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No.4 ゲーマーと怪しい店

 早馬ギルド。

 城郭都市リステアの物流を一手に担うギルドだ。

 探求者ギルドから依頼があれば、都市外やダンジョン内にまで物資を届けに行くやべー奴ら。

 配達員の戦闘力も高く、ダンジョンに同伴して潜る事もある。

 そんな強者も多いギルドだが、ここ最近は配送途中での襲撃が頻発していた。NPC配達員の怪我も絶えずに人手不足も深刻となっている。

 危うい現状だが、城郭都市の物流はどうにか維持していた。


 ギルド内の会議室の扉を開き、身をよじりながら大柄な男、ガヤックが疲れた表情で出てくる。

 先ほどまで会議室では、探求ギルドの職員と会議を開いており、議題は、”どうにか探求者(プレイヤー)に配送依頼の受注を頼めないか”という内容だ。

 だが、探求者ギルドの職員の返事は芳しくなかった。探求者(プレイヤー)たちは、討伐や採取などの依頼受注が多く、配送依頼や物資の護衛依頼は極端に低かった。

 請け負ってくれる探求者は少なからず存在はしてはいるが、新規での見込みは極めて望み薄だった。

 

 現場主義のガヤックも人手で不足で、ここ最近は裏方でギルドを回していた。怪我した同僚の復帰にはまだ時間も掛かると聞いて、ガヤックの肩が落ちる。

 どうしたものかと、筋肉で出来た脳味噌をフル回転しても糖分も要求してくるだけだ。重い足取りで階段を下りているとロビーから聞き覚えのある声が聞こえる。

 日中の賑わいも去って、静けさが戻りつつあるロビーに視界を移すと、ここ最近担当になった探求者のトウヤが受付に居た。


「今、戻りか」

「丁度、戻ったところです」



 受付から報酬を受けとると、後ろからガヤックの声か聞こえたので振り向いた。ここ数日で疲労が溜まったのか、ガヤックの顔色は良くないのが分かる。

 そのままギルド裏手の倉庫、ガヤックがいつも居る倉庫の中の休憩所に二人で移動する。道中でガヤックが今しがた会議が終わったのを知った。なるほど、疲労の原因はそこか。


 休憩所の椅子に座るとガヤックから紙袋を貰った。その中身はガヤックお手製の焼き菓子だ。何度が貰っていただいたが、これがどうして旨いのだ。

 穀物類とナッツを燻してドライフルーツと蜂蜜を絡めて棒状に焼いた菓子。一本食べたら満足するくらいカロリーの高そうな焼き菓子だ。

 SP持続回復効果もあってなかなかの逸品である。それがガヤックのゴツゴツした手から作り出されるのだから、驚きだ。

 一口頬張りながら味を堪能しているトウヤを見て微笑むガヤックは、とても人前でやってはならない獰猛な笑みを浮かべている。

 慣れているトウヤは気にせずに焼き菓子を堪能する。これだけ美味しく作れるなら就く職を間違えてるんじゃないのか?


 焼き菓子を食べながら、今日の依頼内容をガヤックに報告する。こなした依頼数に感心するガヤックは、先ほどよりも顔にが柔らかくなりいつもの表情に戻っていた。


「そんじゃ、俺はもう帰るぞ。お前はまだここに居るか?」

「はい。もう少しだけ居させてもらいます」

「そうか。戸締り頼むぞ。鍵はいつもの所でな」


 ガヤックを見送り一息つく、それからステータスを確認する。

 するのそこには二つの職業(ジョブ)が並んていた。


 主職業(メインジョブ)担ぎ屋(ポーター)Lv4】

 副職業(サブジョブ)戦士(ファイター)Lv1】

 種族 (レイス)人間(ヒューマン)Lv2】

 

