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No.6 ゲーマーと初めての遠征(2)

 翌日、モニカから弁当を受け取り、トウヤは探求者ギルドはと向かう。

 指定の時間まで、まだ余裕がある。先にメルと話を済ませ、ギルドから運搬資材を受けとる。細かい資材は背嚢に詰め込み、嵩張る資材は背嚢下付けている背負子の外枠に固定する。

 積込を終える頃には、ちょうどいい時間になっていた。メルが呼びに来て、一緒にロビーに向かう。

 それと同時に《パーティーに参加しました》と表示される。時間になると自動的にPT組される仕様となっていた。


 ロビーの向かうと一角に全身をフルプレートアーマーで着こんだ集団がいた。見るとPTアイコンが見える。相手も気づいたのか、こちらに注目が集まる。


「こんにちは、今日はよろしくお願いします」

「こんにちは、よろしくです」

「よろしくねー」

「どもどもー」

「よろしくお願いします!」


 トウヤの挨拶を皮切りに“バケツ頭”が一斉に挨拶をする。それから一通り自己紹介を済ませたが、どれもこれも同じなので、誰が誰だか分からない。PT組んで名前が表示されてなければ皆”バケツ頭”だ。


【戦士Lv10】 ぷりん

【戦士Lv9】 ヤマト

【戦士Lv8】 ヴェーチェ

【戦士Lv8】 山田3

【担ぎ屋Lv5】トウヤ


 視界のUIにPTメンバーがHPバーと共に表示された。見事な脳筋どもである。トウヤは全員を一瞥するがやっぱり皆同じに見えた。


「ここまで装備揃ってると、誰が誰だか分かりませんね」

「はは、そうですよね。自分も誰と喋ってるか分からない時ありますよ」

「たしかに」

「兜の中、音籠るしなー」

「だが、それがいい」


 フレンドリーなバケツたちとすぐに打ち解けたトウヤは、依頼を遂行するために第14監視塔へと向かう。

 街道から分岐する小道までは馬車の定期便に乗り途中下車する予定だ。

 馬車旅の暇な時間に”バケツリーダー”のぷりんが、今回の依頼の経緯を説明してくれた。


「今回行く監視塔なんてすが、初期の頃は衛兵が居てちゃんと機能してたんですよ。サービス開始時はNPCの扱いが今と違って、死んでもまたスポーンするもんだと、皆思ってたんです。監視塔に配置されたNPCは戦闘力も高くてモンスタートレインして、最後は自分で倒すってのが流行ったんです」


 ぷりんは自身が体験してきたかの様に話を続ける。

  

「気づいた時には後の祭りで、監視塔からNPCが消えると、そのエリア周辺に出現するモンスターが一気に増え、まともに狩りができなくなったんてす。それが各地で発生するんで、もう大変でした」


 それに気づいた一部のプレイヤーは、攻略掲示板などに警告として書き込むも、レベル上げの独占をしたいだけだと騒がれて、トレイン行為が余計に悪化した。

 その結果、数多くの監視塔からNPCの衛兵が消えてしまい。本来、進むはずの探索がまともに出来なくなり、現在も未踏のエリアが多く存在している。


「運営が告知出すまで、誰も信じなかったからなー」

「それからだよね。うちらみたいなクラン立ち上げ多くなったの」


 ぷりんの話にヤマトとヴェーチェが相づちを打つ。山田3もそれに加わる。


「それで我ら“グレートヘルム団”の登場と言うわけだ」

「その名前久々に聞いたわ」

「バケツ団ってしか呼ばれなくなったよね」

「事実、バケツ頭だしなー」


 暗い話から一転、馬車は笑いに包まれ、街道を進んで行く。



 馬車から降りて小道を進む。

 人通りが少ないのか、草生い茂り道幅を狭くしていた。

 トウヤを中心に隊列を組進んで行く。

 先頭は長剣に盾とスタンダードな”ぷりん”。トウヤの左右には、両手斧の”ヤマト”と大槌の”山田3”。殿は槍を構える”ヴェーチェ”だ。

 小道に入ってから小さな戦闘が何度も発生している。断続的な戦闘に全員から若干の疲れが見える。

 監視塔までもう少しの所で、先頭を歩くぷりんが手を上げて足を止める。

 全員が周囲を警戒すると──


 「ガゥッ!!」


 茂みから緑葉狼(リーフウルフ)が山田3目掛けて飛びかかる。


「うぉっ!」


 山田3は大槌が間に合わないと判断したのか、大槌を手放しガントレットで緑葉狼を殴り付ける。すかさずサポートにヴェーチェが入り、緑葉狼が態勢を立て直す前に首に槍を突き立てる。激しく暴れた後、動きを止めた。

