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No.29 ゲーマーと鉱山争奪戦(5)

「追って来ますかね?」

「さっきの反応見る限りだと、追ってくると思うよ。とりあえずは、追ってくるの前提で行動しましょう」

「そうてすね!」


 徘徊するモンスターを【獣道】で遭遇しないように進む。前もって周囲のモンスターは、倒す様に指示していたので、足跡の痕跡は少ない。ちゃんと指示通り仕事しててえらいぞ。サボってたら、ハルの探求の書(図鑑)に殴られてリステアから、三時間ほどマラソンの刑だ。

 既に一人、探求の書(図鑑)の餌食になっているため、サボりが減って、勤勉に働いている。探求の書に殴られて死ぬ姿は、衝撃的だっただろう。私もそうだった。


 いつもより遅めで歩いたため、時間が掛かったが、ゴルドが採掘を続ける鉱山に到着した。

 入口の周りには、価値もない石グズが山盛りに置かれている。でも入口に近すぎないか。扉の開閉に支障が出ている。


 少し石グズを片付け中に入ると、坑道内も酷い散らかり具合だ。部屋から溢れた鉱石が、通路にまで置かれている。

 人の気配はなく、耳をすませば、奥底から採掘音が微かに聞こえてくる。


「ゴルドさん、またずいぶんと掘りましたね……」


 ハルは呆れ顔で坑道を見渡すと、ため息を吐いた。好きに掘っていいとは言ったが、この量は流石になぁ……搬出に付き合わされた人の苦労が、鉱山入口の石グズだったのだろう。


「まずは、ゴルドさんを見つけましょか」

「はい」


 奥に進むと採掘音が大きくなってくる。この短時間に三層の階層を掘るとか、どうなってるんだ?

 大部屋から伸びる、脇道の一つにゴルドを見つけ、大部屋まで引きずり出す。目的忘れてるのか? 

 わがまま言うとハルに殴られてしまうぞ。


「もうッ! 何やってるんですか!!!」

「そんな、怒らなくても……」

「あ“!?」

「いえ、なんでもないです。こっちが脱出用の出口です、はい」

「おーい! 来たぞー!」


 ゴルドの指し示す道から、フードを深く被り、鼻まで隠すマスクを着けたPKの一人が現れる。それが男の戦闘服なのだろう。


「もうですか?」


 私が聞き返すと、男は飄々と答える。


「慎重もなんもねーのよ。よほど自信あるんだろうな。ま、都合いいし、早く出た方がいいよ」


 それだけ告げると男ほ来た道を戻っていく。なら私たちも、早く外に出た方がいいな。男が去っていった通路に向かう。

 その前に──


「ゴルドさん、お願いしますね」

「あいさー」


 ゴルドがつるはしで壁を叩くと一瞬で粉々になる。

 え、そんな簡単に掘れるの?

 最後に支保工の添え木を叩き壊すと通路が崩落した。土煙が舞い、その中からゴルドがホコリまみれで出てくる。元から埃まみれだったが、さらに酷くなってるな。


 通路は塞いだし後は外に出るだけだ。長く伸びる坂道の通路をランタンの淡い緑色の光で照らしながら進んでいく。

 外出ると先ほどの男とギリースーツに身を包んだのが数人いた。ゴブリン特製のギリースーツは樹海でのカモフラージュ率はなかなかの高さを誇る。このギリースーツの取り合いで、PKたちが殺し合い始めたのには本当に呆れた。


「順調?」

「問題なし、監視塔から荷馬車も移動したって、連絡あったよ」

「よし、後は少し様子見するから、ギリー着てる人は鉱山周囲を警戒してくれ」

「「うーす」」


 私たちは少し遠目の休憩所に向かうとする。

 鉱山から少し離れた巨木の下にくると、上から縄が降りてくる。縄には足を乗せられるほどの輪が作られていた。そこに片足をかけ、縄を掴み軽く引っ張る。

 それを合図に縄は引き上げられ、瞬く間に巨木の側枝にたどり着く。


「ハァ、ハァ。めっちゃおも……」

「やっぱり本体は、バックパックの方だわ……」


 到着そうそうに、酷い言われようだ。文句の一つでも言ってやろうとしたが、縄がまたテンションを張って合図を送ってくる。PK二人は、また縄を引き始めたので、今回は見逃す事にした。


 枝にはPKたちとゴブリンがそれぞれに休憩をとっていた。鉱山を中心に巨木にはケープ・スパイダーの糸でジップラインが引かれている。遠目からだと糸を目視で確認するのは困難だ。暇な奴は、そのジップラインで遊んでるが、バレないかとヒヤヒヤする。


