No.23 ゲーマーと新緑樹海上層
そうだ。木登りをしよう。
思い立ったが吉日、ゴルドに荷物を届けるついでに、気になっていた巨木の上に行こう。
久々に訪れたゴブリン集落は凄い発展を遂げていた。ゴブリンたちが、こちらに気付くとゴンドラが上から下りてきた。ゴンドラの底板には前回押収した獅子王クランが使っていた大盾が使われていて、ゴブリンの匠が丹精込めて編んだ蔦と盾が融合したステキなゴンドラに様変わりしている。
そのゴンドラに乗り込むと凄い勢いで上昇していく。蔦の網目も荒く、安全性なんて全く配慮していないのでけっこう怖い。
「ゴブッ!」
「ゴブなんか大きくなったか?」
集落に着くとゴブがさっそくお出迎えしてくれた。なんだか、一回りほど大きい気もする。名前を確認しても『グリーンライト・ゴブリン』と変化はないので謎だ。
「まぁなんだ。兜もちょうどいい大きさになったな」
「ゴブゴブ!」
ゆるゆるだった兜も今や、ガッチリと噛み合い、強面ゴブリンだ。誉められて嬉しかったのか、すっごい笑顔になるけど、牙やら元々の顔のせいか、獰猛な笑みだ。
「あれ? トウヤさんいつ来たんですか?」
「今しがた到着したところです。ゴンドラのおかけで長い階段を登らずにすみましたよ」
「あれ凄いですよね。ゴブたち、色んな物作るんですよ」
そういえば、最初は興味を持たなかった建築用の資材や滑車なども使われている。ゴンドラの昇降機にも幾つもの滑車を経由して巻き取り機に繋がっている。
ゴブリンの知識どっから涌き出てるんだ?
「そうだ、ハルさん。ゴルドさんどこにいますか? 渡す荷物あるんですが?」
「ゴルドさんならずっと地下にいる、はずかと。数日見てないので、確実とは言えませんが……」
いつも通りのゴルドさんで安心した。
ハルの案内でゴルドのところに向かうことになった。巨木の幹内部、地上まで伸びる螺旋階段あった場所の中央には、地下坑道直行の昇降機が備え付けられていた。
「ゴブ、お願いね」
「ゴブッ!」
ハルの頼みに胸を張って答えるゴブ。昇降機を動かして私たちを地下まで下ろしてくれた。
西の鉱山と違い、新緑樹海の鉱山は岩壁が淡く発光しているため、ランタンなしでもどうにか活動できる。
地下には複数のゴブリンも採掘に参加しており、時折すれ違う。鉱石の搬出や、堀終わった跡地を利用してキノコ栽培まで手掛けている。
「なんでもやるゴブリンですね……」
「あの茸けっこう美味しいんですよ。MP回復効果もあるので薬品作りに需要あると思います」
面白そうに笑いながら説明してくれるハル。その後ろ姿を見ながら数十分は歩いただろうか。すれ違うゴブリンの数も増え、忙しく鉱石を運んでいるが、どのゴブリンも疲れた顔をしている。
「やっといましたね……ゴルドさーん!!」
ハルが大声で叫ぶと、ゴルドはちょうど壊れたつるはしをその辺に投げ捨てていた。それを見たハルは、急いで走り出す。
「だから壊れたつるはしは、その辺に捨てずに持っていて下さい! 後で修理したりできるんですからっ!」
「すみません……」
「ほんと、頼みますよ!」
「あい……」
うん。仲良くやっててよかった。
一時はどうなる事かと心配したけど元気そうで何より。
「ゴルドさん。頼まれた物できましたよ」
「あ、トウヤさんこっちに来てたんですね」
「今着いたところです。それでこれが頼まれてた《ドラシルのつるはし》です」
「おおっ!? ありがとうございます!」
「あと代えのヘッドと楔あるので、自分で直せるそうですよ」
一通りの説明を終えると地上に戻る事になった。ゴルドも強制連行だ。このままではゴブリンたちが過労で倒れてしまうとハルが判断した。
何か言いたそうにしていたゴルドも、ハルから何かを悟った様で大人しくなり、とぼとぼと地上へと向かう。
◆
「トウヤさん。ここで採れた鉱石類なんですが、リステアまで、運搬お願いできますか?」
「できなくはないですが、鉱石となると大量に運ぶなら、荷馬車の方がいいですよ。流石にこの距離を荷馬車なしでは……」
「ですって! ゴルドさん掘るの少し禁止です!」
「はいっ!? なんでっ!」
「鉱石置き場がもう一杯なんですよっ!」