 それを境に次々と緑葉狼が現れる、数十頭が一斉に襲いかかってくる。

 陣形を縮めて、互いフォローできる間隔を維持して戦う。飛びかかる緑葉狼を盾で防ぎ確実にダメージを与えるぶりん。

 ヤマトは勢いよく両手斧を横凪に振り回し、緑葉狼数匹まとめて両断する。その隙を突いた緑葉狼のフォローにヴェーチェが入りサポートする。

 山田3が大槌を拾い上げるまで、襲いかかる緑葉狼には、トウヤが棒手裏剣を投擲して牽制した。

 襲撃から瞬く間にこちらが優勢になる。この数を手早く片付ける手際に脱帽だ。

 一瞬の隙をついて一頭の緑葉狼がヤマトの横を掻い潜り、トウヤに接近する


「しまったッ!」

「トウヤさん!」


 背後から飛びかかる緑葉狼に、振り向きながら携帯していた鉄で補強されたこん棒を振り、スキル【当て逃げ】を発動させる。


「おっと!」


 振り向き様に振りかぶったこん棒は、飛び掛かってきた緑葉狼の横っ腹に当たり勢いよく転がっていく。そのままピクリとも動かなくなった。


【当て逃げ】の効果は”自身の積載量の重さ分、固定ダメージを与えて、AGI (俊敏さ)を上昇させる”積載量にはインベントリ内のアイテム分の重さは加算されないため、身に付けてる物の重さに限定される。


 吹き飛ばした緑葉狼を最後に、残りは散り散りに逃げていく。周囲を確認すると全員の無事が見とれた。

 周囲を警戒しつつ、剥ぎ取りナイフを緑葉狼に突き立てると、七色の気泡に変わり虚無に霧散する。あとに残るはドロップ品だ。散らばっているので剥ぎ取るだけどもけっこうな労働になる。


 戦闘の疲れもあるので監視塔前に休憩をとる事になった。背嚢を降ろし、今朝受け取った弁当を全員に配る。戦闘の後で心配だったが、弁当は無事だった。


「ありがとございます」

「サンキュー」


 皆が休憩してる間にトウヤはインベントリから回復薬の入ってる木箱を取り出して、全員に配る分の本数をチェックする。回復薬にはまだ余裕があり、このペースなら問題にはならなさそうだ。


 2ndWORLDでは、回復手段を確保するのは大事だ。

 回復薬をインベントリに入れれば戦闘中でもすぐに使用できるが、回復薬スタックしないので、一個に一枠使ってしまう。

 スタックしてインベントリに入れるためには木箱などに決まった規格で詰め込まないと入らない。木箱に入れた状態では、戦闘中の使用は難しい。腰ベルト枠に”回復薬(小)”などを取り付けて使用する方法もあるが、これは戦闘中に破損の可能性もあるため取扱いが難しい、

 そのため、インベントリ内に回復薬の枠を設けて戦うのが主流になっていた。


「弁当も用意してあるので、食べてくださいね」

「いやー、トウヤさん居ると助かりますよ」

「バック持って戦うの大変だし、毎回置いて戦うのも面倒だしな」

「ホントにねー」

「うちのクラン脳筋しかいねーしな。サブクラスにサポート系選んでるの数人じゃね?」


 皆に感謝されるのはなかなかに嬉しいものがある。いつも配達でも感謝されているが、ここ冒険において自分に何ができるか不安だった。戦闘面でも色々な戦い方ができるのが分かって、安心する。

