経をすり減らしながら、2人はようやく玄関の扉の前に到着した。