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No.2 ゲーマーとリハビリ

『リハビリスターターキットを確認──認証完了しました』


 システム音声がそう告げると、病院で見た書類と同じ様な文面がトウヤの目の前に浮かび上がる。それを一番下までスクロールして同意ボタンを押した。

 次はキャラクタークリエイトだ。

種族(レイス)】に関しては長所短所がない【人間(ヒューマン)】を選択する。

職業(ジョブ)】は事前情報で戦士にするのは決めたいたので悩まずに【戦士(ファイター)】を選ぶ。

【生誕】の項目は謎なので響きで【星降りの月】を選択した。

 次はキャラクター見た目設定だが、


『リハビリスターターキットを確認したため、省略します』


(!?!?!?!?)

 

 トウヤは混乱していると自身の姿が投影される。

 現実と変わらない姿が3D再現され回っていた。


「いや、えぇ……まぁしょうがない、のか? 兜でも被ればいいしな」


 なんとか自分を納得させてたトウヤは、名前の設定に移るが──。


「これ取り消せねぇのかよ……」


 プレイヤー『トウヤ』で固定されていて弄ることができない。

 頭を抱えるたくなる。ふとあの医者の顔がちらつく。まさかと思いたいが、あの医者の目を思い出すと断言できないのが恐ろしい。


『全項目の設定が完了しました。2ndWORLDをお楽しみ下さい』


 不安しかない状態でトウヤはゲームを開始する事となった。



 視界は一瞬の閃光と共に切り替わる。

 聴覚が雑多な物音を拾い、賑わい始めた。見渡すと何処かの建物──棚には物が種類毎に綺麗な仕訳されて陳列されている。世話しなく、人が往来して物を集め手に持った書類とにらめっこしていた。


「おう、新人か?」


 声のする方に振り向くと、そこには筋骨隆々のマッチョマンが立っていた。男はこちらの近くまで来ると肩を叩き、部屋の片隅に置かれている荷物を指差す。


「いきなりですまねぇが、人手不足でよ。あの荷物を探求者ギルドまで、至急運んじゃくれねぇか」


《依頼:物資配送(特殊1)》と表示が現れ依頼が開始された。

 男はガヤックと名乗り、トウヤに荷物の積込方法を教えてくれる。回復薬12本で1ダース、それを木箱入れてから、インベントリ内に収納すると木箱で満杯になる。初期装備の大型背嚢に背負子を取り付けて荷物を詰め込んで準備完了。


「んじゃ、頼むわ」


 ガヤックから配達書を受け取り、見送られた。


(───ん???)


 初期位置って広場じゃなかったか? いやなんかクエスト発生してるがこれチュートリアル? 探求者ギルドって何処だよ! 町並みは近代ヨーロッパぐらいか? すっごーい、脚がちゃんと動いてるよ! 様々な感情が一気に押し寄せて、よく分からないテンションになっていた。



 2ndWORLD発売から半年が経ち、プレイヤー人口も8000人を越えた。その勢いは止まる事を知らない。順風満帆に思えた2ndWORLDにも小さな問題が置き始めていた。

 一つ目はプレイ人口の8割強が戦闘職であった。

 二つ目はNPCキャラの減少が激しく、各所で少しずつ弊害が出始めていた。

ゲームは現実(リアル)に設定されていてNPCも役割がある。消耗品の生産、それを各施設、販売店への運搬等。治安の面でも、街道の巡回や駐屯地への衛兵派遣など色々だ。

 運営側からしてもNPCの消耗は想定済みだったが余りにも多かった。NPCを補給すればいい話だが、死んだら復活と言うのは運営的に納得がいかないのか。大陸外から移住者としてNPCを連れてくる設定(フレーバー)でどうにかごまかしながら現状回復を図っていた。

 運営告知でも、それとなく現状を伝えてNPCの命の重さが少しずつではあるが、プレイヤー間にも認知されてきている。

 その動きに伴い、大型クランの結成や自警団の出現。それに反発しての大小のPKクランの発足と、2ndWORLDは混沌の渦中にある。

 その問題解消案の一つにリハビリスターターキットが含まれているのを知る者は、少数である。


 都市MAPを開きながら大通りを歩く。馬車が石畳の道を進み、プレイヤーたちが大勢行き来する。NPCも多く見られ、立ち話や露天市で買い物をしている。個々にAIを与えられ、この2ndWORLDを生きているのだから感慨深い。

 この世界に自分が存在しているのだと、そう感じる。

 大通りを抜けて広場に出た。広場は待ち合わせの人や、クランへの勧誘、一瞬の輝きの後現れる新規プレイヤーなど、大勢の人でごった返していた。

 広場の先に目的地の探求者ギルドが見えた。意を決して広場を突き抜ける。初期位置が此処だったなら感動もひとしおだったろうに。あの倉庫は酷い。


 探求者ギルドは多くのプレイヤーが出入りして賑わっていた。これから狩りにでも行くのか、和気藹々と

城門に向かうPTが数多く見受けられる。

 そんな人たちを横目に見ながら、トウヤギルドの裏口に回る。裏には何台かの荷馬車が止めてあり、職員が忙しそうに荷降ろしをしていた。

 職員の一人を捕まえ、配達書を見せる。


「ん? あぁ、早馬ギルドの人かい? いやー、助かるよ。もう在庫が無くてさ、荷物はこっちに降ろしてくれる? 後こっちが空瓶の木箱だからお願いするね」

「はい。荷物はここら辺に下ろしていいですか?」

「うん。そこでお願いねー」


 荷物を降ろして、持ってきた以上の木箱をまた積み込む。インベントリに入りきらない木箱は、背嚢は畳み収納して、背負子に木箱を積み上げ縄で固定する。 

 準備が整うと背嚢を背負い、職員に挨拶を済ませて、ガヤックの居る早馬ギルドに向かおうと通りに足を運ぶ。通りの人混みは来た時より酷く混雑していたため、裏道から帰ろうと踵を返し、小路に入って行く。

