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No.19 ゲーマーとダンジョン(2)

 【気絶】のデバフから目を覚ますと広い空間に横たわっていた。落下からの気絶は前にも経験したが、気持ちいいものではないな。HPも残り2割とこれもなんだか、既視感がある。

 回復の丸薬を口に入れて立ち上がると、そこは暗い坑道とは打って変わって、大理石の壁と支柱で飾られた。祭壇の間の様な空間だった。壁に備え付けられた。結晶が淡い光を放ち、部屋全体を神秘的に照している。

 上を見上げれば、落ちてきた穴だろうか、この部屋にはにつかわしくない大穴が天井に見える。床には壊れた天井の瓦礫や岩石が散乱して酷い有り様だ。

 その中に横たわるゴルドを見つけて急いで駆け寄った。


「ゴルドさん! ほら、起きて! そんなやりきった顔してないで、ほら!」


 気絶していても満面の笑みを崩さないゴルド。少しムカついたので回復薬を顔にぶっかけたら飛び起きた。


「ゴボッ!」

「起きましたか?」

「ゴッぺ! えぇ……はい。もう少し、優しく起こして下さいよ」

「緊急ですからね。ほら、この丸薬も食べて下さい回復しますから」


 ゴルドの抗議を無視して丸薬を渡し、改めて部屋を見渡す。部屋には装飾で飾られた大きい扉が一つと、部屋の中心、祭壇の様に段差があり中央には、三つの台座には宝箱がそれぞれ置いてある。


「……ボス戦後の宝物庫みたいな場所ですね」


 丸薬を噛み砕きながら私と同じ考えをゴルドは口にした。宝箱が露骨に並んでいると、そう考えてしまうのもしょうがない。

 唯一の扉を二人で押しても引いても、びくともしない。となると戻るには、天井の穴から出ていくしかないのか……。

 

 脱出方法を思案していると、ゴルドがつるはしで壁を軽く叩き始めた。部屋をグルグルと回り、立ち止まる。


「何かありましたか?」

「ここだけ壁が薄いですね」

「薄い? 通路ですかね? ここが終点だとすると帰り道のショートカットとか! 何か仕掛けが──」


 ガゴォッ!!


 謎解き前にゴルドがつるはしで壁を破壊したため、問題は解決した。こんな解決方法が許されるのかは、知らないが破壊不可属性でないのが悪い。


「とりあえず、行き止まりじゃなくて助かりましたね……」


 他の壁も掘り始めたゴルドを呼び戻し、中央の祭壇に向かう。意味深く鎮座する宝箱に悩み、ゴルドと意見交換をする。


「どう思います?」

「本当にボス部屋だったら、宝箱からアイテム取って終わりでしょうね」

「私もそう思いますが、気前よく三つも宝箱くれますかね?」

「一つ取ったら二つは没収のパターンとかですか?」

「もしくは宝箱自体に罠があるとか?」

「ちょっと調べてみますか」


 疑り深い二人は慎重に祭壇の上り台座を観察する。ゴルドがつるはしで祭壇を叩くと何か見つけたらしい。


「なんか仕掛けがありますね……」

「よく分かりますね? スキルですか?」

「地中にある鉱石とか探すスキル【マイン・ソナー】なんですが、熟達してるので地中の空間とかも把握できます」


 なんとも便利なスキルだ。熟練度が上がっているのだから相当に使い込んでるな。

 台座を注意深く見ると祭壇と台座に少し隙間が見えた。ギミックが動くと台座が潜り込んでしまう仕掛けだろうか。

 外套から棒手裏剣を取り出し、台座の隙間に差し込んで棍棒で叩く。抜けなくなるまで叩いたら同じ事を繰り返す。額に汗が滲む頃には3つの台座全てに棒手裏剣を楔として打ち込んだ。満足の出来だ。

 ゴルドも感心して拍手をくれる。


「じゃあ宝箱ですが……開けますか?」 

「宝箱のまま持って帰って後で開ける方法もありますね」

「なるほど、それいいですね!」


 男二人でキャッキャッしながら宝箱に手を掛ける。


「ん? これ……すごい重いですね。過剰積載のデバフでますよ」


 ゴルドはそう言うと宝箱から手を離した。代わりに私が持ち上げると確かに重いが、常に過剰積載状態の私からしたらそんなに変わらない。


「私なら問題ないので全て取っちゃいますね」


 一つ取り上げると何も起きない。二つ目も変わらず、三つ目も変化なし。少し用心しすぎたか?