「ほら、遊んでないで! 飯買ってきたから食べろよー! まだ暖かいぞー!!!」


 飯だって定期的に摂取しないと、SP上限値が徐々に低下してくるので、大事だ。低下しなくても、味覚が再現さるているので、全員が当たり前の様に食事をとっている。


「トラの肉って、本当にトラの味なのかな?」

現実(リアル)で試せばいいだろ」

「無理を言うな」


 思い思いに食事を楽しんでいる。私は食事を先に済ませてあるので、望遠鏡で鉱山を確認する。

 入口に見張りが二人。あとは姿が見えない。


「何人中に入って行った?」

「三十分前に、二人ほど」


 見張りの一人に尋ねると返答がある。胡座をかいて、組んだ足の中心に弁当を置き、片手で箸をもう片手で望遠鏡を覗きながら器用に食べている。


「先に潰した方がよくない?」

「後続の商人たちが怖じ気づいて逃げ出したら面倒見だ。もう少し我慢してくれ」

「了解」


 会話が終わり、再び器用に弁当を食べている。私も少し休んで備えるとしよう。



 待機して4時間ほど経っただろうか。この狂犬ども早く殺りたくて抑えるのに苦労する。ハルにボコってもらおうとしたが、ハルも狂犬だったため、その願いは叶わなかった。


 でも待った甲斐はあった。鉱山の入口には荷馬車が五台止まっている。今も忙しく、鉱石を荷馬車に積み込んでいる。望遠鏡からもうっすら見える表情は、緩みまくっている。この後がとても楽しみだ。


「あ! 荷馬車一台出発したけど、どうする!?」

「一班はハルと一緒に、ポイントDで仕留めてこい!」


 今のセリフちょっとカッコいい。一度映画みたいなセリフ言ってみたかったので満足です。そして他の面々もノリノリである。


「ヒャアッ! 我慢してた甲斐があっぜぇッ!」

「ヒャッハーッ!! 祭りの時間だァ!」

「僕、上げてから落とすの好きなんだよねぇ……」

「ヒェ……」


 なんか色々聞こえてくるが、私は何も聞こえなかった。準備を整えるとハルたちは、ジップラインで荷馬車の通過地点に先回りをする。


 荷馬車はPKクランの護衛を三人ほど付けて、監視塔へと向かう様だ。ハルたちは、人数も確認せずに行ってしまったな。私もノリノリで雰囲気に任せて言ってしまった。まぁなんとなるだろ。鉱石運びで減ったSP回復もろくにせずに出発する奴らだ。ハルたちは負けないさ。

 それに周囲にギリースーツ着た奴らも潜んでいる。


 間もなくしてら二台目も動き出す。二班に指示を出し向かわせる。ジップラインでヒャッハー言いながら滑って行くのなんなんだ。


 順調に荷馬車が出発していき、残り一台になった。その頃には最初に向かったハルたちも戻ってくる。


「お帰りなさい」

「ただいま戻りました!」


 ハルもテンション高めで、少し頬が赤く染まっている。いや、これ血だわ。


「ハルさん。頬に血が……」

「えっ! さっき拭いたんだけどなぁ──」


 ハンカチまで取り出して拭いてる姿は愛らしいんだが、拭いてるの血なんだよなぁ……。

 戻ってきたPKたちも高揚感からか、落ち着きがない。先の戦闘のお復習か、模擬戦までし始めている。


 それらを無視して、鉱山の様子を探る。積み終わった様だが、外に誰もいない。今がチャンスだろうか?


 ランタンに光を灯し、それを掲げて振る。すると鉱山付近で人が動く姿が確認できた。ギリースーツを着込み擬態する覆面ABだ。

 一人は鉱山入口に張り付いて不意の遭遇に備え、もう一人は少し離れた茂みを漁る。

 何かを引っ張る動作をすると、緩んで、地面に隠してたケープ・スパイダーの糸が、一気にテンションを取り戻し、私たちの所から鉱山付近までのジップラインが完成した。固定が終わり合図を返してくる。


