No.26 ゲーマーと鉱山争奪戦(2)
《ゴブリン集落に一定のプレイヤーが訪れました》
初めて、私たち三人以外のプレイヤーをゴブリン集落に招き入れると通知が流れた。
PKたちは興奮した様に集落を見て回り、ゴブリンたちとコミュニケーションをとっている。
《依頼:ゴブリン集落の発展(γ)》
《NPCの定住1/5》
《探求者の訪問26/30》
前回の続きの依頼だろう。今回は、物ではなく、人の様だ、なかなか難しいぞ。
依頼の事は後でハルたちと相談するとしてまずは、別の問題から片付けるとしよう。
散らばったPKたちを呼び戻し、ゴブリンたちが集会所として使っている場所に向かう。いつもの小屋では流石にこの人数は入りきらない。
集会所に着くと既にハルたちが集まっていた。ゴブリンたちの代表として、ゴブと長老も参加している。
円を作るように座るとまずは、集まったメンバーの説明を簡単に済ませる。
「こちらがハルさんとゴルドさんだ。この集落を拠点に活動している。それで、こっちの人相の悪い奴らが比較的まともだと思われるPKたちです」
私の説明が気に食わなかったのか、PKたちからブーイングの嵐だ。PKは本当なんだからしょがないだろ!
「いいから! 【偽装】解除して挨拶しとけ!」
「うぃーす」
【偽装】が解除されると元の姿に戻っていく。一瞬のうちに人相が変わるのは何度見ても凄い。【偽装】の熟達が高い覆面たちなどは、腰に下げた武装も偽装されていた。
「トウヤさんも、あくどい事やってたんですねぇ……」
「へ~すっごい」
なんか誤解されたぞ。如何わしい事なんてしてないぞ。多分。PKたちからも同様の視線を感じるのだけは納得がいかない。コイツら、面白ければそれでいいんだろうな!
「まず、今回の話をする前に……契約を済ませる!」
私はインベントリから、羊皮紙の束を取り出した。PKたち全員分がここにある。
「はい。前の人は後ろの人に渡していけー」
「学校かな?」
「先生ー! 一枚足りません!」
「うるさい。誰か二枚持ってるなら、早く渡せ!」
ガヤガヤと羊皮紙が行き渡るまで無駄に時間が過ぎた。お前らがふざけてると先に進まないんだが?
「その羊皮紙は特殊な奴で、約束事を取り決めるのに使う。約束事破ったら、経験値取得が-90%になるテバフがもれなく3週間ついてくる! お前らがここの事ばらさない様に保険をかける!」
またブーイングの嵐が起きる。
「横暴だァ!」
「我々PKにも人権を!」
「俺たちの関係をそんな物で縛るなッ!」
「いいからPKさせろぉ!!!」
ワーワー騒いで好き勝手いいやがる。でも大丈夫。ちゃんと食いつく餌を準備してある。
「──新緑樹海上層部に行く方法も教えるぞ」
ピタリと動きが止まり、静けさが一瞬、再び騒ぎ始めた。
「べ、べつにそんなのに釣られた訳じゃ、ないんだからね!」
「私は最初から信じてました!」
「はやく契約しましょ?」
「オレ ケイヤク マモル」
くるっくると手のひら返し、しまくる奴らだ。そもそも契約の話でこんなに時間かかると思ってなかったよ。
羊皮紙の使い方を教えると、一瞬のうちに羊皮紙から青紫の炎が上がり、消えた。
薬草屋の老人からけっこうな金額で購入したのに、使うとなると一瞬だな。それにデバフはもっと酷くてレベルダウンもあるけど、聞かれてないから問題なし。上層の行き方も途中まで杭打ってあるし、嘘はついてないな。うん。
「さぁて、これでお前たちとも晴れて仲間になった事だし、これこらの話をしようか……」
広い集会所の一角で、身を寄せて話をする。人の性か、悪い事をする時のお決まりなのか、全員の口元が緩み、笑みを浮かべる。それに反して瞳はギラギラと鋭く、これから起こる事に備えていた。
◆
各自、役割分担を決めた後。私はゴルドの作業現場に向かうことにした。
新緑樹海手前の第12監視塔から北西に位置する場所にマトーが鉱脈を見つけていた。街道から少し離れ、馬車も通りにくいが、ここまでの道を自然に見えるように細工をして道を整備している。
巨木の根元、その隙間にそれっぽく扉を付けておる。中に入れば少し下った後に少し広めの部屋がある。そこでは忙しく、ゴブリンとPKとゴルドが共同作業していた。なんとも不思議な光景である。
「ゴルドさん。どうですか?」
「あ、どうも。順調てすよ! この”ドラシルのつるはし”よく掘れるので、予定より早く終わりますね!」
「時間余ったら、脇道や下の階層と好きに掘っちゃっていいですからね」
「任せて下さいッ!」
ゴルドの方は順調そうだな。各物置部屋を見てみるか。
