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「虐待? そのようなこと、した事はありませんわ」


ナツメがコレまでの経緯を話すと、上守は滅相も無いと否定する。


弾数が数発の弾倉マガジンを外し、取り替えながら、ナツメは上守の説明を耳に入れた。


「全ては、私が少しばかり、奴隷に悪戯されたことから始まりました」


――――数ヶ月前、一人の仲が良かった女性の奴隷に、スカートを捲られたという。仲が良かった為、一応厳重注意という措置で終わったのだが、その日を境に、その奴隷の姿は見えなくなった。


他の奴隷仲間に聞いても分からず、逆に聞かれ、岩垣に聞いてもかぶりを振ったという。


それでも気になり、屋敷中をくまなく探すも、見つからず。やがて残ったのは、この地下牢。


恐る恐る、鍵を拝借して入ってみると――――そこには歯を抜かれ爪を剥がれた、血まみれの姿が、鎖につながれて居た。


その日の記憶は其処で途絶え、気がつくとベッドの上。慌ててまた同じ場所に行くが、地下牢へと続く扉の前には岩垣が立ちふさがり、中に入ることは出来なくなっていた。


そんな事から始まり、気がつくと、奴隷達は殆どがその姿を消していた。


掃除がされずに埃が溜まる屋敷内。その所為で、上守の持病である喘息は悪化。


唯一以前と変わりが無いのは、庭の園芸のみであった。


「たった、それだけなのです。彼は元々、私に対して過剰なまでの保護をしていて……。西篠も、彼に強要されているだけです。気の弱い彼は、自分の意思では戦えませんから」


背を向けたまま話を聞いていたナツメは、そんな事を言う上守に振り返り、暗い中、顔も良く見えないそこで鋭く睨みつける。


そうして、怨むように言葉を紡いだ。


「決め付けんなよ。弱さなんて、ヤツ自身分かってんだ。それをさらに攻めるような、見下すような言い方は無いだろう」


強い口調に上守は一歩下がり、顔を少し俯かせる。そうして、「すみません」と聞こえてから、ナツメは続ける。


「……こっちこそ、悪かったです。――――因みに、この件で人が信じられなくなったりは?」


問い掛けると、上守は顔をゆっくりと上げ、傾げてから空気を振るわせた。


「えぇ、そうですね……少なくとも今は、誰も信用できません」


だから、と続けて、上守は背に隠している何かをナツメに向ける。ソレは金属が擦れる音をさせて、廊下から照らされる蝋燭の光に反射する光沢があった。


「なるほど、俺も信用していないというわけですか」


先ほどの男から剥ぎ取ったアサルトライフルを手に、表情の伺えない上守は、それでもなんとなく、笑顔なのだろうと、ナツメはそこはかとなく感じ取った。


ナツメは腰の、剣の鞘のベルトを調節してから、ホルスターに仕舞い込んだ自動拳銃を取り出し、上守に手渡す。


疑問に思いながらソレを手に取り、眺めている上守を尻目に簡単な説明を行う。


スライドを引き、撃鉄トリガーを起こす。構える場合は両手でしっかりと支える、弾が切れたら引き金近くのポッチを押して弾倉を引き抜いて……。照準は……。


そんな説明をすんなりと理解した上守に、ナツメは軽く笑顔を見せた。


「護身用だと思ってください。人より無機物のほうが、少しは頼りになるでしょう?」


「はい、貴方よりは」


そう笑顔で返した後――――2人の顔は即座に引き締まる。


ナツメには大量殺人容疑のある岩垣への言及が残っており、その障害に、西篠が居る。


上守は、大切な奴隷達を皆どこかへやってしまったという疑惑が岩垣に募り、胸を高鳴らせていた。


ナツメが先頭に立つ。背後から見るナツメの背は、どことなく頼りになる感じであったが、今の上守はそんなことよりも、いつ裏切るかを心配し、弾がこもったままの拳銃を構え、放つ動作を幾度も脳で練習する。


辺りは静かに2つの足音を響かせ、やがて、階段を上りきったナツメは呼吸を置くこともなく扉を蹴破った。


扉は突如加わった力に反応できずに、破損。蝶番ちょうつがいが破壊され、扉はぶら下がるような形で静止する。


そうして、その後再び静寂が空間を支配し始め――――それは沈黙が全てを覆いきる直前で、盛大に床を鳴らす音に、振動に、払拭されていった。


何かが落ちたような音、そして――――それが駆けて迫ってくる音。振動、そうして聞こえてくる雄たけび。


それは紛う事なき岩垣の地響きにも似た低い声であった。


「ォォォォオオオアアァッ!」


瞬く間に迫ってきたその巨大な影が、拳を放つ。


ナツメがソレに反応しようと身構えたときは既に遅く――――ナツメは横腹を抉られるように殴られ、力の加わった方向へと無茶苦茶な力によって吹き飛ばされていった。


一瞬息が止まる程の激痛を受けてから、身体は妙な浮遊感を感じ、ナツメは一度地面に弾む際に両手で地面を押し、体勢を整えて、次に地面と接触するタイミングで、しっかりと床の上に足を乗せる。


少し床を擦って立ち止まったナツメは、肩に下げるショットガンとバッグを投げ捨てて、腰から剣を抜き、その抜き様に前方を切り裂いた。


迫る気配は直前で止まり、目の前で地面を強く蹴る音が響いてから少しの間があり――――そこから少し離れた前方で、似たような音が広い玄関ホールに鳴り響く。


「なんつー身体能力してんだか」


ナツメは先ほど出てきた地下牢入り口を一瞥して、まだ其処に影があることを確認してから、軽く息を吐いてから気配のするほうへと駆け出す。


完全な暗闇。カーテンが閉めたままのわけがようやく理解できた中で、暗順応し始めた目を凝らしてよく動き回る目標を見つめる、


「……ふぅ」


駆け出した足をホールの真ん中辺りで止め、1つ息を吐いてからナツメは静かに眼を瞑った。


「立ち止まる事は、即ち死! 治安維持委員会がっこうではそんな事も教えていないのかァッ!? お客人!」


狂ったように叫ぶ声はその居場所を良く教えていた。それを感じながらナツメは長めで、少しばかり重く、扱いにくい刀剣を正眼で構え、心を落ち着かせる。


何も見えないのならば、視覚情報は帰って邪魔になる。相手は強い、長期戦に持ち込めば恐らく不利になる。だから、一撃で決めなければならない。


「……なァるほォどォ、治安維持委員会だと恐れてはいたが……戦いは滅法苦手と見た。肉を切らせて骨を絶つ、所謂カウンターを狙っていたのならば、この戦い、お前の負けだよ、お客人」


そう大声で嬉々として空気を震わせた後、斜め後ろ――――先ほどまでナツメが居た位置で、ポンプが景気良く音を鳴らしていた。


ポンプ――――それは、殆どのショットガンの弾を込める方法で、正式名称をポンプアクションという。銃身下部に付いているポンプを引く事によって薬室から弾丸を給弾する構造を一度で行う事が出来る。


つまり、一回引くごとに一発弾を撃てて、それは弾倉から弾丸がなくなるまで繰り返すことが出来る。


因みに、であるが――――そのショットガンはベネリM3という名で、ショットガンの中でも高級品である。発射速度、威力、共に高い。が、その分連射性に悪く、集弾性が低いので一点集中は難しいのだが、この状況ではさほど問題にはならない。そもそも、ショットガン自体が当たれば致命傷は免れないモノであり――――


「……」


やがて、先ほどまで少しばかりの余裕を見せていたナツメは、その顔から一切の血の気を引かせていた。

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