第6話 弟くん×幼馴染 ちょっと私、パニックです!
――ピンポーン!
「はぁ〜い!」
「いいよ、藍。唐揚げ揚げてくれてるし、俺が出る」
「ありがとう」
――ジュウジュウと美味しそうな音を上げる唐揚げたち。今日の揚げ粉は、片栗粉と強力粉の2種類。ちゃんと下味もバッチリつけたし、ぜったい美味しく仕上がるはずっ!
なぁんて考えているうちに、隼人がリビングに帰ってきた。
「インターホン、なんだった?」
「なんでもない。押しかけセールス」
――ピンポンピンポンピンポーン!
「ええっ⁉︎ 随分しつこいセールスだね。私が出るよ!」
「はぁ……」
なんだか様子がおかしい隼人。
唐揚げたちと隼人のため息をリビングに残し、セールスなんて追い返してやると息をまき、腕まくりして玄関へ向かう。
――まったく! こんな忙しい夕飯時にッ!
――ガチャ!
「セールスなんて、お断……り………………」
「はぁっ? セールスじゃねえし」
――私は、目を疑った。
見覚えのある、小麦肌のこのアイドル顔は……!
「た、た、拓哉〜⁉︎」
「唐揚げ、食いにきた」
「へえっ? 唐揚げ?」
「はぁ……ライバル登場かよ」
なんて言ったか聞こえなかったけれど、私の背後で、隼人の大きなため息だけは聞こえてきた。
「私はてっきり押しかけセールスかと……。唐揚げね、まぁいいけど……上がって。
――――あ!
――いけないっ! 焦げちゃう」
私はバタバタとリビングへ向かう。
――この時の私は、知らなかったんだ。
玄関でバチバチと、熱い火花が散らされていたなんて……。
◇ ◇ ◇
「うまいっ! 藍、料理相変わらず上手だな」
「ありがとう、拓哉。ずっと料理してきたからねぇ」
「本当に美味しいよ、藍。これから毎日料理が食べられるなんて、俺、幸せだなぁ」
「ありがとう。隼人の料理もおいしかったよ」
「…………………………」
「…………………………」
なんでだろう。なんか……気まずい。
私と拓哉、私と隼人は会話が弾むのに、拓哉と隼人はまるで水と油。それとも火に油?
全然会話しようとしないし、なんなら目で殴り合っちゃってるよ。
話題を変えよう。話題を。
「それにしても、どうしたの? 急に唐揚げ食べに来て」
拓哉は、目を合わせずに言う。
「ああ、俺もここに住むことになった」
――え?
「ええええええ?」 「はああああ?」
私と隼人、驚きがシンクロ。
「どういうことですか? ここは横山家。俺たちの家です。しかも両親の許可もなしに、そんな勝手に」
「許可ならとってきた」
「はい?」
「まさか……拓哉、お母さんに?」
「そ。桜子さんと、うちの親に」
「でも家主はうちの父です!」
「ああ、その話だけど……桜子さんがいいならいいって」
「…………………………」
ぐうの音も出ない。
拓哉の家とうちの家は、家族ぐるみで仲が良い。連絡を取ろうと思えば、拓哉とうちのお母さんはすぐに取れてしまうのはわかるけど、まさか即日実行するなんて……。
「一体、どこで寝る気です?」
拓哉はクスリと、私を見て笑う。
「藍の部屋でも、いいんだけど?」
「へぇっ?」
「――はぁ? なに言ってるんですか。客間使ってくださいよ、客間」
「ご配慮どうも、隼人くん」
「――――――!」
「……という意地悪は冗談で。相談のうえ、防犯のために俺も一緒に住むことになったから。よろしく。隼人」
「わかりました……」
最初は隼人に意地悪してるんだなって思ったけど、拓哉は本来ネチネチと悪口言い続けるタイプじゃない。
隼人が小学5年生だってことも、もう全部知っていて本気でお母さんたちと相談して決めてきたんだなぁ、と察した。
だけど……。
バチバチ喧嘩ばかりしていないで、これから一緒に暮らすのであれば、仲良くしてほしいなぁ。
「ねぇ、私食器の片付けしておくし、男同士、一緒にお風呂入ってきたらどーお?」
「「絶対、嫌」」
拓哉と隼人は、互いに顔を背けた。
「そ、そうですか……」
――外からの防犯は拓哉のおかげで確かに安心できるけれど、家の中の防犯状況はどうなるんだろう……、と思うのは私だけでしょうか……。