小さな小部屋には掘り出された鉱石が種類別に置かれ、籠や荷車も仕舞われていた。
「はいそこ! 猫ババしない! 終わったら、好きなだけあげるからね!」
「はーい」
「……バレちゃったじゃん」
手癖が悪い。報酬はちゃんと後で渡すので、我慢してもらってはいる。まぁ今みたいに、我慢できそうにない輩だ。
最初の広めの部屋にも鉱石やテント道具なとを設置してそれっぽく見える様になってきた。ここは任せてても大丈夫だな。
時間を稼ぐため、私も動くとしよう。
第12監視塔に赴くと、さらに人が増えていた。
祝福の効果にあやかろうと今もなお、新しく人が到着して、隙間を見つけてテントを張っていく。
露店が並ぶエリアを歩くと、首からゴブリンたちお手製のネックレスを付けている、プレイヤーが目についた。顔は見覚えはない。PKの誰かだろう。見分けが付くようにと全員に装着しろと渡したやつだ。
情報収集で何人かをこの監視塔に張らせている。今のはその一人だろう。
露店市を抜けると大きな天幕や旗がひしめく場所に出る。ここは主にクランが陣取る場所だ。その中を歩き、見覚えのある、金獅子が描かれた旗を見つけた。
近づけば、白銀と黄金を基調としたフルプレートに身を包んだ人が数人立ち話をしている。
「すみません。ここは獅子王クランの天幕でしょうか?」
「ん? 誰だおま──いえ、はい。そ、そうですが、私、いえ、私たちに何かご用意ですか?」
驚かせてしまったのか、凄い動揺しながら応対してくれる。そんなに武器を大事そうに抱えなくてもいいのに。
「リバースティアさんって、今いらっしゃいますか?」
「リーダーですか!? え、えぇ。天幕に居ますが呼んできますね!」
「そこまでしなくても……私の方から伺いますので、今会えるか、確認してもらえますか?」
「は、はい!」
慌てて走り去って行く。全員でいかなくても。
数分も待たずに、走り戻ってくる。
「だ、大丈夫です! 今天幕に案内しますね……!」
「あ、はい」
フシューと荒い息が兜の隙間から漏れで出ている。その後ろを付いていくと少し遠目から、こちらの様子を伺う獅子王クランの面々が居る。目が合うと手で武器を庇う仕草が多く見られた。
「こ、ここです!」
「ありがとうございます」
天幕に入ると歓迎の声と共に、物理的に厚い抱擁を受けた。
「トウヤさん! お久しぶりですねぇ!」
硬く分厚い鎧からの抱擁はとても気持ちの良いものではないが、出来る限りの笑顔で返そう。
「リバースティアさんもお元気そうで、よかったです」
「トウヤさんの活躍聞きましたよ! 新緑樹海上層まで到達するなんて、凄いじゃないですかッ!」
「えぇ、運がよかっただけてすよ」
「ハハッハ! 運も実力のうちてすよ! それで今日は何かご用意ですか?」
「はい。今日は、獅子王クランにいいお話を持ってきました」
玄鉄鉱石を一つ取り出して、リバースティアに渡す。それを受け取るとリバースティアの目が細く、真剣な面持ちになる。
「ほぅ。これは、今話題の鉱石ですね」
「耳が早いてすね」
「ここに居ますと、色々な情報を聞きますからね。戦うだけじゃなく、情報も重要ですよ」
やっぱりクランリーダーやるだけの事はあるんだな。脳筋だと思っててごめんなさい。心の中で謝罪を済ませ、話を続ける。
「この鉱石の流通って今どうなってますか?」
「俺が聞く限りですと、入手した商人職が全部リステアに持っていって、武器や防具の生産に回してるみたいですね。鉱石を買えたとは聞いてません。俺も初めて現物見ました」
「そうですか」
売らずに武具を生産している今がチャンスだな。
「ここからは、商談なんですが、鉱山の情報いくらで買いますか?」
「……その情報は他に流してないですよね?」
「はい。今から教える鉱山は、獅子王クランだけにです」
顎に手を当て思案するリバースティア、もう一押しするとしよう。”契約の羊皮紙”を取り出して、宣言する。
「今から教える鉱山は獅子王クランにだけ公開し、他に秘匿を約束します」
羊皮紙は燃えてなくなり、契約が成立した。
こちらの覚悟が伝わったのか、リバースティアは手を叩き、情報の購入を決めてくれた。
さぁまだまだヤル事が盛りだくさんだ。商談を済ませ、早速鉱山に案内しよう。
〈WORLD topic〉
契約の羊皮紙には二種類存在している。一つは教会で買う事のできる契約の羊皮紙。もう一つは盗賊ギルドなどが使用する”契約の羊皮紙”だ。
表の契約の羊皮紙よりも、高額な裏の契約の羊皮紙は、破られた際のデバフ効果は、比較にならないほど強力だ。そのため、契約の信頼性も格段に高い。




