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ナツメはそんな行動に、あぁまた面倒な事になったなぁ、と心の内で呟きながら、前方へ構えるアサルトライフルを投げ捨てながら、右方向の床へと飛び込むように跳んだ。


その直後、未だ宙を舞うその銃に蒼白く延びる閃光が走る。それが、一瞬よりもさらに短い刹那間の時で到達し――――銃が弾き飛ばされてから少しして、空気摩擦のような、耳に障る甲高い音が鳴り響く。


ナツメはそんな音に顔をしかめ、だが、怯まずその足を動かした。


着地した地面の感触、硬さを脳で理解すると同時に、再び今度は前へと大きく跳ぶ。


するとまた、その直ぐ後ろで電撃が跳ねた。


跳びながら、また新たな着地点を模索する。プラズマを発するように身体をバチバチと言わせる西篠の目線を追って、そしてその電撃が作り出す灯りに照らされない位置へと……。


そうやって、繰り出される電撃の数々を全て紙一重で避けながら、ナツメは『能力』を発動させる。


「賢さ……60、素早さ……40ッ! 再振り替え終了」


身体のバランスが著しく変化したのを感じて――――西篠の周りを回るように動いていたその身体を、大きく背後へと跳んで離した。


そうしてナツメは素早く靴を脱ぎ捨て、ソレを手にして、左方向へと投げ――――それと同時に、ナツメはその逆の方向へと足音をさせずに駆け出した。


少しして、物が落ちる音がする。思惑通り西篠がそちらへ向いた頃、ナツメは階段の中腹部分に居た。


一定の時間的間隔で放つ電撃の音に乗じて飛び上がり、手すりに足をかけまた1つ飛び、階段へ。


ホールの真ん中に居る西篠に気づかれぬように、抜きつ差しつと足を運び、やがて二階の吹き抜け部分へと到着する。


幾度も電撃が走る音が鼓膜を震わせ、ナツメは烈しい偏頭痛を起している。脈打つたびに、脳を圧迫するような感覚がナツメを苦しめるが……。


「……ふぅ」


息を殺しながら自動拳銃を構え、電撃の鳴る瞬間に引き金に指をかけ、構える。一挙一動に烈しい集中力を要するその状況にうんざりしたように、ナツメは歯を食いしばりながら息を吐いた。


「……足音を消して逃げ回っていたと踏みましたが……、どうやらそれは違うようだ」


ククク、と押し殺すような笑いの後、西篠は頭上のシャンデリアへと手を伸ばし――――


「隠れても無駄ですよ……、臆病者ナツメさん?」


その掌から、青白い糸が何本も伸び、天井の照明具へ触れる。そうして干渉し始めた電気は瞬く間に、そのシャンデリアへと光を灯す。


明るくなどない、電球の切れかけたような、紅い光――――それは暗闇に目が慣れた両者にとっては、最も辺りを確認するに最適な光量――――が、優しく辺りを照らし始める。


ナツメは慌ててその指をかけた引き金を引いた。


今ならまだ間に合う。そう確信した――――ものではなかった。


明かりが灯された瞬間、それはナツメにとって最も不利な状況となり、その姿が露呈すれば電撃によって直ぐに打ち負かされる。


暗闇ならば、音がしたという認識しか出来ないので、直ぐに逃げることが出来るが――――灯りがある今、逃げているその姿が認識されれば、その遠距離攻撃を放たれてしまう。


息が止まる――――銃口から弾き出された銃弾はの軌道は西篠の後頭部であった。現在は、その横顔、こめかみである。


音がした、ナツメの腕にようやく衝撃が伝わる瞬間。弾は既に、ナツメと西篠を一直線に結んだ線の中腹過ぎまで進んでいる。


本来の人間ならば反応できない位置、距離であるのだが――――


西篠の視界にナツメが入った。その瞬間、というかほぼ同時に、飛んで来た銃弾を理解する。


そうして――――気がつくと、西篠から飛び出た閃光が、薄暗い室内を飛ぶ小さく、暗い、目を凝らさなければ分からぬ銃弾の横腹を打っていた。


バチィン、と、太く伸縮性が強い何かが切れる音がする。


果たして銃弾は落とされたのか、軌道を逸らされたのか――――指の一関節半ほどの凶器の結末を知ることも無く、ナツメは身を乗り出し、手すりに足を掛けると、強く蹴り飛ばし、吹き抜けから飛び降りた。


