No.24 ゲーマーとエリアボス
交差する枝の道を進み、上への道を探す。さらに上層に向かう道は枝が捻れ、絡まり、螺旋階段の形になっていた。また木登りをしなくて助かった。
【獣道】を発動して探れば足跡の痕跡は少ない。よく考えると飛行系のモンスターな対しては効果がないスキルか。油断は出来ないな。
案の定、虫の羽音が近づいてくる。近くの葉の裏に身を潜め様子を伺う。葉一枚でも人を覆い隠すには十分な大きさだ。
羽音から通過したのを見計らって、後方からこぶし大の石炭を握りしめ、全力で投擲する。
棒手裏剣とは違い、重さもある石炭が、ソルブレ・ビーに命中する。【投擲】の補正もかかり、難なく当てる事に成功した。
「ギッ!」
体半身をえぐり飛ばす。地面に叩き落とされ、身動きがとれずに顎を鳴らしている。棍棒で止めを刺す前にミミの脚が全て突き刺さり、原形を無くした無残な姿になる。
「これ剥ぎ取り出来るのか? ちょっとは加減してくれ……」
背中で揺れるのは“了解した”と言うことだと思っておこう。残骸に剥ぎ取りナイフを刺すと問題なく剥ぎ取れたが、品質-Eが低い。通常であれば品質C前後が大半なのだが、破損状況にも左右されるのか。
棍棒撲殺がメインだったので気にしていなかったが、ミミが戦闘に加わる事になるなら、少しは配慮しよう。まぁ、数の暴力が多いので、出来うる限りでだ。
《ミミちゃんがLv13になりました》
戦闘を何度か繰り返していると、ミミのレベルが上がった。そもそもミミのレベルは私よりも高い。
私は【担ぎ屋Lv10】【戦士Lv6】になる。ようやくメイン職が二桁台になった所なのに、ミミとの差が酷い。
戦闘職はやはり、戦闘しないとレベルアップが遅い。有用のスキルも多いのでここらてレベル上げでもすべきだろうか。
ちなみにゴルドに職を聞いたら【鉱夫】×【鉱夫】だった。同じ職の二重取りはスキル幅が狭くなる分、スキル効果が1.2倍になるらしい。どんだけ掘る事に特化してるんだ。
「ムムっ!」
スキル【獣道】に反応が出る。足跡、というよりは這いずり跡だろうか、枝の上一面に反応が出ている。色の濃さからもけっこう近い。
警戒して進むと急に痕跡が消える。
「上かっ!?」
頭上を警戒するが、何もない。後退りながら、ゆっくりとその場を離れようとした。
「むぉ!」
急にミミの脚が動き、跳び跳ね、上の枝にぶら下がる。先程まで自分の居た場所には大蛇の口があり、回避しなければ、今頃は腹の中だ。
「こいつ何処から出てきた!?」
その疑問はすぐに解消された。ぬるりと音もなく、這い出て来るは、枝の真下からだ。巨木の枝は大きく、道だと錯覚するが、ここは木の上だ。道の下にだって隠れられる。通りで【獣道】にも反応しないわけだ。
《大樹を這うもの(片)》名前からしてエリアボスだろう。ちょっと名前が違う所が気になる。
大蛇の全貌が見えたが少し様子がおかしい。体の半分がちぎられたみたいに破損している。それでも問題なく動けているのだから凄い生命力だ。HPバー最大値も五割ほど減っていた。
「これならやれるか!?」
体を半分失っているせいか動きが遅い。距離を保ちつつ、暗器でHPを削る。残り一割、パターンに入ったかと気が緩んだその時、大蛇の口が開き、白い煙を吹き掛けられる。
泡立て口を手で塞ぎ、ミミの脚で後方に飛んで煙か距離を取った。腰の小鞄から解毒薬を取りだそうとするが、手先がもつれ、うまく鞄の留め具を外せない。
大蛇が近づいてくるので、回避をミミに丸投げする。
視界も歪み、大蛇が二匹に見えてきた。
ステータスを確認すると【泥酔】のデバフがついていた。しかも、その横に何かのカウントダウンまで始まっている。
残り時間、五分。
よく分からないが、良くないのは分かる。
今は回避を優先して、両手で腰の小鞄から気付け薬を取り出して飲むが、効果はない。あきらめて攻撃に移ろうとするが、また大蛇が煙を吐いた。
回避が間に合わず、直撃を浮けると、カウントが一気に進む。残り一分を切った。
逃げる事に専念して、その場を離れるが、視界がどんどん歪み、瞼も下がってくる。心地よさもあるのが悔しい。
ミミにゴブたちの所まで逃げる様に指示を終えた所で、意識が途絶えた。
◆
頭の中で暴れまわる鈍痛で目を覚ます。だるい。胸焼けがする。完全に二日酔いです。未成年もプレイしてそうなのに二日酔いのデバフはありなのか?
