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No.22 アヤノとゲーマー

「一条先生、資料ここに置いときますね」

「うん、ありがとうねー」


 看護士である竹中アヤノは、仕事の合間を縫ってVRギア医療共同研究の責任者である一条の手伝いをしていた。手伝いといっても資料や患者のカルテを準備するなど簡単な仕事だ。


「そういえば先生」

「ん? どうかしたかい?」

「私、VRギア当たりました」

「……は?」


 アヤノの言葉に、一条は手に持っていたポールベンを落とした。数十秒フリーズした後、平静を装ってはいるが、ペンを拾う手が動揺からか震えている。


「へ、へー凄いね。ちなみにだけど応募回数どれくらいで当たった?」

「2回目ですね。けっこう簡単あたるんで、びっくりしました」

「そーへー。す、凄いねー。私なんかもう数えられないくらいやってるのに……」


 一条がぶつぶつと何か言いながら、机に伏せてしまった。たまにこうなる事がある。その対処法は心得ていた、アヤノは静かに部屋を出て立ち去る。それが一番だとここ最近学んでいた。


 廊下を歩くアヤノの口角緩み、笑みがこぼれてしまう。窓ガラスに映る自分の顔を確認して気を引き締め、廊下を歩いて行った。



 一瞬、生まれてから経験したことのない感覚が、全身を巡る。気付くと自室から不思議の空間にいた。

 これが、仮想空間というのもなのでしょうね。一条先生がよく話していました。これからキャラクタークリエイトが始まるんですね。

 

 前もって先生に色々と聞いていて、正解でした。こんな面倒な事に時間を使っていられません。

 

「職業はこれでいいかな。容姿ですか……先生は現実と同じは避けた方がいいと言っていましたね。でも違い過ぎると彼に気づいてもらえないかも……」


 髪型と髪色に変化を加えるだけでしておきましょう。改めて自分の容姿を客観的に見ると不思議な感じがしますね。


「最後は名前ですね。“アヤ”と」


『2ndWORLDをお楽しみ下さい』


 アナウンスが終わると、先ほどと同じ感覚が全身を駆け巡り、視界が一転した。

 

 瞼を上げれば人混みの中に放り出されてしました。雑多な音、陽光が眩しく輝き、一面青空です。これが本当にゲームだなんて信じられません。早く先生にも体験してほしいでね。


「すみません、初心者の方ですか?」


 声のする方を向けば、男の人、これは鎧でしょうか? 西洋の鎧、弟が好きそうな見た目をしていますね。


「はい。そうですが、何か?」

「自分、“銀翼旅団”の者なんですが、よかったらクランに入って見ませんか? 体験でクランに入る事もできますよ。新規の方にクランでのサポートなどもしてまして──」

「ナンパですか?」

「な……えッ!?」


 酷く驚いた顔をしていますね? 饒舌さもなくなってしましました。顔が赤くなってきましたが大丈夫でしょうか?


「ちが、ナンパじゃないですっ!」

「そうですか。失礼しました。私、忙しいのでこれで失礼します」


 初対面の方に酷い事を言ってしまった様です。“クラン”について明日にでも先生に聞いて見ましょう。


「それよりまずは、プレイヤー検索ですね。名前を入力して……」


《プレイヤー“トウヤ”が新緑樹海の上層に初到達しました》

《初到達が確認されたため、新緑樹海全体が祝福されます。並びにエリアボス“大樹を這う者”が解放されました》


 ワールドアナウンスが流れると周囲がざわめき立つ。

 今“トウヤ”と言いましたよね!? 彼、トウヤさんの事ですよね! カルテから情報を丸暗記したので、羽柴トウヤさんで間違いないはずです! 