 食事の効果もあり、全員のSP回復が済んだ。皆疲れよりも戦意が勝っており意気込みも十分だ。装備や薬品のチェックを済ませて、監視塔へと警戒して移動する。



 開けた草原に聳え立つ石塔が、目的地の第14監視塔だ。周囲を簡易の防壁で取り囲んでいるが、損傷が激しく一部は崩れて、中の様子が伺える。


 身を屈めて、中の様子を伺う。バケツたちは隠密に向かないため後方の茂みで待機している。

 防壁の上にはコボルトが数匹が巡回し、崩れた防壁の穴からも、中には相応の数のコボルトが見えた。

 粗悪ではあるが鉄製の武器を持っている個体も見受けられる。

 後方に合図を送り、【投擲】を行う。数回、監視塔目掛けて物体が投げこまれる。少しすると防壁内が騒がしくなり、毒々しい煙が充満する。

 トウヤの投げ込んだ毒煙玉に耐えきれず、コボルトたちが崩れた防壁を駆け上がり外に出てくる。

 そこに向かって、暗器の棒手裏剣を投擲するために振りかぶる。【投擲】スキルの取得によりシステムアシストがかかる。最適化されたモーションに引っ張られる感覚はあるが問題はない。投擲された暗器は先頭にいるコボルトの左目を貫いた。


「キャンッ!」


 似つかわしくない可愛らしい声を上げ、そのまま倒れた。それに気づいた後方のコボルトは、遠吠えを上げようとするも喉に刺さった暗器により叶わず、地に体を埋める。

 煙から出てきたコボルトも異変に気づき、喉をな鳴らしがらトウヤを見る。短く吠えると四足歩行で一斉に駆け出した。


「よし! こっちにこい……!」


 腰の小鞄(ポーチ)から二つ握りしめてコボルトの手前に放り投げる。瞬間の炸裂音に高周波の波が発生する。トウヤの位置からでも、耳を塞ぎたくなるほどの音だ。

 至近距離で食らったコボルト数匹は泡を吹きながら痙攣している。そこにすかさず投擲して仕留める。


「にしても、数が多すぎるだろ!」


 先頭の数匹を止めたところで後続が次々に向かってくる。死んだ仲間の骸を踏み砕き、一心不乱に突き進む。


「頃合いか」


 牽制で何度か投擲をしながら、仲間の待機する茂みへと踵を返した。


 頭に血が昇ったコボルトはトウヤを追う。二足歩行のトウヤよりも格段に早いコボルトの四足歩行は、瞬く間に距離を詰めて、射程に捉える。獰猛に口を歪め、犬歯が肉を裂くのを想像したのか、涎が溢れ出ている。

 あと一歩の所でコボルトの意識は潰えた。両手斧で首を切断され、頭部が宙を舞う。消える意識の刹那、瞳に映るは4人のフルプレートアーマーを着こんだ重戦士。


「しゃッ!やんぞ!」


 山田3の大槌を下から振り上げ、コボルトが浮き上がり、受け身も取れず地面に叩きつけられる。


「ノーガードで殴り合いの舐めプ止めなって! 回復薬の無駄だよ!」

「これが一番手っ取り早いんだし、いいだろ! 力こそバワーで最大の防御よ!」


 ヴェーチェの槍がコボルトを貫き、引き抜いた槍の柄を短く脇にはさめて回転する。真横から迫ってくるコボルトの鼻先に遠心力を加えた石突がめり込む。

 ヤマトの両手斧がコボルトの木製の盾もろとも両断する。後頭部を殴られるも、気にした様子もなく近づくコボルトを血祭りにしていく。


「このまま乗り込むぞ! トウヤさんはサポートお願いします!」

「了解です!」


 コボルトの攻撃を盾で受け流し、首、心臓と的確に長剣で貫く。複数同時に襲われても慌てることなく、足運びで優位な立ち位置に移動して攻撃を弾き、コボルトに蹴りを入れて体勢を崩すと、後のコボルトともつれ合い倒れる。重なり倒れたコボルトが、起き上がれない様に足で押さえつけて、二匹まとめて胸を貫く。ぷりんの援護をしようとしたが、出番は訪れなかった。


 一面にコボルトの死骸が散乱している。大体の始末は済んだ様ようだ。監視塔から追加の敵が出てくる様子はない。


「回復薬必要な人います?」

「あ、俺欲しいですー」


トウヤの問いにヤマトが手を挙げ答える。ほかの仲間からブーイングの嵐だ。


「だから言ったのに、まだクエスト終わってないんだから回復薬は、大事にしないよ」

「分かったよ」


 ゴォッッ!!!