「何も起きませんね……」


 キョロキョロと部屋を見渡すゴルドは少しほっとしている様子だ。


「大丈夫ですね。この宝箱は、背嚢に仕舞いますね」

「お願いします」


 ハルのお見上げ素材もあるため、一度積め直しをする。綺麗に収まったが、入り切らない空き瓶の木箱はしょうがないので、台座の上にでも置いていこう。

 それを見たゴルドも何故か、台座に壊れ掛けのつるはしを置く。何も置いてない台座が可愛そうなので、回復薬を一つ置いといた。


 ゴルドも納得したようで頷いている。


 ドンッッ!!!


 音のする方を振り向くと、扉が外側から叩かれている。音は止まずに激しさが増してきた。扉もいつまで持つか分からない。

 二人は慌てて、隠し通路方に走り出して部屋から逃げ出した。


 何もない一本道を進むと、石の滑り台の様に段差がある場所に出る。よくある一方通行の道だろう。


「やっぱりあそこは宝物庫みたいですね」

「早く鉱山に戻りたいです……」


 石の滑り台で下の通路に降りて、出口を求め歩む。

 道中スケルトンがうろうろしていたが、揃いも揃って私たちに背を向けた状態で停止しているので後から殴り倒して進んだ。


「あっ」


 罠のスイッチを踏んでも、その罠は後方で飛び出すので意味もない。


「大丈夫ですか?」

「あー、大丈夫です」


 なんとも緊張感無いやり取りを先ほどから繰り返している。無理もない、モンスターには先手を取れる事が大半で、叩く事に特化しているゴルドにはスケルトンはボーナスバルーンの様に容易く対処できる。

 

 何かあれば【マイン・ソナー】で仕掛けを探り安全に突破する。


「ここの床下、空洞なので多分落とし穴あります。気をつけて下さい」

「了解です」


 床や壁を注意深くみれば微かに凹凸が見られる。それらを触らない様に慎重に進んでいると後方から音が迫ってきていた。

 軽い音とは別に金属の摩擦音に、何か引きずる様な嫌な音がどんどん近づいてくる。

 先に渡りきったゴルドが叫んだ。


「早くこっちに来て! 早く!」


 ゴルドの慌てた声に反応して、脚に力を入れて走り出す。罠のスイッチなど考えもせず、突っ切った。運良く罠を動かさずに通り抜けられた。

 振り向くと暗闇に火花が散る。


「アース・クラッシャー!」


 ゴルドが叫び、スキルを発動する。振り上げたつるはしが小刻みに振動し、床に当たると前方の床を広範囲で粉々にする。

元々落とし穴の罠があったため、薄い床は簡単に壊れ、大穴が姿を現した。

 我々の対岸に火花を散らしていた正体が現れる。


 通路の高さギリギリの大きなスケルトンがカチカチと歯を鳴らしてこちらを睨んでいた。無いはずの眼球が赤黒く揺らめいて、こちらを見てくる。


「……なんか怒ってますね」

「まぁ、宝箱だけ奪われたら……ね?」


 カチカチと鳴らす音が止む。瞬間、手に持った大剣をこちらにぶん投げてきた。通路幅ギリギリで回転する大剣に逃げ場を制限される。上か下か、それとも迎撃か。


「トウヤさん!」

「ゴルドさんはしゃがんで!」


 ゴルドは身を屈め、腕で頭を守る。私もしゃがむかと考えたが、背嚢に命中して宝箱が散乱してしまうだろう。それだけは避けたい。


「一か八かやってみるか……!」


 飛んでくる大剣に合わせて、通路の壁を駆け登る。【強脚】から生み出される脚力は容易く壁を駆け上がり、天井間際まで、到達する。そのまま天井を一蹴りして宙返りを成功させ、床に着地した。

 宙返りも含め、滞空時間を稼いだため大剣は通過して回避が見事に成功した。ありがとう覆面A! 壁上り見せてもらえてなかったらここで死んでいたぞ。


 誰も殺せなかった事に苛立つスケルトンに止めとばかりに、大剣を拾ってきて落とし穴に捨ててやった。

 地団駄を踏むスケルトンという珍しいのも見れて満足だ。

 飛んでこっちに来ないとも限らないので急いで先に急ぐ。

 案の定、後から軽い足音が聞こえてきた。


「アイツしつこいですね!」


 ゴルドは息が上がりかけている。ドワーフという種族的に移動には不向きだ。このままじゃ追い付かれるかもしれない。


「ちょっと失礼します」

「うぉっ!」


 ゴルドを拾い上げ、脇に抱える。SPの消費がぐんと増えたが問題はない。これで逃げれる所まで行くだけだ。

 走る速度をゴルドに合わせてたため、速度が上げる。ついでに【荷捨て】で石炭も捨てておく。


「うんぎゃっ!」


 ゴルドが急加速に驚き、唸る。でもこれで大分、距離を稼げるはずだ。今はとにかく離れよう。

 抱えられる事に慣れ始めたゴルドは速さを楽しんでいた。


「これくらい速く走れたら楽しそうですねー」


 脇に抱えられて暇なのか、腕を前に伸ばして飛んでる風に楽しみ始めた。通路の角を曲がり進むと落盤なのか、通路が岩で塞がれていた。

 立ち止まりゴルドを下ろして周り見ると、天井が崩れている。良く見ると落盤の中に壊れたつるはしが大量に混入している。


「まさかこの落盤って……」

「ごみ捨て場に使ってた穴ですね。私の捨てた、つるはしがありますね」


 あの地響きで既にダンジョンに穴開けていたのか……。どちらにしろここを通過しないと先に進めない。


「私に任せて下さい。SPもまだあるのでなんとかします! アース・クラッシャー!」

 