 トウヤさんが何かを成し遂げたから周りがこんなにざわめいているんですね。少し情報収集をしなくてはいけませんね。


「すみません。今のアナウンスで、お聞きしたいのですが……」

「……その格好初心者の人? なんだい?」

「先ほどのアナウンスにありました。新緑樹海という所に行きたいのですが、場所を教えてもらえませんか?」

「場所ならこの都市からずっと東の方にある巨木が密集してるエリアだけど……君のレベルだと、今すぐってのは難しいかな。まずは西の方でレベル上げをオススメするよ」

「親切にありがとうございます」

「ゲームに慣れるまてが大変だから頑張ってねー」


 すぐに会えないのはまどろっこしいですが、焦ってもしょうがないですよね。弟にも連絡して少し手伝ってもらいましょう。




「ピギャッ!」


 モンスターを叩き倒すのはちょっと爽快かもしれません。反撃されて痛みも伴いますが、痛みあってのこの爽快でしょうね。ほらまた出てきました。


「キュ!」


 このウサギさん動きは早いですが、直線的に動きすぎですね。こうやってタイミングを合わせてナイフを振れば──


「ギュ!」


 まだ動けるのですね。可哀想なので早く倒して上げないと。動きの鈍くなったウサギさんに近づいてナイフを突き立てると、HPが無くなり動かなくりました。


『神官Lv2になりました』


 やっとレベルが上がりましたね。私のHPも減っているので《ヒール》をかけて回復しておきましょう。

 回復魔法は本当に便利ですね。現実でも簡単に傷が癒せるなら、どれほどいいか……。


 ウサギさんの数減ったと思ったら、私の様に初心者の方がけっこう居ますね。あの方は戦士でしょうか。剣を持って戦ってますが、ナイフよりも使いやすそうですね。

 そういえば先生が、VRギアのゲームが出てから剣道や格闘術を習う人が増えたって言ってました。私も何かやった方がいいんでしょうか? 確か、先生はスポーツチャンバラを始めたと言ってましたね。今度色々と聞いてみしょう。


「ねーちゃん?」


 振る向くと見覚えのない人が居ますが、声と話し方からして弟みたいね。


「……マモル?」

「ちょ、本名で呼ぶなよ! ってか見た目が現実とまんまじゃん! よくないって、そういうの!」

「大丈夫ですよ。髪型も色も違うでしょ?」

「そうかよ。てかねーちゃんが、ゲームやるなんて珍しいな」

「ちょっと知り合いがやってるからね。私も始めたの」

「なら、知り合い人とやればいいじゃんか」

「ダメよ! 強くならないと行けない所に居るみたいで……」


 あと心の準備とか、出会い方も大事だし……もしも現実であって話す事にになったらお誘いできる様も……。


「なんでもいいけどさ、俺になんの用事? 俺も友達と遊ぶ予定あるからさ、早くしてくれよ」

「私調べたのよ。対人戦ってのをやると早くレベルアップするんでしょ? 今からやるわよ!」

「は? いや、だってねーちゃん今、初心者保護期間だろ!?」

「私の方からやれば、破棄できるじゃない!」

「でもさ! それってやられた方の経験値減るんだぜ!?」


 なんでしょうねこの子。時間が惜しいというのに。


「わかった。対人戦、本気でいいのでやりましょう」

「マジで言ってんの?」

「マジよ!」


 なんかニヤニヤしてなめくさっていやがりますね。この愚弟は……、

 いいでしょう。姉の本気というのを見せてやりますよ。


「じゃあやるわよ」


 愚弟を殴ると警告が出ますね。


《初心者保護期間中です。攻撃を与えると破棄されます!!!》


 知ってますよ。もう一度、愚弟を殴るとちゃんと無効化されたみたいね。


「ほら、やるわよ」

「おいおい、死んでも恨みっこなしだぜ」


 お互いに少し距離を取ってから向かい合います。すると早速動きましたね。


「そらぁっ!!」

「……!!!」


 思ったより速く動いたので攻撃を受けましたが、一撃でこれだけHP減りますか。《ヒール》で回復します。


「大丈夫かよ~?」

「いいから来なさい……」


 本当にいい性格してますね。誰に似たんでしょか。


「んじゃ、行くぜ!」


 また同じ動きで動きますか。ちょっと私をなめすぎでよ。


「うぉっ!」


 ほら。投げたナイフに気を取られるから、私が半歩後ろに体をずらしたのに気付かず、攻撃が届かないんですよ。

 無理に攻撃を当て様とするから、腕も伸びきる。次の動作に移るのにも時間かかりますね。


「グゥッ!」


 伸びた腕の手首を掴みこちらに引き寄せると簡単に前のめりにバランスを崩す。手首を掴んだまま横にずれ、見えた背中を地面に押せば簡単に倒れ伏す。

 そのまま背中を足で押さえつけ、伸びた腕の手首と二の腕を掴んで関節の可動域外にちょっと捻れば……!


「いぎッ! す、ストップ。マジで!」

「凄いわね。ちゃんと人体の構造も再現されてるわ!」

「人の話し合い聞けって!」

「《ヒール》これで大丈夫でしょ」

「うぅ……あんがとねィッ!!」


 今度は別方向にゆっくりも捩ってみます。この方向からだとあと少しで筋が切れて……あ、今切れましたね。


「《ヒール》」

「本当にもうやめてッ!?」

「うるさい愚弟ですね……」


 姉に生意気な態度をとるからこうなるんです。

 それに自分以外のプレイヤーに魔法使うと、熟練度というのが早く溜まって魔法が強くなるそうだし、MPが無くなるまでは付き合ってもらいますからね!




〈WORLD topic〉

 対人戦といえばPKが主流であった。

 PKではなくても対人がしたいと要望が多く寄せられ、一対一の決闘モードが実装された。

 決闘モードでは、PKと違い、勝敗に関わらず、互いに経験値を得られる。一日に得られる経験値には上限があるが、プレイヤーからは上々の評価を得た。


 決闘モードが実装されたのは、アヤノのが2ndWORLDを始めて少し後の事である。

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