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「なんであの人達が賞金首だとすぐにわかったんです? まだ街に来て半刻も経っていなかったのに」
北1区第1通りと通称されている大通り。
門から真っすぐ伸びる道なのだが――――中央区に近づくにつれ、道は枝のようにわかれ、複雑になっていく。
その代わりなのか、道を行く人々の数は著しく低減していった。
ナツメ達が行く道は第1通りの、一番始めに左右に別れる道を左に曲がった第3通り。
道によって並ぶ商店はジャンル毎に変わるらしく、第1通りには無かった武器屋や書店、怪しげでオカルトチックな店などが点在していた。
「そりゃ『天田ご一行様』の情報を持っていたからだ」
「……ナツメさんは、『賞金首狩り《ダストハント》』とかいう仕事を?」
西篠が聞くと、ナツメは首を横に振る。
「ただの小遣い稼ぎだよ」
ナツメは日差しに眼を細くしながら、とある店の前で足を止めた。
西篠はそこから数歩進んだ先でソレに気付き、振り向くと――――木製の扉、その上方の脇には、拳銃が交差する絵が浮き彫りされている木製の看板が掲げてあった。
「ここは――――」
西篠が聞くよりも早く、ナツメは銅製のドアノブに掛けた手を捻り引き、さっさと中に入っていく。
西篠は、その頭の中のナツメに『割と自分勝手』という情報を付け加え、足を進め、既に閉まってしまった扉を開けてナツメを追っていった。
――――西篠は、中に完全に入り、背で扉が静かに軋みながら閉まる音を聞く。
思い切り跳んで手を伸ばせば触れることができそうなくらい低い天井。
全体的に薄暗い店内は、釣り下がる笠を持った蛍光灯によって照らされ――――そのなんとか辺りが窺えるという状況が、低い天井と相まって落ち着かない圧迫感を作り出していた。
埃っぽい空気、西篠は辺りを見回すと、目に入るものは特に無い。
一面の壁、ただ一つ目に留まったのは、西篠の身の丈よりもやや短いが、一見して重量級だと分かるくらいの狙撃銃。
それは一般的に『ボーイズ対戦車ライフル』と呼ばれる、その名の通り対戦車用に作り出された狙撃銃で、その昔、人類が未だ次世代科学技術すら手にしていない時代に作られたもの。
そもそも、現在使用されている銃火器は全てその時代付近に作られたものを模して作られている。
だから、西篠はなんとなく「見た目を模して、中身は入ってはいないんだろうな」と考えた。
「何を所望かね?」
不意に放たれた言葉。しわがれた声の方、真正面へと身体ごと向くと、そこにはカウンターがあって、
「金と権利」
数歩進んだ先のソレに肘を突けて、乗り出すようにナツメは言葉を口にする。
あいにく、そのナツメの姿に被って声の主は今何処? という状態だったのだが、
「……ようこそ我が店へ。今回は何を所望かね? ナツメ君」
その声は瞬く間にしっかりと潤いのある、低く渋い声へと変わる。
そしてその姿はナツメが横にずれた事によって露になった。
白髪が大半を覆う、整った頭髪。皺だらけの肌に、薄く開かれた目。
老人と言うにはまだ早いという見た目を持つ男は、静かに西篠を見据えていた。
「金を使わず、かつ後腐れのなく気持ちいいまま出来る奴隷の解放方、20万以内で」
そんな言葉に西篠は、感じたことのない目眩に襲われよろめき、なんとか踏張るが、背に得体の知れない寒気を感じる。
大分前に引いた汗は、嫌悪を抱くモノとなって再来した。
――――バレていた?
西篠はそもそも得体の知れないナツメを、なんとか顔を上げて見つめていた。
――――奴隷。
それは太古の時代より伝わる、人間家畜である。
肉体労働によって自身を『買った』雇い主に限りを尽くす存在。
その扱いは牛豚の家畜と同然。僅かな食料で体力限界まで働き、また休養もほんの僅か。
奴隷として買われた人間は、長く生きて10年と少し。短くて1年を保たないと言う。
仮に、その奴隷が逃げ出し、捕まった場合――――待つのは死か、更なる生き地獄。
西篠はナツメの『奴隷』と言う単語しか聞き取れていないために――――突如として襲ってきた極度のストレスに耐えきれず、地面に伏して胃から消化している最中のモノを吐き出した。