 最初に選択した職業は【戦士】だったが、何故か選んでもいない【担ぎ屋】が主職業になっていた。

 副職業は後で変更も可能であるが、主職業は変更できない仕様になっている。

 原因は『リハビリスターターキット』にあるのは明白で、職業選択も『リハビリ』を意識しての事なのは伝わってくる。

 【担ぎ屋】の情報も戦闘職に比べたら、些細な情報しか出回っていない。主職業に【担ぎ屋】を選んでいるのがどれほど居るだろうか。

 【担ぎ屋】の基本スキルは”個人積載重量が増加に過剰積載時のデバフ軽減”である。

 主職業よりも副職業に選んでおけば遠征時に便利だろうし、職業レベルを上げずとも、便利な基本スキルがすぐに使える。

 便利な職業なのはトウヤにも理解でる。できるが故に納得がいかなかった。その一番の原因は、主職業を基準にステータスが伸びるという面だ。

 戦士職ならば攻撃力や頑強さ、魔法職なら魔力やMPなど予想しやすいが、サポートクラスはどうなるのか。これが分からなかった。ゴリゴリの接近職をやろうとしていたので 、サポート職はリサーチの範囲外である。


「ふぅー」


 トウヤは、思わずため息を漏らす。それから腕を組んで目を瞑る。頭の中で今後の方針を思考する。まずは何を優先すべきか、今の職業(ジョブ)で最良の行動は何か。

 考えを整理し順序を決め終える。


「よし! 行くか!」 



 日が沈み、常闇が空を覆い始める。

 通りの街灯には火が灯され、行き来する人々に道を指し示す。それに反して裏路地は暗闇が支配していた。

 裏路地の暗闇に光が揺らめく、ランタンを片手に持ち足元を照らしながら、トウヤは歩いていた。その足取りは迷いなく、入り組む路地を突き進む。

 何度目かの角を曲がると、そこは行き止まりだった。

 裏路地の終着地点。唯一、窓から光りが漏れている建物がある。

 ぼろぼろの看板が軒先に吊るされているが、紐の片方がちぎれて傾いている。傾いている看板には、薬草を束にしたシンボルマークが掛かれていた。そこが目的の店だと分かった。


 建付けの悪い扉を開けると、静かな店内に軋む音が鳴り響き客の来訪を知らせる。

 漢方や香草などの独特の香りが店内に立ち込めたいる。恐る恐る店の奥に進むとカウンターに座る白髪の老人が居た。老人の元に行くと、老眼鏡越しに視線を動く。


「何か用か?」

「星の雫二つと指輪を一つ」


 トウヤは一言告げる。

 老人は億劫そうに椅子から体を持ち上げて、立ち上がる。カウンター後ろの商品棚を弄ると歯車の音が聞こえた。

 壁の一部が陥没して開く。屈んで大人一人が通れるほどの通路が現れた。

 目線で付いて来る様に促す老人。慌てて後を追う。

 隠し通路を一つの部屋に繋がっていた。

 表の店とは一変して様々な商品が置かれている部屋に通された。


「おぉ……」


 通りの店では見られない品々に思わず声が漏れた。商品を物色していると、椅子に腰を下ろした老人が声をかけてくる。


「それで、何が欲しい」


 率直に問う老人。前もって決めていたので迷わず受け答えする。


「煙玉と毒煙玉を十個づつに毒薬を何個かと麻痺薬もあれば──あ! 解毒薬も欲しいです! それに投擲出来る暗器みたいなのが欲しいんですが、よく分からないので教えて貰えればと!」

「分かった、そう慌てるな。金の方は大丈夫か?」

「9000コルトまでなら出せます。それで見繕って貰えれば、助かるんですが」

 

