No.25 ゲーマーと鉱山争奪戦(1)
「これで最後になります」
「あいよ。精算するから、ちょっと待ってくれ」
あれから、三度の往復を繰り返し、集落から鉱石の搬出を終えた。買い手は、最初の商人職の男で固定して買い取ってもらった。
「はいよ、今回分の金ね。ところで、もう鉱石は無いのかい?」
「えぇ、もうありませんよ。雇い主も当分は採掘休むと言ってましたし」
「……そうかい」
男は周囲を確認すると、指を動かして近寄れと促してくる。顔を近づけるとこの雑多な音の中、私にしか聞きとれないほど小さな声で話始めた。
「こっちも良い思いさせてもらったから忠告しとくが、あんたの運んでくる鉱石、いや鉱山狙ってる輩がいるから注意しなよ……」
「……鉱山ですか?」
「出所不明で、鉄よりも良い材質の鉱石出てきたら、攻略組だって欲しがるよ。それに上位素材で作った装備をいち早く揃えるだけで、アドバンテージになる。面倒に巻き込まれる前に情報を売って金に変えるのをオススメするよ。公開して、皆の共有財産にしちまえばいいのさ」
男の言っている事は確かにそうなんだが、鉱山の場所がなぁ……。ゴブたちが襲われない保証もないし、現状難しいよな。男はなんならと、情報を扱うクランの紹介もしてくれた。
「情報ありがとうございます。私の雇い主にもその旨伝えておきます」
「なるべく、早く決断した方がいいよ。噂じゃ、商人職クランがPKクランを雇ったと聞いたし」
「えッ! そうなんですか!?」
「オレは此処にいるからいつでも言ってくれ。すぐにクランに情報流すからよ」
「ありがとうございます! 早速帰って伝えます!」
「おう、気をつけてなッ!」
◆
「ってな事がありましてね」
全員揃ったのでゴブ小屋にて、これまで起きた事を話た。私が話終えるとハルが挙手する。
「ハルさん、とうぞ」
「はーい。まず、その商人職の男、怪しくないですか? なんか親切すぎるっていうか、ちょっと引っ掛かりますね」
「私もそう思います」
ハルの意見にゴルドも賛成のみたいだ。私も鉱石運搬往に尾行されたので、その意見には賛成だ。追跡スキルを警戒して途中から巨木に登って移動した。ミミの脚でぶら下がって、望遠鏡で様子を見てたら数人の人影は確認できたし、追跡スキルだろか。
「私も尾行されましたが、鉱石を売ってすぐなので、怪しいと思います。商人職の男にしか話をしてませんし」
「商人職ってのは信用できん、奴らばかりだ!」
「ハルさん、私からも一ついいですか?」
私が手を上げ、発言の許可を得ると、ゴルドの横に座る人物を見る。
「このドワーフは誰ですか?」
この小屋に入ってからずっとゴルドの横に座っていたドワーフ。会話にも普通に参加してくるので、なんか言いにくかった。
「ワシはタルシュ氏族ガナードの子、マトーだ。よろしくの探求者」
「これはご丁寧に、私はトウヤです。よろしくお願いします」
それで誰なんだコイツは……。
「マトーは別のゴブリン集団と行動を共にしていたみたいです。鉱脈を見つけたのもマトーなんですよ」
「うむ。ワシが見つけたぞ!」
ゴブリンと行動を共にするマトーは何か訳ありだろうか? それよりも鉱脈を見つけたと言ったか?
「マトーさんは鉱脈見つける事できるんですか?」
「さん付けは、よしてくれ。背中がむず痒くなる」
「分かりました、マトー、他に鉱脈のある場所は分かりますか?」
私の言葉に鼻で笑い返してマトーは言う。
「ワシを誰だと思っとる。タルシュ氏族ガナードの子だぞ? ゴブリンたちと放浪してる間も、ちゃんと書き留めてあるわい!」
マトーは懐から羊皮紙、モンスターの皮を鞣して書いた地図の様な物を取り出して、テーブルに置く。
地図の内容はよく分からないが、街道の様な太い道が伸びて鉱脈らしい所には印が付いている。
「まだこんなに掘れる場所あるんですね……」
「ゴルド、お主は真にドワーフよの」
それにしてもマトーがいい情報を持っていてくれてよかった。ゴブリン集落以外にも鉱脈があるなら問題なく済む。ハルも私と同じ考えに至った様でこちらと目が合った。
「ハルさん」
「わかってますよ。罠に嵌めて僕たちを甘く見た事を、後悔させてやりましょう!」
うーん、この……。
このゲームってこんなに殺るか殺られるかの殺伐とした世界だったかな?
