No.32 ゲーマーとミミック
城郭都市リステアに到着後、産業区画に足を運んだ。まずは時間の掛かりそうな物から済ませるとそよう。
産業区内の工房の連なる通りを目指す。様々な分野の工房がひしめくエリアは熱気と活気に溢れている。
玄鉄鉱石が出回るつつあるため、装備更新などで工房や作成職たちは大忙しだ。
私が訪れた工房も静かに慌ただしかった。
「こんにちは、ハヤマさん」
「どうも」
カウンターで帳簿とにらめっこしていたハヤマが顔を上げてこちらを見た。ペンを持ち、帳簿に訂正を加えている。
「まさか、作成依頼じゃないよな!?」
「その顔見たら、そうだとしても頼めませんよ」
疲労が垣間見える表情のハヤマ。その原因を作ったのは私でもある。
玄鉄鉱石の入手から始まり、作成途中の大剣に新素材の途中採用。剣の形成は既に終わっていたため、そこから当初の計画にはなかった、特殊な加工処理を施したりとハヤマに大変迷惑をかけた。
「今日は武器ではなくて、耐火レンガを探してるんですが、取り扱ってますか?」
「それなー。うちは鍛冶屋なんで、そういったのは扱ってないんだよ。知り合いに石工職人に聞いて見るかい?」
「お願いします」
個人依頼を作成して、ハヤマに送る。ハヤマにも手間賃を添えておこう。
「ハヤマさん分の手数料も含んで起きましたので、よろしく頼みます」
「ありがたい。でも今は金よりも、時間が欲しいかねぇ……」
無理もない。作成依頼が山積みなのだから、主にPKたちの武具作成だ。大量の玄鉄鉱石もこの工房に運び込まれている。
オススメの工房は? という問いかけに何も考えず、ハヤマ居る工房を言ったらこの有り様だ。本当に申し訳ない。
ハヤマはNPCの親方に弟子入りしているため、工房状況を中央の金床ギルド報告する義務がある。買い取った鉱石の報告、作成物報告など事務仕事を親方から丸投げされていた。
ギルド所属の工房で作成依頼が片寄った場合は、手の空いてる工房に仕事を回して潤滑に依頼をこなすはずだった。
玄鉄鉱石の産出ラッシュが始まってしまい。どの工房も忙しく、暇の工房など存在しなかったのだ。むしろ探求者が弟子入りしてるならこの位の仕事量なら、イケるとギルドから判断されてしまい、今に至る。
「作成経験値とかは、美味しいんだけど、ね。もうゲーム内で疲れてると、俺何してんだろって……」
これはいけない。心が折れて萎え落ちする前にメルルの店から甘い食べ物と冷たい飲み物でも差し入れしよう。
こんな時、心を癒すのは食べ物だ。会話を切り上げ、工房を後にする。
◆
街路樹の下、いつもの場所にメルルたちの屋台がある。人も多く、置かれているテーブル席でそれぞれの時間を楽しんでいる。
「こんにちは、メルルさん」
「あら、トウヤさん。こんにちは」
いい笑顔で出迎えてくれる。
「デザートと飲み物持ち帰りで一つ貰えますか?」
「一セットですね。デザートは複数ありますが、どうしますか?」
「あー、全部お願いします」
「はい。ちょっと待って下さいね」
待っていると背嚢に違和感を感じる。何か漁られてる?
振り向くとモニカが背嚢からミミを取りだそうと頑張っていた。その外ポケットからは、ミミ本体は出せないから止めて、破れる!
急いで背嚢を下ろすと、モニカはミミを拾い上げて去っていく。
「あ、おい」
「ちょっと借りる」
慌ただしい子だ。整頓していれていたのに、無理やりミミを取るから背嚢の中がぐちゃぐちゃだ。
「あらあら、モニカがまた何かやりましたか?」
戻ってきたメルルが、申し訳ないなさそうに紙袋を手渡してくる。
「いえ、いつもの事なんで、全然大丈夫ですよ」
「それが、困るんですよ? 一度ちゃんと伝えないと」
伝えてどうにかなる玉じゃない気もすんだが。姉として、モニカの事が心配なんだろう。メルルを安心させるためにここはひとつガツンと言ってやるか。
「分かりました。ちょっと言い聞かせてきます」
「お願いしますね」
メルルに送り出されて屋台の裏に向かう。モニカの錬金道具や素材の入った木箱が、乱雑に置かれている天幕がある。自称、工房に足を踏み入れた。
「モニカ話がぁあアッ!?」
ミミに上半身を食われてるモニカが居た。
太ももまで食われ直立する。どこかの犬家族のみたいになっているのを大慌てで足を掴み、引きずり出す。
「おま、大丈夫か!?」
「もー、なにする!」
いや、本当にビビるから止めてくれ。そして手に持っている木樽はなんだ。
「今何やってたか。説明してくれるか?」
「んー? ミミちゃんの中で味噌作ってた」
んー? これはまた難解だぞ。
「ミミちゃんの中は時間経過が早いの」
そんなスキルもフレーバーもなかったけど、そうなのか。モニカの持つ樽から微かに味噌の香りがする。
「特定の二つのアイテムを入れると混ざって出でくる」
また真事実が、これ私のテイムモンスターだよね?
「よく分かったな……」
「ミミちゃんとマブダチだからね」
サムズアップするモニカは、どこか誇らしげだ。ミミも舌を出してるが何かの合図かな?
「じゃあ、さっきのは食われてた訳じゃないのか」
「ミミちゃんの中覗いてただけだよ」
「え、覗けるの!?」
「覗く?」
「……いや、止めとく」
「面白いのに」
どう面白いか気になるが、今は覗き込むのはよしておこう。それに色々な新発見があって、注意するとかそんな空気ではなくなってしまった。
こうなったら誉めて伸ばす方向でいこう。
「私の知らない事を知ってて凄いな。また何か新発見あったら教えてくれ。あと、今から産業区に行ってくるから、戻るまでミミちゃんと一緒にいていいぞ」
「いいの?」
「あぁ、後で味噌の試食もさせてくれ」
「まかせて、きゅうり用意しとく」
メルルには悪いがこれでいいだろう。モニカが調味料を作ってるのも、メルルのためかもしれない。私に一言あってもよかったが……。
でもまぁ楽しみが増えた。メルルが味噌を使って何を作ってくれるか、今後のラインナップが楽しみで仕方がない。
〈WORLD topic〉
フレーバーテキストに記載されていない。マスクデータや特殊スキルなどがある。アイテムの由来になった物や遺物。架空の生物などに由来のある効果やスキルなどが、2ndWORLDには散りばめられている。




