第2話 弟くん、二面性ありすぎなんですけど?
「はぁ〜、本当に行っちゃったよ……」
お母さんの言うとおり、チャッチャと引っ越しは終わって、今私は横山家の玄関で呆然としている。
新婚夫婦は、というと。
キャリーケース片手に、ラブラブいっぱいで役所で婚姻届を済ませた後、仕事も兼ねた海外での新婚旅行だそう。満面の笑みで出かけて行った。
二人の馴れ初めを聞けば、職場で出会ったとかなんとか。なんと、お母さんが勤めている会社の社長さんみたい。なんでも、ずっと専業主婦をしていて手に職のないお母さんを採用したのも、一目惚れしたからなんだって。
……めっちゃ公私混同してるじゃん!
――まぁ、おかげでありがたいことに私たち親子は路頭に迷わなかったんだけどね。
「はぁ……。嵐みたいだったね、隼人くん。これから……よろしくね」
私の横に、同じく新婚夫婦の見送りのために立っている隼人くん。
お義父さん似のイケメンで落ち着きもあるし、背も150センチの私より高いから同い年くらいかと思ったけど、びっくりすることに小学5年生なんだって。
……返答がないけど、動揺してるのかな。お義父さんいなくなっちゃって、昨日会ったばかりの私と、しばらく二人きりだもん。
私、お姉さんらしくしっかりしなくちゃね。
「隼人くん、お昼、何食べたい?」
――ん? 返事がないぞ?
だんまりして、俯いた隼人くん。急に腕組みしちゃって……。そうだよね、さみしいよね。
「お義父さんの代わりにはなれないけど、私、一生懸命隼人くんのお世話するね。ご飯のリクエストしてくれたら、頑張って作っちゃおうかなぁっ!」
「あのさぁ! その、隼人くんっていうのやめてくれない? 年上ぶるのも」
――ん? 空耳かな?
「え? 空耳かとも思ったけどやっぱり空耳じゃないわよね? 呼び方、嫌だった? それともなにか気に障っちゃったかな?」
「だーかーらっ、隼人、って呼んでよね!」
そっちのほうが年上ぶってるような呼び方じゃん……。という言葉をグッと飲み込む私。
――落ち着くのよ、藍、相手は小学5年生よ。
クールマインド。静まれ私。
冷静に、冷静に……。
「ご飯のリクエスト、なにがいい?」
「なんでもいい」
――ピキッ……!
「年上ぶるのもやめてくれない? お世話するって言うけど、お世話されるほどガキじゃないんですけど」
――ブチッ!
「はあぁぁぁ⁉︎ 小学5年生って言ったらまだガキでしょ!」
「俺はガキじゃない! ちゃんと隼人って呼び捨てにしろよな、藍!」
――ブチブチブチッ!
「隼人ッ! 昨日はお姉さんって呼んでたでしょ!」
「やっと隼人って呼んだ。これからもその調子で頼むな、藍」
そう捨てゼリフを吐き捨てて、隼人は自室のある二階へと駆け上がって行った。
……呆……然……
なになにこれが噂の反抗期⁉︎
そうなの?
――あぁ、思春期。これぞ反抗期。隼人、恐ろしい子。
「あと、お昼ご飯、俺が作るからっ」
上を見上げれば、階段の踊り場で隼人か上から私を見下ろしていた。――そこにいたんかいっ。
隼人は今度こそ自室にこもった様子。バタンッて音が聞こえたから。
「はぁ……前途多難なんですけど」
小学5年生だからって油断したらダメね。イケメンには、棘も反抗期もあるってことね。
この二日間で世知辛い世の中を悟った私。
「荷解きでも、しますかね……」
反抗期くんの隣の部屋で荷解きしながら、途方に暮れる。
――一体私、どうなっちゃうのかしら……。
◇ ◇ ◇ ◆
「お、美味しい! すごいね隼人く……じゃなくて隼人、料理上手ッ」
「へへッ、そうだろ? 父さんが家事てんでダメなんで、俺がずっと家事やってきたからさ」
「私と、一緒だね」
絶品オムライスに舌鼓を打ちつつ、お互いの身の上を話す私たち。
不倫の末私たちを出て行ったお父さんと、
早くに先立たれてしまった隼人のお母さん。
家事全般ダメダメなそれぞれの親。
どうやら同じように苦労してきた同志だったみたい。
互いの苦労を分かち合えたのはいいことだけど……。
「ねぇ、食べないの?」
隼人はさっきからずっと、オムライスに口もつけず、テーブルに頬杖をついて満足気に微笑んでいる。
「俺はさ、藍が美味しそうに食べてくれるところ、見るのが嬉しいんだ」
と言って、笑う隼人。
茶色の瞳に、長いまつ毛の影が落ちて。
とてもヤンチャに、けれど優しく。
ほわんって微笑んだ。
――キュン。
不覚にも、キュンとしちゃった。
相手は小学5年生だっていうのに。
「おかわり欲しかったら、俺のもやるよ」
「ダメだよ、育ち盛りなんだからいっぱい食べなきゃ」
すると隼人は、ぷうっとむくれる。
「だーかーら、ガキ扱いすんなっての」
言葉のオマケに、ニヒッと笑顔でデコピン一つ。
「ううう〜。いたた……」
「これに懲りたら、俺のこと、ガキ扱いすんなよなッ」
腕組みして怒ってみせる隼人は、最早どこぞのアイドルみたい。
スラッと伸びた手足に、程よい筋肉。
本当にこの子、小学5年生なの?
――末恐ろしい。超絶イケメンなんですけど。
ちなみにこれは、序の口にすぎなかった。
ちょっとオマセさん、なんてことはなく。
かなりのやり手の、かなりの早熟くん。
――私の受難は、まだ、はじまったばかり……。
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