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第9話 夕暮れのブランコ


「藍ッ!」


 ――キイキイと、足をつきながらブランコに揺られている私の背後で、拓哉の声がした。


 夕陽を背に、光る汗。

 サッカーのユニフォーム姿の拓哉。

 腕には、私があげた赤のリストバンドをしている。


「……やっぱり、ここか……」

「なんで、わかったの……?」


 拓哉は、クスリと笑う。


「何年の付き合いだと思ってるんだよ」


 言いながら、拓哉は隣のブランコに腰掛けて、私と同じように足をつきながらブランコを前後し始めた。


「なぁ、隼人になにか言われたんだろ?」


 いつも思う。

 拓哉は、なんでもお見通しなの?

 落ち込んでいても、逆に嬉しさで胸がはち切れそうな時も。

 お父さんがいなくて、ツラいなぁ、お母さんお仕事でいなくなってさみしいなぁって思う時も。

 いつも、いつだって側で寄り添ってくれる。


「私のことね……冗談じゃなくて、本気で好きだって言ってくれたの。隼人」

「………………………………うん」

「3日前に会ったばかりだよね? って言おうとしたんだけどね、私たちの出会いは、5年前なんだって」

「5年前⁉︎」

「藍とはずっと一緒にいるけど、それは俺も知らないなぁ」

「……うん……」


 ――キイ、キイ……のブランコは(きし)んだ音を上げる。


 夕陽が綺麗な、二層の空。

 白い雲と橙色の空が二層になって、複雑な気持ちを包み込んでくれる気がする。


「それで……さ、藍はどうしたいわけ?」

「私……は……、正直、考えたこともなかったし、5歳差だし……。そういう風には、見えないかな」

「そっか……」


 拓哉は、大きくふーっとため息をついた。


「じゃあさ……」


 と拓哉が言いかけたのと同時に、私はクスッと笑いながら言う。


「でもね……たまにドキッとさせられちゃったりもするんだよ。私、強引なのに弱いのかなぁ、なんて」


 ――ガチャン!


 私の言葉を受けて、拓哉が勢いよく立ち上がった。


「え? どうしたの? 拓哉……」


 言う私に答えることなく、私が座るブランコの手すりを……私の手に重ねるようにして持って、立ったまま、覆いかぶさるように私を眺め下ろした。


「ええっ、……たく……」

「藍ってさぁ、今、好きなヤツ、いるの?」


 目を逸らすことなく、真っ直ぐな瞳を向けてくる拓哉。拓哉の顔は、真剣そのもの。それに、顔が紅潮して夕陽色に染まっている。


 このシチュエーション、夢で見たような……。


 拓哉とは、小さい時からずっと一緒。

 保育園も、小学校も、中学校も。

 そして高校も。クラスまで一緒。


 再婚して横山性に変わる前、私の名前は佐藤だったから、「坂上」と「佐藤」で出席番号もいつも前後。ずっと一緒で、からかい合いつつも、尊重し合って。気の置けない、大事な大事な私の親友。


 でも、いくら仲がいいからって、改まって聞かれると……。夢と同じで、返答に困ってしまう。


「え、好きなヤツ? どうしてそんなこと聞くの?」


 拓哉は更に真っ赤に顔を染めて言う。

 私も、ドキドキが止まらない。


「察しろっての、バカ」

「――拓哉、それって……」


 夢の続きを私は言う。


「拓哉って、もしかして……私のこと……」

「……たり前だろ、藍。このバカ」


 拓哉は、掴んでいたブランコの手すりを離して、ギュウっと私を抱きしめた。


「たく……や……」


 ドサッ、と2人の鞄は地面に落ちる。

 拓哉の心臓の鼓動と、私の高鳴る心臓の鼓動が一つになって、溶け合うように早鐘を打つ。


「たく……ニブすぎだっての」

「あ……、あの……」


 拓哉は、抱きしめたまま私を離さない。

 耳元で囁く拓哉の、声がこそばゆくて更にドキドキしてしまう。


「正直、俺、焦ってる……。本当は、サッカー大会で優勝したら言うつもりだった。でも……隼人が現れて……」

「隼人は小学5年生だよ?」

「……でも、藍への気持ちは本物だ。俺にはわかる」


 拓哉はゆっくりと身体を離して……真っ赤な顔で、真っ直ぐな瞳で――


「藍……好きだ……。付き合ってほしい」


 ――私に告げてくれた。


「……拓哉……」


 拓哉が言うように、拓哉の気持ちには全く気がつかなかった。

 言い訳になるかもしれないけれど、母子家庭という境遇で、毎日毎日、ただ必死に生き抜くことに精一杯だったから。

 朝ごはん作って、お弁当作って、洗濯して掃除して……夕ご飯作って……。

 毎日それの、繰り返しで。

 「恋愛」このこと、考える余裕が今までなかったんだ。


 私の心境を察して優しく頭を撫でながら、拓哉は言う。


「藍の境遇は知ってる。今まで桜子さんと2人でずっと一緒に頑張ってきたもんな。だからこそわかる。……こういうこと、考える暇がなかっただろ?」

「…………うん……」


 だからさ、と拓哉は背を向けて振り返る。


「これからはちょっとでも俺のこと意識してくれたら嬉しい。……悩んでいるからこそこの公園にいたはずなのに、俺の気持ちぶつけて……ずるくて、ごめんな」

「ううん……」


 優しい拓哉。

 全部全部、わかってくれてる。

 でも私、考えはじめたばかりだから、時間がかかってしまいそうだ。

 私が「恋愛」…………。


「さぁ、帰ろう、藍。隼人が心配するからな」

「1人になりたいだろうけど、もう遅いから一緒に帰るぞ」

「……うん!」


 ありがとう拓哉。

 ……そして、隼人。


 これからは意識を向けて。

 ちゃんと真面目に、考えるね。



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― 新着の感想 ―
[良い点] うぁうぁ。1日に二人から本気の告白! 嵐のようです! だけど、自分のアピールが、原因でことが進んでしまった隼人君は、無念ですね(´;ω;`) 次話も楽しみです!
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