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No.5 ゲーマーと初めての遠征(1)

「なぁ、トウヤ。熱心なのはいいが、そろそろ外に出ていこうとは思わないのか?」


 早馬ギルド裏手の倉庫、その一角はガヤックの憩いの場として占領されていた。ガヤックの机を挟んで反対側に座るトウヤは、疑問系で返す。


「いつも外に出てますが?」


 今日のガヤックお手製お菓子、ナッツ入りクッキーを頬張る。今日のお菓子効果は“SP最大値の増加”の様だ。


「外ってぇのは、このリステアの城郭外って事だよ。探求者(プレイヤー)のくせに、もっとこう血湧き肉躍る冒険ってのをしたいとは思わねぇのか!?」

「そらぁ、行きたいですよ」


 視界の隅には、ピン指した依頼が映っていた。

 それは初日から続く依頼である。

《依頼:物資配送(特殊15)》ともう15回も請け負っているのに終わりが見えない。当初はチュートリアル関係の依頼かと思えば間違いで、ガヤックから頼まれる依頼を受けると進んでいく。


(それなら早くこの依頼終わらせてくれよ……)


 無視して冒険に出てもいいが、15回もやっていると意地でも先に終わらせたくなるのが、トウヤの性だった。


「それよりもガヤックさん。やれそうな依頼ないんですか? あとお菓子のおかわり下さい」

「お前、日に日に図々しいなっていくな……まぁいい。丁度お前に回せる依頼があるぞ」

「依頼もお菓子もくれるガヤックさん、さすがっスね! だから大好きですよ」


 追加でくれるクッキー数枚は、紙に包みインベントリに入れておく。残りは美味しく頂こう。今度は飲み物の持参も視野に入れる。


「ほれ、来たみたいだぞ」


 ガヤックの目線の先には、探求者ギルドの女性職員が立っていた。早馬ギルドによく書類を届けにくるので少し面識がある。ガヤックに進められ空いてる椅子に腰を降ろした。

 互いに挨拶を終えると依頼の話に移るが──。

 この女性職員、名前なメル。今現在、膝の上に置いた書類を慌ただしくめくり、その結果床に書類をぶちまけている。


「はひぃ! すみませんー! ほんとすみません!」


 全員で書類を拾い上げてる。メルはテーブルに座っても、まだ謝っている。ガヤックにお茶とお菓子が差し出されると、落ちつきを取り戻してきた。耳を真っ赤に染めてお茶を啜る姿は、庇護欲がそそられる。

 メルが落ち着くまで、書類整理をしていたガヤックが、一枚の紙をこちらに差し出した。


「よかった。外に出れるぞ」


 満面の笑みで差し出された紙を見ると探求者ギルドからの依頼だった。


「わ、私の方から、説明させてもらいますね!」


 慌ててハンカチで口を拭き取り、佇まい正したメルが依頼の説明に入った。


「リステアから北東にある、破棄された監視塔の再制圧の依頼です。制圧にあたる探求者(プレイヤー)はこちらで手配済みなので、トウヤさんにはその隊に合流して物質運搬してほしいんです」


 探求者ギルドからの依頼はこういう事になる。

 諸事情により一度は手放した。監視塔の再制圧、アタッカーは揃ったがサポートメンバーが不足しているらしい。目標の監視塔も街道から外れており、商人の馬車で向かえない。徒歩で向かうために物質の制限も出てくる。そこで早馬ギルドに協力要請したら、ずっと街に引きこもって荷物運びばかりする最適な人材が居ると聞いて此処に来た。


「これが依頼内容です。陣地再構築にあたりまして先に偵察と制圧。必要最低限の陣地構成に必要な物質を運んでほしいのです」


 言い終えると、トウヤの目の前に半透明のポップアップ出てくる。


《依頼:第14監視塔制圧》

《受けますか?はい/いいえ》


 トウヤは迷わず、はいを押す。


「受けますよ。いつ始めるんですか?」

「明日の朝からの開始になります。トウヤさんには、集合時間よりも早く探求者ギルドに来てもらいまして、運んでほしい物資を受け渡します」


《第14監視塔制圧:依頼》の横に依頼開始時刻を知らせるタイマーと参加人数が表示された。同じ依頼を受けた他のプレイヤーにも表示されているのだろう。


「了解です。明日の朝にそちらに伺いますね」

「よろしくお願いしみゃふ」


 最後の最後で言葉を噛んでしまうメル。

 椅子に座りながらの深く礼をする姿は、大変優雅であるが締まらない。耐えきれず立ち上がり、顔を赤く染めたメルは、足早に去っていった。


 メルが去った後、ガヤックからは明日に備えて、今日は休めと言われてしまう。これでは《配送依頼(15)》が進められない。仕方がないので、市場に買い出しに行くことにした。