「全員行くぞ!」


 私の言葉に、鼓膜が痛くなるほどの叫び声で答えてくれる。全員が行ったのを確認して最後に私も滑る。

 重量があるため、かなりの速度が出たが、皆にキャッチしてもらい無事に降りる事ができた。


 荷馬車の回収と入り口の制圧に別れ行動する。


「音聞こえないから奥にいると思う」


 この声は覆面Bか。なら今のうちに放り込んでしまおう。毒煙玉をこれでもかと取り出して、導火線に火をつける。それを急いで中に放り込んで扉を閉めた。


 これだとボロボロの扉では煙が漏れてしまうので、モニカ秘密道具を取り出しす。瓶を扉に当てると液体は膨張して隙間なく入り口を塞ぐ。

 粘膜スライム改良型という名前らしいが、ヘビィスライムが飛び出す奴の改良品らしい。相手を拘束したり、窒息死させてとり、効果時間と粘度も高めとモニカの自信作だ。


 再現性がないため、一点物だが、効果は抜群だ。

 少しすると扉の向こう側が叩かれる。しかし、スライムがびくともしない。叩く力も弱くなり、静かになる。

 次の瞬間、スライム事扉が吹き飛び、煙が溢れててくる。


「ァーくそ! やっと開いた!」


 煙から飛び出てくる人影に覆面Bが飛び掛かり、湾刀で片腕を撥ね飛ばして、首を狙う。刃が首を跳ねる寸前で覆面Bは重心を後ろに反らし、体を捻り後方に飛ぶ、そこには二振りの斬撃が、煙を引き裂いて現れた。


「おいおい、おいおいおいおい! どうなってんだァ!!!」


 煙から出てきた男は、顔に髑髏の刺青をして不揃いな双剣をかまえていた。腕を切り落とされて苦しむ仲間を気にも止めず、私たちを一瞥する。


「嵌められたってか! アイツに追加料金もらわねーと、割に合わねェ──!」


 投擲して暗器が弾かれた。


「人が話してる時くらィイッ!」


 暗器を四発同時に投げたのに防がれるとかマジかよ……。


「お前! なんなんだよ!」


 こっちが聞きてえよ。


「お、やりますか! 一騎討ちやるってー!」

「マジでー!?」


 いや、お前ら何言ってるんだ? 数の暴力て早く仕留めろよ!

 次々と姿を現すPKたち。武器を構えながら、ゲスい声出しながら登場だ。こんなに居るのに、どうしてそうなる君たち?


「──ッ!?」


 ほら、髑髏男も身構えてるじゃん。絶対、数で襲えば勝てるやつですやん。


「お前がボスか!?」 

「そうだぞ!」

「コロシアエー!」

「お前ら、好き勝手言い過ぎだよ!?」


 周りが騒ぎ立て、事態がおかしな方向に向かっていく。いやわざとか。……こうなったらヤるしかないな。


「ボスではないけどボスやってます」

「何訳のわからん事を」

「全員で襲えばすぐ終わりそうですが、一騎討ちしないとダメそうなのでしますか?」

「俺にメリットねー話しだな。俺が勝ったら見逃すか?」

「コイツらが見逃すと思いますか?」


 後ろを振り向き、手を広げる。それと同時に武器を肩に担いだり、笑い声を上げたりと。お前らアドリブに強いな……。


「クッ! ならお前だけでも殺し──!」


 もう付き合ってられん。殺られる前に殺るぞ。

 外套裏に仕込んである暗器を指の間に挟み投擲する。弾かれるが、構わない。隙を与えず、投げ続ける。


「それは俺にきかねぇゾ!」


《スキル、投擲の熟達が上昇しました。熟達が玄人に上がりました。技能、トリプルを解放します》


 戦闘中に投擲の熟達が上がった様だ。なんてタイミングがいい。さっそく、三つ指の間に挟み投げる。


「だから無駄──」


 両手で絶え間なく投擲を繰り返す。髑髏男も無駄口が減ってきた。一歩後退りするので、こちらは一歩進む。テンポよく弾いてくれるので、ここらで一つ別なのをくれてやろう。インベントリから石炭の取り出して、全力で投擲する。


「グゥッ!」


 弾かれたが、均等に保っていた体幹がブレる。そこを見逃さず、暗器を投擲すると防げず、腹部に深く突き刺さる。


「──ッ!!」

「まだいくぞッ!」


 暗器とたまに石炭を投げるのは実に効果的だった。最初に比べると、徐々に打ち落とせなく、体の至る所に暗器が刺さって痛々しい。


「えぐいわぁ……」

「どんだけ暗器仕込んでるんだよ……」

「なんか投げる本数増えてね?」


 後ろの声が鬱陶しい。お前らのために戦ってるようなもんだぞ? 引いてないで応援しろ。


「なめやがってッ!! 《シャドー・ステップ》」


 一瞬、後ろに意識が向いたのを見逃さなかった髑髏男が、スキルを発動する。全身が影の様に黒くなり、地面吸い込まれた。

 刹那、私の真下の影から双剣が交差して飛び出してくる。首を狙う一撃を右手を突き出して、どうにか阻止する。しかし、ロンググロープや籠手裏に仕込んだ鉄板も双剣には意味もなく、腕を切断された。


「グゥウッ!!」


 痛みに歯を噛みしめ、その場から離れ、距離をとる。すぐに傷口に回復薬をかけるが、HPの最大値は八割まで低下した。

 

 影が浮かび上がり髑髏男が現れる。


「おいおい! 腕失くなっちまったら、もう投げる事もできねぇぞ! 次はどうすんだァ!」


 よくしゃべる奴だ。ご期待に添えるよう頑張りますか!


