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「さて、と」


ナツメは強い日差しの中、それでも砂上よりは幾分かマシの体感温度に軽く汗を浮かべつつも、大きく伸びをした。


中央区へと伸びる線路がある西地区の中では、比較的人通りの少ない『西地区第3区画駅前』。出発駅である北地区第4区画駅前を、少しこざっぱりした風の景色。


だが、そこにはどことなく、上品な雰囲気が漂っていた。


「ここはわりと、大金持ちとか、貴族の方が多いんですよ」


「へぇ、西の方はあまり来ないから知らなかった」


ナツメがそう頷き、西篠が横に立ち止まるのを確認してから、言葉を続けた。


「さて、それじゃ道案内を頼むぞ」


言いながら背中を軽く叩くと、西篠は押される様に前へ出てその行動に不平をもらしながらも、前を歩き始めた。


歩いていくと、似たような広場を抜けて――――通りに出たのだが……。


「へぇ……。すごいなぁ」


建物は少なく、通りは並木道になっていた。砂漠の中の都市であることを忘れる程、木々は生い茂り、木漏れ日が風情を湧き立てる。


影に入ると、先ほどの暑さなんてものは全て忘れてしまい、気づくと、汗が必至の昼間なのにも関わらず心地の良い肌状態を保っていた。


「お金を持っている人が多いから、その分権力も幅を利かせて……、その結果が、コレなんです」


西篠は横に並ぶナツメを横目でチラリと見ながら、両側の木々に向かって手を広げる。


「いいんじゃないか? 発展都市も科学ばかりじゃなく、自然にも配慮するってのが受け取れるからさ。世界も徐々に砂漠を減らしてるみたいだし。無論、日本もだけどな」


そこから少しばかり話題から逸れ、そこから世界の砂漠割合についての話し合いに火がついた。


現在、海を除く大陸の砂漠化は70%になっていたが――――現在といっても、人が住む、『近場』しか測定していない上、測定できないので、正確にはおおよそ40%程なのではないか、と疑われている。


海辺は水も豊富で、その他諸々の影響により肥沃しているだろう。それに、都市近辺もそうだ。人が住んでいる近くの大地も、自身が生きるためということで、人間が蘇らせる。


日本の場合――――全土にオアシスを持たない集落や街が、他国と比べると多めなので、一概にそうとは言えないのだが。


だが、少なくとも、日本のこの都市は、最も自然を蘇らせていると、断言できるほど豊かに進展している。


「あら、上守卿の西篠さんじゃありませんこと?」


環境問題に熱弁を振るわせていると、不意に前方から通り過ぎようとしていた、日傘を被る婦人がそう声を掛ける。


「あ、ど、どうもいつもお世話になっております」


西篠はその婦人の顔を見るなり慌てて頭を下げた。そんな姿を見て「うふふ」と口を押さえて上品に笑む婦人は、西篠に頭を上げるように伝えた。


「あ、今日は従者の方も連れずにどちらへ?」


「たまには1人になりたいものよ。日差しはお肌に悪いけど、たまにはお日様の下に出なければもっと身体に悪いから……。そちらの方は?」


そうしてようやく気づいたのか、婦人はナツメに手を差す。それを受けて一歩前に出たナツメは、慇懃に挨拶を始めた。


「どうも始めましてご婦人様。上品な顔立ちで、お綺麗な御洋服は名高い御貴族だと見受けられます。僭越ながら挨拶を承ります。私はナツメと申し――――今日は上守卿のお客人として招かれたわけでして」


「あらやだわ、お口がお上手なのね。私は『陸奥橋順子むつはしじゅんこ』。どうぞお見知りおきを」


長いスカートを軽く、ふわりと持ち上げるように挨拶をした婦人は、その後簡単な話を交わした後、「従者おってが来るといけないから」と嬉しそうに語りながらその場を後にしていった。


「愉快な方だ」


ナツメはその後姿を見送りながら呟くと、隣の西篠は小さく頷く。


「えぇ、とても良い人ですし」


そうして、そんなことがありつつもやがては上守家の門の前へと到着したのだが……。


「……」


其処まで来るまでには、確かに北の住居などとは比べ物にならないほどの豪華絢爛な家や、城のような居住を見てきたのだが――――今ナツメが目の前にしているソレは、確かな城であった。


門の前だというのに、そこからまた広く長い庭を歩かなければならないというのに、その『城』はそこからでも十分大きく目に映る。


2、3階建てなのだろうが、その規模は大きく、屋上もあるのだが、そこからまた尖塔が聳え立っている。


白を基調にして、これまた上品な雰囲気を作り出す。


ナツメはそれを見て大きく嘆息した。


貴族という存在にまず緊張するのに、コレほどまでの令嬢に会わなければならないという緊張に、両親が居ない、という事ゆえに、恐らく頭脳も飛びぬけているだろうから、という油断できない状況。


それらを踏まえて大きく心を落ち着かせるように息を吸うと、


「それじゃ、行きますよ」


西篠は上ずる声で、門の鍵を開け、柵のようなその門を大きく開いていった。

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