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第二話『割と不幸な今日と明日』

その後、ナツメはしっかり武装をし直して武器屋兼情報屋を後にした。


2人は並んで暫し歩き、通りを抜けると其処には大きな広場があった。


中央に剣を掲げた、背に翼が生やしている人間の像があり、そこから一帯は何もなく、広場は大きな円形になっていた。


数人の女が談笑し、其処から少し離れたところでは子供達が楽しそうにそこら中を走り回っている。

そんな一見平和な光景を、西篠は茫然と見ているのに気付き、ナツメは静かに説明した。


「ここは居住区。北区の第3区画は人が住む土地だ」


「居住区……?」


そう言うナツメの横顔を見てから呟いて、再び前に向き「へぇ」と、感嘆のような納得したような声を漏らす。


再び歩み始め、その反対側の通りに入る。西篠がその脇にある鉄製で背の高い看板を見上げると、『第4通り』と記してあった。


通りに入ると、先ほどとは違う風景。両脇には商店も、それを表す看板も無く、ただひたすらに高い壁が通りを谷のように作り出していた。


それぞれ一定の距離を開けて少しばかりの段差、その上に扉があった。見上げ、その壁を見ると所々にガラスが張ってあり、西篠は「なるほど」と、ここは居住区なのだと確かに認識する。


通りはそう狭くは無い様で、人通りは第3通りよりは若干少なく、だがその代わりに通りの端で固まって言葉を交わす主婦の集団が居ても、さほど邪魔にはならなかった。


そうして――――そこから移り変わる景色と通りの名称を眺めながら行くと、今度は先ほど見た居住区の広場よりもさらに広い、広大に開けた風景を目の当たりにすることとなった。


「北区第4区画は『交通区ターミナルエリア』だ。ここを通る電車で、東京とし内ならさほど時間も掛からずに移動できる。まぁ、北区は理由があって4、5区にしか線路が通ってないけどな」


「他は全ての区画に電車が?」


「そう。そこが中心部になるし、北区ここにもあるが、そこには『自動車タクシー』もあるから交通に関しては非常に便利になる」


この国は先進国の中でも際立って発展しており、未だに米国やロシア、西洋などは1800年代科学技術なのに対し、既に2000年以降の技術を取り戻している。


故に電車もあるし、自動車も東京内のみに限るが交通手段として利用されている。


さらに中央区に近づけば近づくほど電気を活用したモノが目立つし、建物は木造製から鉄筋建造が主流になる。中央区では、現在扱える技術を利用した高層建築物が建てられ、さらに物品の純度は跳ね上がるという。


水も、水源を掘り当てるという古風な手段で行っていたが、巨大な水源や、燃料を手に入れ、古代の遺物――――電化製品や、銃火器、等の物理的遺産や、知的財産など――――を探す事に汗を流して、現在では、粒子、分子を化学反応させることで人工的に水を作り出すという科学を手に入れていた。


それでも未だ、自国のことで精一杯らしく、他国にその情報を伝えることもままならないのだが――――。


そんな説明を終える頃、日は既に傾き、街は夕日の綺麗な紅い色に包まれ始めていた。


「今日は宿をとって休むか」


「そうですね」


交通によって人口密度の多い其処は、それ故にいつでも休憩できるように宿泊施設が豊富に建てられている。


その中の、割合個人的経済を大きく揺るがさないような宿に足を向け、ガラス戸を押して中に入っていった。


中は割と小奇麗で、西洋風。吹き抜けとなっており、天井は高く。そこにはキラキラと輝くシャンデリアが吊るされていた。内装は程よい豪華さを保ち、だが、他と比べると控えめと思われた。


ナツメはそんな小洒落た雰囲気も特に気にした様子も無いままに真正面のカウンターまで大またで歩み、


「1泊、2人だが幾らします?」


西篠との会話では聞かないような、割と丁寧な口調でカウンターの向こうに立ち、笑顔で出迎えた女性の声を掛けた。


「お食事はどうなされますか?」


「付けて欲しいですね」


「それならお1人様5千円ですので、お2人様だと1万円を頂戴します」


「手ごろですね。それじゃ、これで」


ナツメは財布から流れるように1枚の札を取り出してカウンターに置くと、女性店員はそれを手に、「少々お待ちを」と声をかけ、屈んで何かを取り出し、


「そこの階段を上り、右に曲がって奥から3番目のお部屋になります。トイレは1階の、階段脇ですのでお忘れなく。お食事はお部屋内にある呼び鈴を押して貰えれば直ぐにお持ちいたしますので」


「はい、ありがとうございます」


丁寧に説明をする店員の話を最後まで聞いて、ナツメは軽く会釈する。


そのまま直ぐに左を向いて、階段へと歩き出すと、


「ごゆっくりお休みなさいませ」


と最後まで耳心地よい声が2人へと掛けられた。

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