「ミミちゃん! 右腕、長さ最大、捻りありで、お願い!」


 声に反応して背中で物が揺れる。背嚢からカサカサと虫の足音の様に何本もの細長い多関節の脚が飛び出てきた。

 ゆっくりと切断された右腕に絡みついてくる。捻れ、その上にまた捻れながら絡みつく。有機的で巨大な義手の先端は3本の大きな鉤爪付いている。鉤爪は予定になく、ミミの粋な計らいだ。


 絡みつく脚は脈動している。腕を振るえば、自分の意思で扱える、残った肘を曲げればちゃんと曲がる。これ楽しいし、ロボみたいでカッコいいぞ。


 髑髏男も顔が強張っている。というか周り全員が強張っている。ハルは白目向いてるぞ!?


「思った反応と違うなぁ……」


 悲しくなってきたので、早くケリをつけよう。この間合いなら届くだろう。引きずるほど長くなった右腕を【当て逃げ】を発動して、横から薙ぎ払う。振るう瞬間、相手に届くまで伸びたミミクローが当たる。届かないと思ったのか、防御もせずに脚の塊に押し潰される様に、くの字に曲がりながら吹き飛んだ。

 そのまま岩にぶち当たって動きが止まる。なんかイやな音が聞こえたが、HPがまだ残ってるからへーきへーき。


 近づいて、ミミクローで絡めとれば、もう逃げられない。我々の勝利だ!


「勝ったぞー!」


 勝利を宣言するも歓声がない。静けさの中に蠢くミミの脚の音がよく聞こえた。



 全員が正気を取り戻すのに少し時間を要した。

 殺さず生け捕りにしろという指示はちゃんと覚えてたみたいだ。

 腕を後ろで縛り上げ、メニュー操作からログアウトできなくする。最初はうるさかったが、ズタボロの髑髏男を連れてくると大人しくなった。


「それであれ試すんだっけ?」

「そうそう。皆覚えてるし、こんどけ捕虜いれば、熟達も上がりそうだしね」


 覆面AもといギリースーツAが捕虜の前に立つ。


「《スティール》」


 手が輝くとそこには回復薬が一つ。

 

「外れか……」

「次オレねー《スティール》」


 スティール(盗む)は成功率が低い。一度使った対象には数時間のCD(クールダウン)が必要になる。ただし、個人別に判定があるため、連続で同じ人からは盗めないが、頭数を揃えれば連続で同じ人から盗めてしまう。

 ここには二十三人の【スティール】持ちが居るため、捕虜の皆様には一人につき、二十三回のスティールに耐えてもらおう。


「お、金銭袋だ! けっこう中身はいってるじゃん。流石、商人だなぁ」

「もうやめて、早く殺してくれ!」

「まだ二十人は居るからがんばれ。《スティール》」


 うーん、酷い光景だ。休憩を挟んで、全員にスティールを使い終わった。可哀想な奴は武器を奪われてる。実に運がないなキミは。


「じゃあ倒していいかな?」

「あ、ハルさん待って!」


 早くも探求の書(図鑑)で、殴りかかるハルを止める。そして重要な人物を呼んだ。


「ゴブに装備奪わせてからじゃないと、勿体ないてすよ」

「ゴブッ!」

「あ! そうてしたね。忘れてました」


 我々以外は、状況を飲み込めていない。

 特にゴブリンの登場に相手は困惑している。

 ゴブは捕虜から武器を奪う。そしてハルが本で撲殺するとゴブの手に持った武器は消えずに残った。

 周囲がどよめく、こちらの陣営からは感激の声が、相手の陣営からは悲鳴や泣き叫ぶ声が聞こえた。


「ゴブ、あの双剣は必ず持ってくれよ」

「ゴブゴブッ!」


 私が双剣を指指すと持ち主の髑髏男は、声にならない悲鳴を上げて絶望の表情を顔に張り付けて、固まってしまった。




〈WORLD topic〉

 大型アップデート前に幾つかのスキルや仕様に修正が加えられる。その原因となった動画は、今も再生数が伸びている。

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