 轟音とが響くと監視塔に充満していた毒の煙が吹き飛ばされた。丸太を軽々と片手で持ち上げて、防壁の向こうからこちらを睨み付ける巨体がいる。


「トロール……!」


 ぷりんが囁くように叫ぶと全員に注意を呼び掛ける。

 トロールは崩れた壁から身をひねり出して、外に出てくる。近くにあった防壁の残骸を握りしめて、トウヤたちに投げ飛ばしてきた。


「まずい! トウヤさんは俺の後ろに! 他は頑張って避けろ!」

「え、はい!」

「マジで!」

「弾幕ゲー苦手なんだよなぁ」

「これ無理ゲーじゃね?」


 空から残骸が降り注ぐ。大小様々な、無数の破片が空から地面に衝突する。地面がえぐれ、一帯に土埃がたちこめる。轟音と耳鳴りで感覚が狂う。揺れが収まった事から投射物がもうないのが感じられた。


「──さん、トウヤさん大丈夫ですか!?」

「は、はい! なんとか無事です!」


 耳鳴りがまだ続いてたが、ぷりんの言葉をどうにか理解できた。トウヤの無事を確認するとぷりんは他の無事も確認する。


「無事か! 返事しろ!」

「生きてるぞー!」

「こっちも無事だよー!」

「あークソ。一発もらったがどうにか大丈夫だ!」


 全員の無事が確認出来たが、どうやら山田3がダメージを食らった様だ。PT情報からも分かる。HPが残り3割ぐらいしか残っていない。

 ぷりんが無事な二人を引き連れて、土煙が飛び出して行く。また瓦礫を投擲されては、今度こそ全滅してしまうためだ。


 残ったトウヤは急いで山田3の元へ駆け寄る。

 座り込んでいる山田3の鎧は凹み傷がだらけだ。特に立派なバケツ兜の損傷が酷く陥没している。

 “目眩”のデバフも付いていて立ち上がれない様子だ。背嚢から気付け薬と丸薬を取り出して渡す。

 兜をずらして、気付け薬を飲み干し、丸薬を飲み込む。山田3から“目眩”のデバフが消えて、丸薬の効果HoT(持続回復)(大)”“|DEF(防御力)低下(大)”のバフデバフが付いた。

 モニカ特製丸薬は数秒で山田3のHPを5割まで回復させる。


「これ、スッゴい、回復すんね!」

「デバフも凄いけど、役立ちますよ」

「助かったよ。あんがと!」


 トウヤに感謝を伝え、山田3は立ち上がる。回復薬を飲み干すとHPは6割まで回復した。大槌を肩で担ぎ上げ、山田3は仲間と合流するために全速力で駆け出す。


 トロールの大振りな攻撃は容易にかわせるが、手に持つ丸太がリーチを伸ばしているため、回避してもその攻撃範囲から逃れるのが難しかった。

 ぷりんは盾に角度を付けて丸太の攻撃を受け流すが、流しきれない重い衝撃が腕に伝わってくる。

 盾もガタついてきており、そう何度も受けきれないだろう。

 ぷりんの長剣では手数が稼げても、トロールの分厚い皮膚では、表面に傷が付く程度でダメージが稼げない。なのでヘイトを稼いでいるが、一撃もらうだけで防具の磨耗が酷かった。

