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そんな様子の西篠を見ながら、初老の男はため息をついて肩をすくめながら言葉を紡いだ。


「無理だ。不可能。常識、現実的でない。非現実的であり非常識的だ」


どれもこれもが断言する言葉。


そんな予測しきっていた返答を受けてから、床に手を付き呻く西篠を一瞥して嘆息する。


「んじゃ、コイツの『主人様』の情報は幾らする?」


ナツメが聞くと、男は「そうだな」と考えるように呟きなが、店の奥、カウンターの端に控えめにある扉の中へと引っ込んでいき、


「俺がわざわざ行動せねばならないのなら10万。ソイツの言葉から特定するならば5千円」


男は扉から出てくると、その手には雑巾とバケツが吊されていた。


ソレをカウンターの上に乗せると水の跳ねる音がして――――男は西篠に送る視線でナツメへと意志を伝える。


ナツメは面倒そうに息を吐いて、それらを手に持ち、数歩進み、俯く顔の横にバケツを置いた。


「これで口をゆすいでから、雑巾に水を含ませて吐瀉物をキレイに片付けろ」


ナツメはそう言い残して、再び男へと向き直った。


「奴隷を持つのは貴族かお金持ちだけ。そしてそれらとの問題を解決出来るのは、命か金だけだ。分かっているのか?」


「下手に手を出せば危険すぎるしなぁ……弱みでも握るか?」


ナツメが軽く笑うと、男は鋭く睨み付けた後、呆れたように嘆息する。


「ソイツに、なんの恩があるんだ? それとも脅されて? 価値があるとも見えない、一奴隷にしか見えんが――――」


「いや、ソレがあるのよ。奴隷っつー地位も覆すくらいのモンをさ」


ナツメはその口元に笑みを浮かべ、不意に、その笑みを消す。


「あぁ、そうそう。戻ってくる途中でこんなんを貰ったんだが、幾らで売れるかね」


右手を、外套下の脇に手を突っ込み一丁の銃身の長い回転式拳銃を取り、カウンターへ。


そしてバッグから弾薬と、十字にに掘り込みがある銃身をその隣に雑に叩きつける。


その手を腰に巻き付けてある革製のベルトへと伸ばし、手慣れた手つきで外すと、腰から下げてあるロングソードの鞘の切っ先は床を鳴らす。 


やがて、カウンターの上に並ぶ一式の武装を見て男は感嘆の息を吐き、ナツメは軽くなったと一息ついた。 


男はそれぞれを手に取り、よく眺め、質感、重さなどを調べ――――記憶の中から探り出した情報を口にした。 


「総額5万と言ったところか。『特別製』だが、これがソレだと見抜ける奴がそういないからな」


「特別製?」


「あぁ」男は息を吐くように返事をして――――ナツメに手を差し出した。「1万の情報だ」


一見、怪しげな武器屋を構えるこの店だが――――その実、裏では情報を金で売買しているのだ。


その信頼性は高く、そして幅広い情報網から、何十ものリピーターを抱えている。 


ナツメはそう差し出す手に、「商売熱心だ」と息を吐き、バッグの中の封筒から札を一枚抜いてそっと置いた。


男は満足そうな笑みを浮かべ――――横一文字に閉じた口をゆっくりと開く。


「この純銀製のM29に、専用の聖なる十字を掘った銃身バレル。この銃弾は炸薬も何も入っちゃいない、ただの銀の塊さ」


「銀? まぁ、見りゃわかるが……なんでそんなモノを? 丈夫だが重いし、コストも掛かりすぎる。その弾丸だって――――」


「その昔、悪魔や吸血鬼に効果的なモノが、聖なる銀であったと言われている。その際に使用された武器が、コレってわけだ」


男が拳銃を持ち上げ、カチャと音をさせながら、ナツメへと銃口を向ける。


ナツメはくだらないと首を振り、


「その『聖なるM29』も整備しなくちゃ扱えないような状態じゃ、この世界も平和だな」


「まったくだ」


二人はくつくつと愉快そうに、声を重ねて笑った。 


――――そんな二人を見て、西篠は、ようやくその重い腰を持ち上げていた。

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