No.28 ゲーマーと鉱山争奪戦(4)
第12監視塔を制圧して間もなく、多くのプレイヤーたちがアリの行列の様に列をなして、こぞって移動を開始した。
オレも商機を感じとって、荷馬車に大量のアイテムを積み込んでいち早く向かった。それが大当たりさ、露店も立地の良い場所に出せたし、リステアからアイテムを持ち込んだ分、全てが売れちまうんだ。笑いが止まらないぜ。
クラメンも遅れてやって来たが、もう監視塔近くの場所は残ってないから、端の方でしか露店を出せないでいる。売上げでいったら、天と地ほどの差があるね。
クラメンのよしみで、売れないアイテムを代わりにオレの露店で販売してやったりもした。もちろん、手数料は貰うがね。売れないでいるよりマシさ。
仕入れに戻る時間すら、惜しいほどに物価値が上がった。遊び方は人それぞれだが、職の人口バランスおかしいんじゃねーか? まぁおかげでオレは、儲けられてるんだがよ。
仕入れにに戻って、急いで監視塔に向かっていると、その最中にワールドアナウンスが流れた。新緑樹海が祝福されたとか、なんか分からんが、色々と起きているらしい。
戻って商売を再会すれば、物が売れる売れる。客から色々な情報も聞けて祝福の効果も分かった。こりゃ、ここでの儲けが凄い事になるぞ。人の流れも終わりが見えねぇ! 自分の商運の良さが怖くなるぜ。
「こんにちは、この騒ぎどうしたんですか?」
オレや周りとは違ってこの熱狂にやられてない、険しい顔をしたプレイヤーが、オレに話しかけてきた。大きな背嚢を背負ってるところを見ると担ぎ屋だろうか。どうやら状況を飲み込めていないようだ。機嫌のよかったオレは、その男に一から説明してやった。
「それでなんですが、鉱石の買取ってしてもらえますか?」
説明してやったのに少し驚いただけだ。もっと驚いたらどうだ? いや、オレが今の状況に興奮して、おかしくなってるのかもしれんな。
「買取かい? どういう物だい」
男の差し出す鉄籠の中身を見ると大量の鉱石が詰まっていた。どれもよくある鉱石だな……鉱石は重くて嵩張るから、あんまり取り扱いたくないんだが──ん?
「この玄鉄鉱石ってまだ市場に出回ってないアイテムだぞ!? しかも品質+Bとたけぇじゃねーか!」
思わず声を出して叫んだが、周りに聞こえてねーよな? しかしなんだ、オレの元に初物が転がり込んでくるとか、それも大量にだ。マジで、今のオレ最高にツイてるぞ!
おいおい、ストレージ機能付きの箱から大量の鉱石吐き出しやがった! オレの手持ちで足りるか? 足りなくて他の店に商談持ってかれるのだけは、阻止しないとな!
「おいおい……まだ出てくるのかよ!? こりゃ、手持ちの金じゃねらねぇな。ちょっと待っててくれよ! よその店に行かないで、ここで待っててくれっ!」
慌ててその場を離れ、クラメンの元に向かう。足らない金をかき集め、急いで戻る。それとアイツらにも連絡しておこう。付近に数人くらい居るだろう。
戻り、精算を済ませると、まだ鉱石があるらしい。次もどうにかオレの所で、買い取ると約束を取り付けた。まぁ確証はもてねぇが、保険もかけてある。
後は報告を待つとするさ。
荷馬車に積み込みを済ませ、休憩していると、二人が戻ってきた。結果は良くなかった。二人で後を追ったのに見失ったと言いやがる。こっちも金払ってんだから、ちゃんと仕事をこなして貰わないと割に合わねぇ。
「頼むぜ、ほんと」
「木の根元で急に痕跡が消えたんだよ!?」
「木を登って行ったって、ことじゃねーのか?」
「確認したが、居なかった。それに簡単に登れるほど、小さな木じゃねーよ! 巨木だぜ? そんな時間もなかったよ!」
言い訳を並べているが、結果が全てよ。またオレの所に売りに来る事に賭けるしかないな。
◆
翌日、男はまた大量の鉱石を持ってオレの前に現れた。マジで俺の手持ち金が持たねぇかもしれねぇな。
何度か往復して鉱石を持って来たが、その度に追跡を巻いていやがる。
流石に前線にいるだけの実力がこの担ぎ屋にあるってことか? 少しやり口を変えてみよう。
小さな声で男に忠告をする。
「こっちも良い思いさせてもらったから忠告しとくが、あんたの運んでくる鉱石、いや鉱山狙ってる輩がいるから注意しなよ……」
真実を織り混ぜた嘘なら信憑性も増すだろう。
オレの所属する情報クランも教えた。後は相手の反応を待つか追跡が成功すればいいさ。
◆
露店の裏に積み上げられた木箱の一つに腰を下ろし、男たちから報告を聞いていた。
「マジで頼むぜ。本当によぉ」
クランには連絡はなく、追跡に出した奴らも数を増やしたのに場所も特定できねぇ。こんな事ってあるか?