 それに気づいたギルド職員だったが、声を掛ける間もなく、トウヤは裏路地に姿を消した。


 MAPを見ると裏路地は詳細に道筋が表示されない。縮小機能を使い自分の位置と早馬ギルドの位置を確認して進む方角を決める。


「チュートリアル終われば、後は好きにできるしちゃっちゃと終わらせるかな」


 時折MAPを開いて方角を確認しながら、早馬ギルド向かって歩く。細い路地が幾重に重なり交差する。何故そこにあるのか分からない架け橋があったりと、不思議な構造がちらほら見受けられる。

 ようやく道のりの半分を越えた時だ。肩ベルトの位置を調整するため身を捩る。同時に、風を切る音がする。数秒後遅れで頭部があった場所に矢が飛来する。


「ふぁッ!?」


 石畳に突き刺さる矢を一瞥して飛んできた方向を見ると物陰から二人飛び出してくる。


「この距離ではずすなよ!」

「うるせぇ! 早くいけって!」


 トウヤの進行方向の物陰から、覆面の男二人が言い合いをしながら飛び出してくる。

 一人は短刀を構えてトウヤとの距離を詰め、もう一人は取り回しの利く短弓を構え狙いを絞る。慌てて踵を返して、男たちとは逆方向に走る。一番近くの角を曲がった瞬間、放たれた矢が背負子の縄に当たり、担いでいた木箱が数個、石畳に転げ落ちた。

 幸運な事に木箱が邪魔をして、短刀の男との距離が稼げた。

 後ろから罵倒の言葉が聞こえたが、トウヤは来た道を戻り、最短で人通りの多い道に出れるか頭の中で地図を書き出す。


(次の角を曲がって後は直進で出れるはず!)


 通りの雑多なざわめきの音が明白に聞こえてくる。後一踏ん張りで逃げれる。脚に力を込め踏み出すが、速度が上がらないむしろ落ちていく。焦りが募るばかりだ。

 よく見ると視界の端にあるステータス表示のSP(スタミナ)の残りが無くなっていた。

 個人積載量を超えて過剰積載になっていたトウヤはデバフが付き、立っているだけでSPを消費していた。そして走り回った事でSPを使いきってしまっていたのだ。

 トウヤは慌てて動くが、脚が縺れ、前のめりに倒れる。

 倒れた衝撃で縄が緩み、木箱も周りに散乱する。

 後ろから足音が近づいてくる。このままだと殺られる。肺に空気を吸い込み、声帯を震わせた。


「だ、誰かァー! 助けてぇー! エルプ!!!」


 SPもなくまともに走れないトウヤは叫びながら地を這う。しかし助けが来るよりも早く、後ろから男の声が聞こえた。


「ったく、手間かけさせやがって」


 覆面男はトウヤの肩を掴み、荒い手つきで仰向けにした。そして腹に跨がる。暴れられない様に腕は覆面男の膝で押さえられた。抵抗を試みも肘を抑えられて動かせない。

 そして躊躇なく短刀を首に当て──


「は!? お前初心者かよ!!」


 覆面男は驚愕の声で叫ぶ。喉笛に当てられた短刀の刃先は、あと数センチの所で止まり。

《初心者保護期間です》と警告表示がトウヤと男の間に浮かび上がる。


「えーと、これは……俺助かるってこと?」

「え? あー、まぁそうなる、かな」

「じゃあ、起き上がりたいんで、上から退いてもらえます?」

「あ! すみません……」


 馬乗りにされていたため、覆面男に退いてもらい起き上がる。なんとも言えない雰囲気が、二人の間で流れた。


「どうかしましたか!」


 金属の擦れる足音が通りの方から複数近づいてくる。こちらの状況に気づくと抜剣して覆面男に叫びながら向かっていく。


「貴様らぁッ!」


 覆面の男は慌てて路地裏に逃げる。その際、こちらに謝罪を律儀に述べてからの撤退だ。

 鎧を着込み、揃いのグレートヘルムこと”バケツヘルム”を来た男二人は、覆面の男の後を追っていった。

 その場に一人取り残されるトウヤ。根は良い奴かもと思いながら、覆面男の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。それから、散らかった木箱を拾い集めて縛り直し、ガヤックの倉庫に戻るため、また路地裏に向かう。

 その際、別グループのPKと遭遇しての帰路となった。




〈WORLD-topic〉

 2ndWORLD内に結成されたクランには、不足した衛兵に代わり、治安を維持するために動くクランが、複数存在していた。その中でも通称“バケツヘルム”と呼ばれる大兜をメンバー全員で被り活動するクランが存在している。

 バケツヘルムの魅力に取り憑かれるプレイヤーは、今現在も増え続けている。これらのプレイヤーの特徴として、甲殻類のモンスターに対して強い敵対心と金策を図る傾向にある。

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