現在、ゴブ小屋で今後の事について話し合っていた。主な問題は、採掘にされた鉱石類の扱いだ。
ゴブリンたちには鍛造技術がないため、利用した所で割れた鉱石を使うとなど原始的な事に限定される。となれば、需要のある場所に運ぶのが鉄則だが、数も多く、新緑樹海で荷馬車が通れる箇所は限定されるし、この集落自体が僻地にあるため、運搬効率が悪い。
「なら、新緑樹海手前の監視塔に運んで、集積後に商人職に売りますか。ここに来ると中で寄りましたけど、人のは出入りも多そうでしたよ」
「うーん。それしかないですかね?」
「とりあえず、他に解決法を思い付くまでは、少しでも運んで売っておきますね」
「すみません、よろしくお願いしますね。あと、未発見の素材ありましたら、買い付けお願いします!」
「それなら来る前にちゃんと買っときましたよ」
「ヒャーっ! ありがとうございます!」
跳び跳ねて喜ぶハルに素材を渡して小屋を出る。
鉱石を運ぶ前にまず、此処に来た目的の一つをやらなければ。
集落を支える巨木を見上げると、遥か上空にまで伸びる巨木の幹が眼前にある。この上からゴブが落ちてきたのなら、何かしらあるんだろう。それを見に行こう、確かめよう。
余分な荷物を背嚢から出して、幹に杭を差し込んで足場を作り登っていく。杭は問題なく樹皮に突き刺さる。こん棒で数回叩き、体重をかけても問題ない位には打ち込む。それを繰り返すと順調に進んでいった。
「大分進んだが……これ杭足りるか?」
用意した杭を半分使いきったが、上を見るとまだ頂上には着きそうにない。手も痺れてくるし、SPも半分切っている。
ここら辺でビバークポイントを作って休憩を考えていると羽音が後方から聞こえてきた。しかも昆虫の羽音だ。
「ミミちゃん! 頼むぞ!」
背嚢の外ポケットが勢いよく開くとそこから無数の蜘蛛の脚が飛び出た。脚は樹皮に深々と突き刺さり、容易く体を浮かせる。ぐるりと体が反転して羽音の正体と対峙する。
『ソルブレ・ビー』人と同等のスズメバチが眼前まで迫っていた。腹部を直角に曲げて、針を突き出し突っ込んでくる。暗器を両手で四発放つも止まらない。
「ミミちゃん! カバー!」
声に万能して脚が数本ソルブレ・ビーに突き刺さり、そのまま、左右に引き裂いた。バラバラになりながらも、顎の牙をガチガチと鳴らしながら落ちていく。
「ふぅ……ナイスカバー。ミミちゃん」
背嚢がガタガタ揺れる。モニカに“ミミちゃん”と名前を付けられてから、ちゃん付けして呼ばないと言う事を聞いてくれない。ミミックには性別があるんだろうか? ステータスでは確認できない。
「最初からこれで行けばよかったな」
アメリカンコミックのヴィランの様に背中から出ている脚が動き、どんどん上に向かっていく。最初の苦労が嘘みたいだ。
ミミを仲間にしてから急遽オーダーメイドの背嚢を規格変更した。背嚢の底の方にミミ専用の置場所と外ポケットから脚を出せるように改造してもらった。急な変更にも対応してくれた作成職にほんと、頭が上がりません。
その甲斐あって、こうしてミミの脚が外に出せたのだから良かった。
迫るモンスターはミミが八つ裂きにしてくれるので、私は宙ぶらりんのまま楽に登頂出来そうだ。
頂上、巨木同士の枝と葉が絡み合い、枝が道になり、葉が壁となり視界を狭める。まるで迷宮の様だ。
この上、空を拝むには、登って行くのは難しそうだ。上に向かうには、枝を進むしかない。
《プレイヤー“トウヤ”が新緑樹海の上層に初到達しました》
なんか出ましたよ? 初到達は嬉しいが、名前が、全員プレイヤーに知らされるのは、恥ずかしくない?
《初到達が確認されたため、新緑樹海全体が祝福されます。並びにエリアボス“大樹を這うもの”が解放されました》
まだ何かある。祝福? エリアボス? 新要素盛りだくさんだな。ってことは、此処はダンジョンで攻略できるという事か。ちょっと様子見に来ただけなのに困ったぞ。
でもちょっとだけ様子を見に行こう。
〈WORLD topic〉
祝福されたエリア内では、取得後経験値の増加、レア素材のドロップ率増加など、プレイヤーに優位な効果が付与される。効果有効期限は発生から十日間である。