「しかもリステアから荷馬車に乗って戻ってきたのに、荷馬車を見失うってどういうこった?」
「こっちが聞きてえよ! 本当に担ぎ屋なのか? サブに魔法職あるとか、情報ねーのかよ!?」
あーヤダヤダ。すぐこれだよ。それが仕事だろうに。こっちも金払ってるんだからさ。
「分かった。オレからもう一度接触してみる。その前にアンタたちが、先に鉱山を見つけてくれれば、早く終わるんだがねぇ……」
「──ッ!!!」
怖い顔したって無駄さ、アンタらは暴力、オレが金。暴力だけじゃ、金は稼げねぇぞ。
話が終わると男たちは人混みに紛れ、姿が見えなくなる。オレも商売をしながら、チャンスを待とうじゃないの。
さらに人の増えた第12監視塔周囲はもはや村の様な有り様だ。客足も途切れず、そろそろ品物が底をつきそうだ。そろそろ素材の買取だけにするか?
「おいッ!」
「……他の連中はとうした?」
露店の品が無くなり、買取オンリーの看板を取り出しているとさっき出ていった男の一人が居た。露店の方から話しかけるなって何度言えば分かるんだ? 客がいなくてよかったぜ。
「担ぎ屋の男、獅子王の奴らと一緒に樹海の奥に行ったぞ。先行して追跡した二人が、獅子王にやられた……もう情報売っちまったんじゃねーのか?」
その可能性はある。でもなんで、獅子王なんかに情報売った? オレが怪しすぎたか? うーん、考えても正しい判断ができんな。一度会って話を聞いて、色々と情報を揃えないとな。
男には死んだ二人と合流するまで、オレの代わりにに店番してもらおう。行き違いで、担ぎ屋の男が来るかもしれん。あの大きな背嚢だ。人混みでもよく目立つ、少し歩き回って探してみるとするか。
監視塔の防壁の上から周囲を見渡すと天幕、人混み、露店に荷馬車の数々、縁日を思わせる賑わいを呈していた。
「さてぇ、見つけられるかどうか……」
一時間ほど探したが、姿は見えず、疲労だけが、溜まる。オレが探してるのもバカらしくなってきた。そもそもアイツらが失敗続きのせいで、なんでオレまで苦労しなきゃならねぇんだ。ここに来てから最高にツイてるんだ。露店で待ってれば会えるだろう。
「ん? ありゃ──」
切り上げて、戻ろうとした矢先だ。露店の方にで見覚えのある大きな背嚢が、色々な店に行ったり来たりしている。
「やっぱ、ツイてるなッ!」
見失わないうちに防壁から飛び降り、駆け出す。人混みかき分け、目視で後ろ姿を捉えるまで近づいた。
「おい、ちょっ──」
「──ってぇな! あ、おい!」
あと少しの所で急に飛び出してきた男とぶつかった。オレも吹き飛ばされそうになったが、どうにか踏み止まる。なんだこの当たりの強さ!?