飛び降りながら、その身体が予想以上に距離を伸ばさず、西篠の背後へと向かうまでの光景を、数秒ばかり先の未来を脳裏で思い描きつつ、再び引き金を引く。


聞きなれた、火薬の弾ける音を耳にするが――――すぐに、聞きなれない音が、銃弾を弾いていく。


弾が自然に込められるのを感じて、再び引き金を引こうとするが、


「くっ!?」


真っ直ぐと、そんな行動など読んでいたと言わんばかりの電撃が伸びる。


ナツメの手にする拳銃へと。


手を離そうとする行動も滑稽に、やがて電撃は拳銃を伝道し、ナツメへと到達する。


すぐさま感じる烈しい痛み。バチバチと焼け付くような痛みが小刻みに、やがて体中を侵して回る。


まともな思考が一切合財強制終了させられて、そうして直ぐに回復する。


だが、未だ身体は正常な動作を得られずに、まともな行動も、思考もままならないまま、受身も取れずにナツメは振り返っていた西篠の前へと『落ちた』。


「とんだ様だ。弱い僕を守っていてくれていたはずなのに、これじゃあ心許無いじゃないですか」


左手を上に伸ばしたまま、西篠は見下ろすようにナツメへと視線を投げ、そうして、今度はゆっくり右手を差し伸ばした。念の為に、ナツメへと電撃を流し続けたままで。


「最後に何か言いたいことは?」


そう言うと、ナツメの肩がビクリと動いて――――西篠はソレを見て、クスクスと、伸ばした手を口元に運んで笑みを隠す。


「もしかして、痛めつけられるだけだと思っていたのですか……? なら、アナタはホントに、口だけの――――」


言葉を投げる中、ナツメの手が伸びる。


西篠はなんだろうと思いながら口をつぐんでソレを見守ると、それは救いを求めるように、西篠の両足首を掴むようにすがりつくばかりであった。


そうして――――西篠は、今度ばかりは笑いすらも起せない心境に陥る。


「……もしかして、ソレを本気でやっているのですか……?」


口にしながら、西篠はその手へと電撃を流し続ける。床を介しないその電撃は、さらに強く――――だが、ナツメはその手を離すことは無い。


「……、……っ」


何かを呟いているらしい。それだけが理解できる、かすれる声に、西篠は大きく息を吐いた。


失望と、激情と。何故湧き上がるのか、知りたくも無い感情が口にする。


「貴方が、そこまで脆いとは――――」


言い知れぬ怒りが、原因不明が掻き立てる感情のままに再び降ろした手から電撃を放とうとしたその時。


ボキリと、鈍い音が、身体の中を響くように耳へと届いた。


身体が傾く。それと共に、足首には激痛が走り……。


それでも立とうとする足は、体重が掛かる事に痛みを加算させる。つまり、立っていること自体が烈しい苦痛。


脳へと浸透する痛み、傾く景色。一歩、よろける度に感じたことの無い痛みで、喉が張り裂けるような叫び声を上げた。


やがて、西篠はわけの分からぬまま床へと倒れ――――そうして、少しして天井を見る視界の横から入ってきたその人物で、ようやく理解する。


西篠が倒れ、能力を解除したが為に当たりは再び暗闇に飲まれていった。だが、西篠は、自分の顔を覗き込むのが誰か、状況的にも、すぐに誰か分からざるを得なかった。


「解除」頭の先でそう呟くナツメは、大きく嘆息して、西篠の顔を見た。


深い闇の中、顔は決して見えることは無いが、形式だけでも、ナツメはそうしてみたのだ。


「悪いな、強い能力なのに単純な戦法で倒しちまって」


ナツメは床から回収した愛銃の銃口を西篠の額に突きつけながら言う。それを聞いて、西篠は小刻みに、首を縦に振った。


「負けるとは思っていなかったので、少しばかりショックでした。それに、やられたフリをして、足首を握りつぶすなんて方法で……」


声の振動が足まで伝わる。断続的な痛みすら耐え切れない西篠は、今度は声を小さく、掠れるように続ける。


「タイミングは合ったんですけどね……、今度は、人選ミスかぁ……。もっと、弱い人かとおもってたのに……」


そう聞いて、ナツメは軽く微笑んだ。


「なに、俺だって強くはないさ。能力だってショボイしな」


「どんな、能力なんですか……?」


身体機能ステータスを数値に変換して、それを再分配する能力だ」


「……それじゃ、もっとまともな勝ち方も考え出せるんじゃ」


「能力の酷使は疲れるからな。身体を直接使うモノなら尚更だ。だから楽な方法を選んだ。お前にゃ悪いけどな」


「はは、そりゃ無いですよ……」


西篠はそう言って、溜息を吐いた。「もう、殺してください」


その言葉を聴いて、ナツメは顔を引き締める。


その後少しばかりの沈黙を置いて――――ナツメは「あぁ」と頷く。


その後、引き金に指を掛ける音がカチャと、音を鳴らして――――乾いた銃声が、閑静な住宅街の、広いお屋敷の玄関ホールに終焉を告げた。

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