 隙を突いてヴェーチェとヤマトが、攻撃を加えてもトロールの自己再生でダメージは思ったより伸びなかった。


「すまん、遅れた!」

「大丈夫ですか!?」


 山田3とトウヤがぷりんたちに合流する。ぶりんのHPの減りが一番激しい。暗器を投擲して、ぷりんに向いたヘイトを分散させる。

 思惑通り、こちらにトロールが向かってくる。振りかざした丸太に、山田3が攻撃を合わせて叩きつける。


「オラァッッ!!!」


 渾身の一撃が、丸太に衝撃を与えて、真っ二つにへし折れる。


「グモォッ!?」


 丸太が折れた事で体勢がぐらついたトロールは足で踏ん張り、転倒を免れた。その隙を逃さず、山田3は二打目を丸太を持つ手首へと打ち込む。

 スキル【痛打】を発動して叩き込まれた。打撃にdot(継続ダメージ)が付与され、トロールは痛みから丸太を手放した。

 山田3の作った好機を逃さず、ヴェーチェとヤマトが連携して攻撃に加わる。


 あと一息の所で、トロールの皮膚が赤く熱を帯びて身体中から煙を立ち込める。

 傷が塞がり、自己再生の効果が数段はね上がる。近くの岩を叩き割り、それを握りしめると散弾の様にばらまく。


「トウヤさん!?」

「こっちはいいから!」


 各自防御体勢に入る。ぷりんがこちらに向かって来ようとしたので制した。後を向いて体育座り、背嚢に何発もの衝撃が伝わるが、ノーダメージだ。

 もう飛んで来ないのを確認すると立ち上がり、トロールに振り返る。すると戦況は一転していた。散弾で足を負傷したヴェーチェがトロールに捕まり、今まさに頭から噛み砕かれ様としている。

 大きく開いた口からは、不揃いで大きな黄ばんだ歯が並ぶ。


「ちょ、マジかよ! この死に方は、洒落にならんて!」


 必死に逃れようと暴れるが、抜け出せない。トウヤ以外の全員がダメージを食らっていて身動きが取れずにいた。

 腰の小鞄からありったけの薬品をトロールの顔目掛けて投擲する。その一つがトロールの口から体内に入り込んだ。急に苦しみだし、ヴェーチェを投げ捨てて、両手で喉を掻きむしる。


「ゴッ!? モゴッ!」


 息苦しそうに天を仰いで──口から大量の粘液が溢れた出てる。勢いに耐えきれなかった口が喉元まで裂け、頭部が弾け飛んだ。

 血や脳髄を吸収しながら、トロールの倍の大きさはある、ヘビィスライムが現れた。

 全員が呆然とする。

 ヘビィスライムが、トロールを吸収して溶かし始めるとプルプルと震えだし、萎んで液体になり消滅した。

 残るは、頭部の無い半身を溶かされたトロールの死骸とヘビィスライムだった物が溶けた、水溜まりだけだ。

 目まぐるしい展開である。

 一番近くで、色々な体液を被り、スプラッターショーを見せられたヴェーチェが口を開く。


「……グッロッ!!!」


 その叫びは、この場に居合わせた全員の気持ちそのものだった。

 そしてトウヤは心で叫ぶ、


(スライムだけどスライムじゃないぞ! モニカァッ!)



 それから事後処理をした。戦闘は完勝とは言えなかったが、勝利には変わらない。ヴェーチェが精神的ダメージを食らったので休ませておき、トロールの剥ぎ取りや監視塔内の探索を済ませる。


「監視塔内部に敵は無しだな」

「正直、疲れたから居なくて助かる」

「精神的苦痛は運営に訴えればいいのか?」


 監視塔から三人が外に出てくる。

 ヴェーチェはまだ座って休憩しているが、槍を携えて警戒中だ。トウヤは陣地中心にある石の台座から、瓦礫を退けている。戻った三人に手伝ってもらい台座全体が姿を現した。

 背嚢から事前に受け取っていた、大きな木箱を取り出す。木箱に傷が無いのを確認して安堵する。そして中から大きな結晶を取り出した。


「なにこれスゲーな……!」

「おぉ……!」


 背後の面々がざわつく。トウヤの取り出した、結晶は淡く緑色に発光している。【緑光石(りょくこうせき)の欠片】を台座に置くと台座に彫られた模様が発光して【緑光石の欠片】浮かび上がる。

 【緑光石の欠片】を中心に光が伸びて、監視塔全部を包んだ。すると、


《第14監視塔制圧が完了しました。安全地帯が解放されました》


 とウィンドウが表示され、依頼の達成が確認された。

 一拍おいて、全員から歓声が上がり、肩を組んで喜びあった。トウヤの初遠征は、バケツたちと共に無事達成することができた。




〈WORLD topic〉

 リステア近郊には監視塔が複数点在している。

 その多くは破棄され、機能していないが、プレイヤーによる監視塔制圧が、複数確認されている。

 制圧後は、NPCが配置されて、周囲での活動拠点として機能し、プレイヤーのログイン、ログアウト可能地点として重宝されている。

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