だるい体を起こすと、横にいたミミが器用に跳び跳ねすり寄ってくる。箱の角が痛い。
ステータスを確認すると【泥酔】が【二日酔い】に変わり、持続時間が6時間というデバフに変わっていた。なんなんだこのゲーム。
あの状況からここまで運んでくれたミミにら感謝しないといかんな。
「ありがとな、ミミちゃん」
カタカタと震えるて、足を甘噛みしてくるけど、止めてほしい。襲われてる様にしか見えない。扉を開けて様子を見に来たゴブが震えてるぞ。
けっこうな時間が経っていたらしく昼過ぎだ。現実だと日付が変わってしまっているな。ハルの姿も見られない。
ゴブに案内され、鉱石置場所に連れて行ってもらった。ログアウト前に少しでも、鉱石を運んでおこう。
雨よけの屋根だけがある納屋には、無造作に鉱石が山積みに置かれている。空きのインベントリに収納したところで全然足らない。
ここでミミの出番だ。ミミのスキル【収納】が役に立つ。
「ミミちゃん。鉱石をできる限り収納頼む」
お願いすると、蓋を大きく開き、鉱石を食べ始めた。舌で上手に巻き取り飲み込んでいく。数が多く面倒になったのか、噛みついて飲み込み始めた。総数の四割ほど飲み込んだミミの【収納】は驚異的な大きさだ。
私も背嚢を仕舞い、インベントリから鉱石運搬用の鉄籠を取り出して鉱石を入れていく。ミミの居場所がないので最後にミミを鉄籠に乗せておしまいだ。
器用に蓋から脚を少し出して鉄籠絡ませて固定している。
頭痛が酷いが、近くの監視塔までならそう時間もかからないだろう。あわよくば何か二日酔いに効く薬が売ってる事を祈って歩き出す。
新緑樹海手前の第12監視塔。森の中にぽっかりと空いた空間に建っている。森を抜けて、監視塔を目視で確認する。
「なんじゃこりゃ?」
監視塔に入りきらないほどプレイヤーがいた。周囲にテントなどを建て、鉱山以上の賑わいだ。軽い集落になった監視塔周辺を見て歩き。商人職の一団が店を開いている一角を見つけた。
商人職の一人に話聞く。
「こんちには、この騒ぎどうしたんですか?」
「あんた、知らないでここに来たのかい? 数時間前に、ワールドアナウンスがあったろ? “トウヤ”ってプレイヤーが新しいエリア見つけたおかげで、プレイヤーがこぞって移動してきたってわけさ! おまけに祝福ってバフが付くからレベル上げにもいいし、ドロップ率が良くなるからオレたち商人職もウハウハよ!」
「な、なるほど……」
祝福バフもあってこの賑わいか。なら鉱石を売り払うのにちょうどいいとも言えるな。
「それでなんですが、鉱石の買取ってしてもらえますか?」
「買取かい? どういう物だい」
鉄籠を下ろして商人に見せる。
商人職は品定めをしていくと一つの鉱石を拾い上げ、声を上げた。
「おい、あんた! この鉱石何処で採ってきた!?」
「新緑樹海ですが?」
「この玄鉄鉱石ってまだ市場に出回ってないアイテムだぞ!? しかも品質+Bとたけぇじゃねーか!」
捲し立てる様に商人職は話していく。
「鉄鉱石もあるが玄鉄鉱石もけっこうな数あるな! これ何処で手に入れたんだ!?」
「私はこの鉱石の運搬と売却を頼まれただけなので、採掘場所まではちょっと……」
ゴブリン集落を教えるわけにもいかないのて誤魔化しておこう。こちらの言葉に商人職少し考えこんだ。
「……まーそうならしょうがない。とりあえずオレが買い取るよ! いや買い取らせてくれ! これで全部かい!」
「それは助かります。まだ結構な数ありますよ?」
ミミを取り出し、蓋を開ける。ミミはスキル【擬態】で箱に化けている。牙も舌も蜘蛛みたいな脚も飛び出さない箱だ。【収納】があるので魔法の箱だろうか。
奥底が見えない箱から次々と鉱石を取り出す。
「おいおい……まだ出てくるのかよ!? こりゃ、手持ちの金じゃねらねぇな。ちょっと待っててくれよ! よその店に行かないで、ここで待っててくれっ!」
慌てて何処かに走って行ってしまった。暇なので鉱石の仕分けでもして待つとする。
「──よ、よかった。まだ居てくれたな!」
息を切らして戻ってきた商人職腕には、小袋が何個も抱えられていた。
数も多いので、手伝いながら、精算を進める。中には緑玄鉄鉱石も少数含まれていて、商人職を大変、悩ませた。
「あんた、またここに売りにくるかい?」
「はい。まだ在庫あるので運ぶ予定です」
「ならまたオレのところで売ってくれや。次はもっと良い値で買えるかもしれねぇぜ!」
「もし、見掛けたら立ち寄る様にします」
「おう! かならず頼むぜ! かならずな!」
金銭袋をインベントリに収納して、その場を離れる。最後まで叫んでいた商人職から一刻も早く離れるために。商人職の目が獲物を見る目に変わっていて怖いんですもの。
その後、出店を見て回ったが【二日酔い】に効きそうな薬は売っていなかった。今度、モニカに作成依頼しよう。そう心に決め、痛む頭を押さながらゴブリン集落へと帰った。
〈WORLD topic〉
未確認のアイテムが出回ると、その入手場所の情報も高く売れる。モンスターの情報よりも、採取アイテムの場所の情報のが価値が高い。
情報を秘匿していると、大概は、ろくでもない事に巻き込まれる。人の口には戸が立てれないのだから。