「──おいおい、ベルトに挿してた回復薬全部、割れちまったじゃねーかッ! どうしてくれんだ、オォン!」
「ハァッ!? お前からぶつかってきたんだろうが! オレは急いでんだよ!」
「ちょ、待てよ!」
腕を捕まれ、担ぎ屋の後を追えない。クソ、なんでこうなるんだ。袋から金を取り出し、腹いせにぶつかって来た男に投げつけてやった。
「ほらよ! 釣りはいらねぇぞ!」
振り返ると姿はなく、どうやら見失ったみたいだ。この事、アイツらにバレたら馬鹿にされちまうな。やっぱ大人しく露店で待つことにしよう。
◆
露店で待っていると死に戻りした二人が戻ってきた。それともう一人、見覚えの奴がいるな。
「バザック、おめぇも来たのか?」
「獅子王の奴らに殺られたって聞いたからな、念のためだ」
顔半分に髑髏の刺青をしているバザックが、PKクランのリーダーだ。詳しくは知らない。皆からそう呼ばれてるから、オレもそう呼んでるだけだ。
「偽装もしないで、出歩いていいのか?」
「教会で免罪符買えば、この通り、キレイな青色だ。まぁ金もかかるが、素顔で出歩けるのは、いいもんだぜ?」
大げさに手を広げてアピールする姿は、挑発的だ。その金も、オレたちのクランから出てるんだが、そこは持ちつ持たれつか。それをバザックが理解してるかは、怪しいもんだ。
「それにこれも完成したぜ」
取り出される不揃いな双剣、玄鉄鉱石で仕上げた刀身、鈍い光を放っている。淡く緑も見えるのは緑玄鉄も使ったためか。
品質-Aの武器だぜ!? このA品質の武器持ってるのオレくらいだ! スゲェだろ?」
戦闘をあまりしないオレからしたら、あんま共感はできねぇけど、それで戦力アップしてるなら文句はねぇさ。
「すみませーん」
表から声がする。買取の看板も下げたのに一体誰だ? 裏から顔出すとあの男、担ぎ屋の男がいた。
「お、おう。あんたか。どうしたんだい?」
「鉱石また持ってきたんですが、買取お願いできますか?」
「おう、やってるよ! 物はそこに全部だしてくれ」
男が箱から鉱石を次々取り出していく。おいおい、どうなってんだ!?
「こ、これ……全部、玄鉄鉱石か!?」
「全部持ちきれなかったので先にこれの買取お願いできます?」
「あ、あぁ。ちょっと金を裏から取ってくるから待っててくれ」
出来る限り動揺を面に出さない様に心がけたでが、たぶん無理だったと思う。裏に戻るとバザックたちも話を聞いていたらしく、声を殺しているが、表情からオレと同じ気持ちなのが伺える。
バザックに目で合図を送り、怪しまれない様すぐに表に戻る。
「これで金は足りると思うが、一様、確認してくれ」
「分かりました」
「こんなに玄鉄鉱石採れてるなんてスゲーな」
「なんか玄鉄鉱石の鉱脈に当たったらしくて、大量に採れてるみたいですよ」
金を数えながら、さらりと、とんでもない情報をバラしてるぞ。後ろからも動揺が伝わってくる。
「あれー? 今、お買い物中ですか?」
男の元に女性プレイヤーが駆け寄ってくる。知り合いだろう。女性は、杖を持っているから魔法職か。
「鉱石の買取してもらってました」
「そうなんですねー。僕の用事は全て済んだけど、一緒に戻りますか?」
「私も今終わったので、一緒に戻りますか。すみません、お休みの所、買取ありがとうございました。それでは──」
「……あぁ、また頼むよ!」
色々と聞きたい事があったが、ここで無理に聞いたら怪しまれる。それに今ならバザックもいる。
二人が去っていくと裏から、バザックたちが出てきて追跡を開始した。今回はうまくいきそうだ。オレの勘がそう告げている。
連絡があったらすぐに動けるように仲間にも連絡しておこう。
〈WORLD topic〉
PKなど行為で黄色ネームになった場合、青色ネームに戻るには衛兵の詰所に出頭するか、教会の発行する免罪符を購入する必要がある。
犯した罪の度合いにもよるが、高額を請求されるのは言うまでもない。
赤色ネームになると免罪符も効果が無いため、素直に罪を償うしか方法はない。




