No.3 ゲーマーと裏取引
プレイヤーが最初に集う都市。新大陸の楔として南方の海岸線の平地に打ち建てられた都市が、城郭都市リステアである。
二重の城郭を持つ都市は、人口の増加に合わせて大小の改築を繰り返すうちに、元の優美な幾何学的なデザインの都市設計とは欠け離れてしまった。
当時の関係者が見れば卒倒ものだが、今を生きる人々には考え及ばずとも、その時の最良である使い方をしているのもまた真実であり、裏家業の人々にとっても同じだ。
大通りの機動性をからは程遠く、薄暗い入り組んだ裏路地は、人を迷わせる迷宮かと錯覚すら覚える。
その迷宮を迷いなく走り回る、一人のプレイヤーが居た。
大荷物を担ぎ速度を落とさず角を曲がる。体幹を崩すことなく、脚は石畳を踏み締め勢いよく蹴り進む。
PK騒動から数日経ったトウヤは、冒険譚を楽しみに都市外に向かう事もなく、ガヤックのお使いクエストを日々こなしていた。
進行方向に人影が見える。覆面の男が手を上げてこちらを見ていた。走る速度を落とし、男の前で立ち止まる。
「どもです。今日もいいですか?」
覆面の男は数日前にトウヤを襲った男であった。名前は聞いていない。知らなければ、都合のいい事もある。呼び名が分からないのもよろしくないので、トウヤは短刀持ちを覆面A、短弓持ちを覆面B、と呼んでいる。そして今目の前に居るのは、覆面Aだ。
「あいよ。今日も買取?」
「はい。あと回復薬が欲しいですが、幾らか在庫あります?」
「あるよー。あ、買取して欲しい物出しといてね」
不思議な関係に驚いているが、覆面Aも同じく驚いていていた。
ここ数日、初心者保護期間を有効に活用するために配送の依頼を受けまくり、経験値と金を稼いでいた。
その度に裏路地を活用して、走り回っていると続々と遭遇するPKたち。遭遇したところで、こちらに手が出せないので安全に配送しているが、たまに荷物だけでも奪おうとする輩もいる。その際は、バケツ頭を叫んで召喚や、猛ダッシュで逃げた。
これを繰り返していると、最初に襲われたPKの覆面たちに心配されて声をかけられたのが、きっかけに交流を持つようになった。
覆面たちは、PKで通りの店でまともに買い物が出来ない。そのため、闇市で売買をしていた。しかし、通りの店に比べ、半額の買取値に割高な売値と足元を見られて困窮していた。可哀想なので、代わりに買取の話を持ちかけると大喜び、それが噂になり他のPKからも取引を持ちかけられる様になり、今に至る。
「今日これだけありますけど、大丈夫ですかね?」
回復薬を木箱から取り出し終え、差し出された買取品をチェックする。今日は獣系の毛皮類が大半占めていた。持ち込み量が日が経つれ増加しているが、まだ増えそうで怖い。流石にこちらの金銭にも限界がある。
「おけーおけー。まだバックに余裕あるから全部買い取るよ。回復薬は何個くらい必要?」
「出来れば一箱欲しいです」
「はいよー。んじゃ、回復薬の金額を差し引いて渡すから、ちょっと待ってね」
素材の市場単価は、事前に調査済み(トウヤ調べ)なので万全である。
(未発見の素材がなくて、よかったー)
一度も取得していない素材はアイテム名が表示されない。そうなると、NPCに高い金を払い識別してもらうか、探求の書という名の図鑑登録をデータを買うたなど方法は色々ある。もっとも手っ取り早いのは、自分でモンスターを討伐して素材をゲットすれば自動登録される。
まだ都市から一歩出ていないので、決して安くはない図鑑登録を購入してどうにか商売っぽい事をしていた。
「はい、今回の買取金ね」
「──え? こんなに貰っていいんですか?」
「あー大丈夫だよ。いつも買い物してくれるし、気にしないで」
買取値に喜ぶ覆面Aを微笑ましく思いながらも、市場調べ(当社比)を見直そうと心に決める。
覆面Aは毒薬などが買えるとウキウキしてるが、それは聞かなかった事して、買い取った毛皮を背嚢に仕舞う。
別れ際に覆面Aから質問された。
「あの、レベルはまだ5以下ですか?」
「そだね。まだ3レベルだよ」
「レベル5になると初心者保護期間が、強制的に無くなるので注意してください。日頃取引してても、PKたちなので、アイテム欲しさに襲ってくる可能性高いと思います」
お前が言うのか! と声を上げそうになるが、押し止める事には成功した。なんでPKやってるのか、ますますの分からなくなるが、忠告はありがたく受けとる。
「襲われたら、助けてくれよ」
「はい! 任せて下さい!」
覆面Aに空想の尻尾が見える。こちらが、見えなくなるまで尻尾を振っている覆面Aと別れて、配達の続きに戻った。
〈WORLD topic〉
犯罪行為を行ったプレイヤーのネームプレートは、青から黄色、最後は赤色になる。
基本、ネームプレートには職業のみ表示されるが、赤色になるとプレイヤー名まで表示され、懸賞金もかけられる。