 老人は呆れて、ため息を露骨に漏らす。そしてトウヤに忠告した。


「自分が出せる金を馬鹿正直に相手に教えるな。足元を見られるぞ、特にこういう店なら、なおさらだ。今のは聞かなかった事にしておこう」


 呆れながらも手際よく商品を集めて、カウンターに並べる。品の並べ方からも老人の几帳面さが伺えた。


「お前さん、探求者(プレイヤー)だな。見ると──来て間もないか。此所の事は誰に聞いたんだ?」


 微笑みながら聞いてくるが、目が笑っていない。老人の瞳からは、猛禽類の様な鋭さが見え隠れしている。目線を逸らさず、老人に微笑み返した。


「柄の悪そうな覆面の方にこのお店の事を聞きましたが、名前は聞いていないので分かりません」


 カウンター越しに笑い合う二人。先に老人が微笑みを崩して本当の笑みを見せた。


「童がよく言う。何処で腹芸なんて覚えた」

「御老体ほどじゃありませんよ」

「口の減らんやつだ」


 演技に勝るは知らぬと言う事だと思う。知っていたなら表情に出ていたかもしれない。なにせ、自分の演技は信用できないのだから。


 注文の薬品他。それらを収納して何かあれば、迅速に使用出来る様に腰の小鞄(ウエストポーチ)を進められ購入した。


「後は暗器だが、一通り見てみるか」


 今度はカウンターに様々な暗器が、並べられる。用途など一通りの説明を受ける。その中で気になる物に手を伸ばす。


「棒手裏剣か」

「えぇ、これなら嵩張らないので大量に持てるかと」

「こんなに買い込んで何しようってんだい?」

「何もしませんって。これは自衛のためです。舐められない程度には反撃しませんと」


 何のツボに入ったのか分からないが、くつくつと喉を鳴らしながら老人は笑った。


「棒手裏剣は重心によって投げ方もコツも変わる。お前さん投擲技能(スキル)持っておらんだろ。久々に気分がいい。投擲を教えてやる」


 また仕掛けが動き、隠し通路が出現する。早く来いと急かされた先は鍛練所だった。そこでトウヤは老人から、みっちりと投擲技能を教え込まれた。


 数時間に渡るスパルタ特訓が終わった。肩が上がらない。腕の筋が痛い。なんでゲーム内でこんなに、しごかれるのか。今日はもうログアウトしよう。



 老人は、足取りがおぼつかないトウヤをカウンター越しに見送った。老人の背後が一瞬揺らめくと、一人の男が音もなく現れる。男は姿勢を正して、老人に声をかけた。


「よろしかったのですか?」

「……かまわんよ」


 老人は男に振り向かず、パイプに火を付け一服する。肺に貯めた煙を鼻腔から一気に吹き出し、老人は話を続けた。


「口も固そうだ。それにだ。うちに来ないで売り捌く奴らの分も、こうしてここに戻ってくる」 


 カウンターに置かれた小袋にはきっちり9000コルト入っていた。老人は面白そうに金を見て、口角をつり上げる。


「童もまたうちに金を落としにくる。問題ないさ」

「……監視は続けますか?」

「そうさね。監視を続けて、手に余る人数なら手助けしてやれ。童なら大丈夫だと思うが、金の卵を今後も産んで貰わなければ困る」

「御意」


 背後から男が消え、部屋に静けさが戻る。老人は椅子にもたれかかる。そして残りの煙をパイプから吸い上げ、肺一杯に堪能した。


 後日、裏路地で煙が立ち上がる騒動があったが、犯人は捕まらず、代わりに近くで気絶していたPK数人が衛兵に捕まる奇怪な事件があった。




〈WORLD topic〉

 犯罪行為を犯したプレイヤーは、表の施設が使えなくなる。代わりに盗賊ギルドが運営する施設が使用可能になる。またそこでしか、販売しない商品も存在している。

 盗賊ギルドの店は暴利が基本となる。プレイヤーはそれを利用せざるおえないため、耐えられないプレイヤーは自ら捕まり、犯罪を清算して表に戻る。

 盗賊ギルドを集団で襲ったプレイヤーも存在したが、上位職と思われる高位のNPCに返り討ちにあって、身ぐるみ全部取られた事件があった。それ以来、表立って、盗賊ギルドに手を出す者はいない。

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