 広場から少し離れた通りにトウヤは来ている。

 この通りには露店が多く出店している。その多くがプレイヤーによるものだ。広場近いほど出店費が高くなる傾向にあり、人も多く物の動きが早いために品切れが多い。それに比べて、トウヤの居る通りはそこそこ露店数とほどほどの人混みで露店巡りに適している。

 この通りに来ると真っ先に寄る所がある。

 いつもの定位置、街路樹の影に隠れる様に出してる露店だ。

 この露店は姉妹で運営している。


「こんにちは」 

「あ、こんにちは!」


 赤毛のショートボブの女性プレイヤーはトウヤに気づくと元気よく返事を返してくれた。


「メルルさん、弁当の予約したいんてすが、できます? 受け取りは今ぐらいの時間帯で、お願いしたいんですが」

「明日ですか? んーどうかな? ねー、モニカ?」

「なーに。ねーちゃん?」

「ねーちゃんって呼ばないの! トウヤさんが、明日のこの時間に弁当取りに来るけど店番できる?」

「おけー。私、調合しながら店番するよー」

「無理言ってすまんね。これお礼にあげるよ」


トウヤは腰のバックから毒薬の小瓶を一つ、つまみ上げてモニカに手渡す。


「え、いいの? やたーっ!!」


 妹のモニカは、癖毛の長髪を編み込んで肩にかけている。毒薬を受け取ると、両手で大事そうに抱えて、くるくる回る。回るとせっかくの編み込みが緩んで癖毛があっちこっちに飛び跳ねた。

 モニカの職業(ジョブ)は【錬金術師(アルケミスト)】だ。そして姉のメルルは【料理人(シェフ)】で、二人は料理の店を開いていた。

 この店の料理は他の店に比べて変わった“バフ、デバフ”が付くのが多い。中にはガヤックお手製お菓子に並ぶ物もあるが、再現性が低く、固定メニューも少ない、メルルはその日に手に入った食材で料理し、モニカの調味料や時々毒物でユニークな料理を作る。

 メルルとモニカに将来性を感じて、この店に足しげく通っている。


 メルルにはさっき紙に包んだ、ガヤック手製クッキーを渡す。包みを開けてメルルはスキル【料理人の舌】を使用して一口頬張る。


「……凄いですね、少ない材料で、これたけの効果を出すなんて」

「美味しそうだねー」

「あっこら!」


 するりと伸びたモニカの手は、瞬く間にクッキーを手にして口に運ぶ。


「おいひぃー」

「食べながら喋らないの! まったく……」


 モニカの服に付いた食べこぼしを手で払いのけて、メルルはモニカ口酸っぱく注意している。口では厳しく接する姉が、妹をかいがいしく世話をする姿は尊い。


「……あの、トウヤさん? なんで拝んでるんですか?」

「いえ、お気になさらずに」

「ねーちゃん、可愛いからねぇー」


 モニカの一言で顔を赤くするメルル。手近な調理器具を振り上げてモニカを狙うが既に姿はない。屋台裏の方からモニカのクスクスと笑い声だけが聞こえた。


「もうっ! いつも、すみません。モニカったら人前では、大人しくしてって言ってるのに……」


(人前じゃなければいいのか……)


 妄想を膨らませているとモニカがトウヤの様子を隠れながら伺っている。モニカは分かってやっている、けがある。その対象は姉であり、最近は姉と接するトウヤも対象になっていた。

 この姉妹の空間に”俺も混ぜてよ”なんて無粋な事はしない。不純物はいらないのだ。


「あと携行食が欲しいですか、置いてますか?」

「携行食はモニカが作ってるので、今呼びますね」

「よんだ?」


 メルルの横には既にモニカが立っていた。それに驚くメルルの見て楽しんでいるのが分かる。姉の反撃がくる前にさっさと商いの話を始めた。


「なに必要?」

「携行食と何か面白い効果出る物あるかい?」

「まかせて」


 そう言うとモニカは木箱から携行食と、幾つかの液体の入った試験管を机に並べる。中身が蠢いているのとかあるが中身が怖くて聞けない。


「これ、投げるとスライム出てくる、でもすぐ死んじゃう儚い命。こっちは武器に使うとすっごい強くなるけど、武器は壊れる。他にも──」


 モニカの取り出すアイテムは、どれもこれも癖しかない。だがそれがいい。差し出されたアイテムを全て購入する事にした。


「トウヤ、見る目あるね」

「また何か、面白いのあったら教えてくれ」


 モニカの口角上がり、悪戯っぽく笑う。


「わかった。まかせて」




〈WORLD topic〉

 露店出店には金銭が必要になる。広場に近いほど金額もたかくなりるため、城郭都市リステア全域に露店が出ている。NPC相手に露店を出すプレイヤーも多く、NPC用の日用品アイテムの生産もプレイヤー間で盛んに行われている。

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