第11話 アピールタイム!〜隼人ver.〜
「藍、おはよ。起きて」
「うう〜ん、あと5分……」
――ふんわりと気持ちいいタオルケットに包まれて、心地よい夢の中……。いつも一緒に寝ているうさぎのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめて、ふわふわっと頬擦りする。
し・あ・わ・せ……。
「藍ッ! うさぎの代わりに抱きしめちゃうぞ」
――⁉︎ な、なんですとっ⁉︎
「ハッ! ハイ! 佐藤藍、起きます!」
飛び起きた私。まどろみの中から引き摺り出されて、一瞬のうちに現実世界へ。
……目の前にいるのは……
「おはよ、隼人。今日もエプロン似合ってるね」
「ありがと。でも俺としては『もっと寝た〜いっ』って駄々こねた罰として、うさぎの代わりにハグしたかったけどね。それに、『佐藤』じゃなくて『横山』だからね?」
と言ってウインクする隼人。本当に小学5年生? って思うほど、今日もイケメン。
私がぽけ〜っと隼人を見ていると、隼人は目を細め……私の未セットでゆるい茶の髪の毛先を、ふわりと触って――
「藍、本当に可愛い。抱きしめたい」
――と言った。
「ええええっ! それはちょっと……」
「ちょっと、なぁに?」
うさぎのぬいぐるみに顔を埋める私に、グイッと顔を近づけてきていると思われる隼人。鼻息が、耳にかかる。
ううう〜恥ずかしい。
――コンコン。
「はーーーーやーーーーとーーーー!」
ノックと同時の怒り声。
既にバッチリ制服姿の拓哉は両腕を組んで本気で怒ってる。
「まったく、油断も隙もない」
隼人は、フライ返しを拓哉に突きつけて言う。
「だってアピールタイム中ですからね! 積極的に行かないと!」
「にしてもだな……」
「それに今日は女子に人気のモーニングプレート。はちみつパンケーキとブルーベリーのスムージーだよ。早く起きて」
「えっ! 本当? 起きる起きる」
朝ごはんにつられて、一瞬で目が覚める単純な私。前から思ってたけど、隼人って――
「「――めちゃくちゃ女子力高い……」」
――私も拓哉も、思わず唸る。
和食洋食、女子の胃袋を掴むオシャレメニューだってなんでも作れちゃう。
……どれくらいキッチンと向き合ってきた時間が長かったか、私にはわかる。
苦労、してたんだね。
「ありがとう、隼人」
「ヘヘッ。どういたしまして。――ついでに、拓哉さんもドーゾ」
「そりゃドーモ、と言いたいところだけど、本当にありがとう。お前すごいよ!」
隼人は顔を逸らして小声でポソリ。
「やめてくださいよ、調子狂う……」
照れた隼人の顔。
いつも大人びていて、あまり隙のない隼人が垣間見せた、年相応の少年の顔。
――キュン
「…………」
「藍?」
「……なんでもない! 着替えるから2人ともリビングで待っててくれるかな? すぐ行くね」
――はい。
不覚にも、キュンとしてしまった。
相手は年下だっていうのに、キュウッと胸が締め付けられるなんて。
隼人、恐るべしだよ。
◇
「じゃあ、俺先に行くけど……、お弁当、2人分用意してあるから、炊飯器の横見てみてよね、置いといたから。 保冷剤も忘れずにね!」
「「は、はいっ」」
――果たしてここまで女子力の高い小学5年生はいるのでしょうか。絶対少数派だと思う。
「やべぇ……」
「? どしたの? 拓哉」
拓哉はうずくまり、頭を抱えた。
そしてそのままの姿勢で上目遣いでこちらを見てくる。
「正直さ、俺、家庭科力(?)では隼人に勝てねぇ。最っ高の朝ごはんに俺の分のお弁当まで……極めつけは……」
「「保冷剤」」
「……そうっ、そうなんだよ! そこまで配慮できるか? 普通!」
拓哉はうずくまったまま、髪をワシャワシャーっともみくしゃにした。そのまま俯いて、フーッと一息、大きく息を吐いた。
「でも……」
立ち上がって、拓哉は言う。
それもちょっと、恥ずかし気に鼻をこすって。
「行こう、藍」
「え……」
拓哉からスッと伸びた腕と大きな手のひら。
「ん!」
「ん?」
――まさか。
「ったく、みなまで言わせんなっての。手、つないで行こうぜ」
私は思わず、両手で顔を押さえる。
「こ、こういうの……反則、だよ……」
顔が熱いし、耳まで熱い。
きっと身体全部が、真っ赤だと思う。
私の反応を見て、拓哉は太陽みたいに、ニカッと笑う。
「俺、藍のそういうところ、大好きだ」
「うううう〜」
――全身、沸騰。
私、ダメです。
強引な男子、やっぱりタイプかもしれません。