第一話『チャレンジング・ザ・ピーポー ――止まない挑戦――』
地球。それが誕生して、既に60億年以上が経過したと言われている。
広大な砂漠の中で、吹く風によって巻き上げられる砂から身を守りながら、男はふとそんな事を考えた。
神は人を住まわすために、この星を作り、豊かな自然や、豊富な水等を丹念に作り上げたそうだ。
そして、この星がまだ『豊かな星』であった頃、人はこの地に一個生命として存在し、文明を築いていったのだ。
やがて人口は増え、文化も発展した。
数千年前には車が宙を浮いていた、という嘘か真かも分からぬ噂まで流れるほどに。
だが、火の無いところには煙も立たないという諺があるから、恐らく事実なのだろう。
最も――――男は立ち止まり、腰に下げた革で出来た水袋を手に取り、ようやく風が止んだそこで、水分を補給した。
「……ふぅ、ったく。昔が栄えてただとか、言っても仕方ないんだよなァ」
神の雷が振り下ろされて、地上の殆どは砂と化した。それでも、木々が残っていたことと、海が無事だったことは幸いなのだが――――
現在では、地上も元の水分を含んだ肥沃な大地へと戻りつつある。
それでも、未だ地上の7割は砂漠なのだが――――
今から約4000年ほども昔のこと。
生き残った人間達は、持ち前のハングリー精神でしぶとく生き抜いた。故に、この男は数千年の時が経っても、平和的にこの砂漠の真ん中で呑気に水で喉を潤すことが出来ているのだ。
科学技術は、およそ1800年代までの物を取り戻している。
陶器で出来たカップから、砂漠の上をレール無しで行き来できる鉄道まで。
男の立つここは、かつて日本と呼ばれた地。というか、現在でもそう呼ばれているのだが――――
男の立ち止まる場所から、街までは歩いておよそ3時間。延々と伸びる地平線から少し手前に、その孤城のような姿を見せているのが、街なのだ。
砂漠に沸いたオアシスを拠点として築かれた街は、砂漠の中でポツンとさびしく佇んでいる。
移動手段は基本的に徒歩か車。最近では、この日本でも石油を掘り当てる事に成功し、ちょっとしたバブルという時代が到来し、生活にはそうそうに困ることは無い。
「……さて、そろそろ行くか」
男は大きく伸びをして、捲っていた布で再び顔を覆い、歩き出した。
――――4000年ほど前、神が落とした雷から生き延びた人間が居た。
それは僅かに5000人ほど。数で数えれば多いが、全世界の人口で比べるとほんの一握り。
生き延びるはずが無く、見逃されるはずも無かった人間が、未だこの地に生を反映させている理由が、そこにはあった。
それは、危機的状況によって目覚めた『異能力』。
元々人間に備わっていた、というわけではない。
それは、神のちょっとした悪戯。神が、アダムとイヴをこの世に作り出した際に、アダムに授けたものがあった。
『隔世的に遺伝する異能力』。神が遊びで作り出した能力を、隔世遺伝として人間に授けたのだ。
それはちょっとしたゲーム気分で作り出したものだった。だが、それが故に、人間は生き残り、また生きる権利を得た。
そんな『異能力者』が蔓延る世界が舞台となって、この物語は始まるのだ――――