ゴルドはまだ状況をよく理解してないけど、マトーはハルと同じでヤル気満々だな。
「ハルさん……穏便に解決もできますよ?」
「トウヤさん。そんな事、言ってたらダメですよ? 相手がもう動いてるなら、僕たちが出来ることは徹底的に叩き潰して、もう関わり合いになりたくないと思わせる事です」
なんて澄んだ瞳でこちらを見るんだろう。その瞳の奥にある狂気が垣間見れなければステキだろうに……。ハルの決意はよく分かった。私も覚悟を決めよう。
「ヤルんですね」
「殺りますよ!」
「何をやるんですか?」
ヤるからにはきっちりとやらないといけない。そして周りもできる限り巻き込んでやろう。
仮想現実なゲームだからだろうか。穏便に波を立てずに解決法できればいいと思っていたが、これはゲームだ。今までのオンラインゲームなら、面白い可笑しく事をかき混ぜて騒いでいたではないか。
だってその方が楽しいんだから。
「ハルさん、ゴルドさん。ヤルからには楽しくやりますよ!」
私の言葉に二人は顔を見合せ、大いに笑った。
「これから忙しくなるぞ」
◆
一度、城郭都市リステアに戻り、情報を集めた。
まずは、男の言っていた情報クランついてたが、情報を集め買い取っているのは本当だった。そこそこの知名度もあり、通りで話せば誰かしらと連絡がとれるほどだ。
まぁそれほあくまでも、表での話だ。
「ソイツらですか? いい噂聞かないッスね」
「PKクランを囲って色々やってるみたいですよ」
やっぱりか。裏事情には、裏の人に聞くに限る。覆面ABは、私の疑問にスラスラと答えてくれるので助かる。
「クラン構成とか分かるか?」
「色々ですね。戦闘職からサポート職と幅は広いみたいてすよ」
「商人職はどうだ?」
「けっこうな数は所属してるみたいですよ。末端まで、PKとつるんでるの知ってるかは知りませんが」
「そうか……」
「なんかまた楽しい事やるんですか? 前回は教えてもらえなかったけど、今回は教えて下さいよ!」
「今回は私の方からも誘おうと思ってたし」
私の言葉に少し驚いたのか、覆面ABは目を丸くする。そして、続いて出てくる言葉に二人は嬉しそうに叫んだ。
「獅子王クランの時みたいに好きにしていいぞ」
「マジでッ!?」
「やったぜ! 色々と試したいスキルとかあるんだよねぇ!」
「今回は他の連中も誘うぞ」
覆面たちと他に個人取引のある、PKたちも誘って大いに盛り上げてもらおう。私と取引するのは大半が、個人か少人数のPKたちだ。面識のない奴らよりは信用できるだろう。ってか獅子王の一件から面白い事やるならオレも誘ってくれと言う連中ばかりだ。
覆面たちが、獅子王クランリーダーを仕留めたが羨ましかったらしい。覆面たちがよくその話をしていた。
「一時間後に東門に集合で」
「了解!」
「うぃっす」
さぁ色々と用事を済ませないとな。モニカの所や薬草屋、出来ればグレートヘルム団のぷりんたちと連絡が付けばいいが、まぁ運次第だ。
路地を抜け通りに出ると人混みをかき分け、進んでいく。
一時間後。用事を済ませ、東門に向かうと、こちらに気づいた一団の一人が手を振って私を出迎えてくれた。
「皆、揃うの早いな」
「全員、ワクワクしてますからね!」
全員【偽装】しているので誰だか分からん。そもそも名前が分からない。今のは多分覆面Aだな。
新緑樹海まで、徒歩かと思っていたが、召喚師が居たようで、馬を召喚して荷馬車を引いてくれた。
総勢二十三名のPKたちと荷馬車で揺られ、新緑樹海を目指していく。
〈WORLD topic〉
クラン同士による同盟機能は相互援助から、金銭を
要求するなど一方的な契約も可能である。
少数の傭兵クランなどが、中小クランの小競り合いに介入して報酬を獲るなど、ロールプレイに拘るプレイヤーも多い。