 スキルを発動して岩を粉砕してはまた上から落ちてくる。何度もド派手に吹き飛ばすので、土埃が舞って前が見えないが、ゴルドはお構い無しにスキルを連発する。うっすら見える横顔が満面の笑みなのはなんでかな? 不思議だなぁ。


 視界が少し回復すると見事に通路が開通していた。岩を吹き飛ばすのではなく粉々に粉砕しているのが恐ろしい。鉱山では一様、気使って採掘してるのだろう。

 後からまた音が聞こえてきたので、満足そうに横たわるゴルドを担ぎ上げ走り出した。



 遺跡内は薄暗く、煌めく水晶の照明が点々と床を照していた。暗視の目薬を眼にさしたため、少しの間は暗闇に適応できる。ランタンでも良かったが、モンスターに気づかれる可能性を配慮して暗視の薬を使う事にした。


深い縦坑を底まで降りて、何時間この暗闇を歩いただろう。思いのほか、深いこの遺跡に挑むのは軽率だったか。いや、今さらそんな事を考えてもしょうがない。今はこの遺跡を攻略する事に集中しよう。


 先頭を行くマヤが手を上げて、全員に警告する。この先にモンスターがいるようだ。指を見ておおよその数を把握する。

 各自身構え、相手の出方を伺う。カタカタと音が近づいてくる。マヤはスキルで周囲と同化して姿を消した。チェルシーが弓を音もなく引き絞り、暗闇に放つ。

 何かに当たる音が聞こえ、一斉に何かがこちらに向かって走り出した。ユーリが大盾を構え迎え打つ。

 暗闇からスケルトンが一斉に現れ、刃こぼれした剣を振りかざしてくる。

 そのすべての攻撃を盾で受け止め、弾き返すユーリ。軽いスケルトンは吹き飛び壁にぶつかる。そのまま大盾に押し潰され動きを止める。

 私もスケルトンの中に突き進み、スケルトンを凪払う。背骨を砕き、頭蓋骨の奥にある核を貫く。

 背後からの攻撃も気にしない。仲間が入るのだから。


「カイト、油断しすぎ」

「はは、マヤが倒すって信じてたのさっ!」


 マヤが来るのは分かっていた。私は後の敵よりも前の敵を多く倒すため剣を振るう。


「よくそんな恥ずかしいセリフ言えるわね……」


 マヤはああ言うが、満更でもないのは顔を見れば分かる。それを指摘すると怒られるから、誰も言わないが皆苦笑してるのは見えた。


「さぁ先は長い。早く片付けよう!」

「おうよ!」

「まっかせてーっ!」

「いいから手を動かしなさい!」


 戦闘を終えると剥ぎ取りだ。スケルトンは数が多く、骨ばかり、落とす。たまに魔石も落とすので無視するわけにもいかない。


「しっかし骨ばかりだな。持てない分は、捨てていいか?」

「そうだね。先も長いし要らないのは通路はの端にでも捨てた置こう」

「勿体なく感じちゃうよねー。トウヤさんみたいなサポート職いると本当に楽だったわね」

「アイツ嫌い……」

「お前が好きな奴見たことねぇぞ」

「あんたも嫌いよ」

「ヘイヘイ」


 談笑しているが、誰一人と警戒を解いていない。それにサポート職がいると戦闘面以外では凄く助かるのも事実だ。今後行動範囲が広がっていくなら問題になるだろう、まぁ一番の問題は、マヤに認められる事だけどね。


「しっ! なんか来るわ」


 マヤが警戒する。何か感じたのか通路を奥をじっと見据えている。皆も臨戦態勢だ。私も手に持つ剣に力が入る。

 通路の奥から音微かに音が聞こえる。それも凄い速さでこちらに近づいてくる。全員、身を低く身構える。


 通路の奥がぼんやりと淡い緑色の光が揺れ動く。


「なんだ!? ゴースト系か!」

「分からない! けど物音も聞こえるわ! チェルシー見える!?」


 弓を引き絞り、チェルシーは緑色の光を観察する。


「待って確認するわ……!? トウヤさん!?」


 私も他の二人もチェルシーを見る。今なんて言った!?


「おま、今なんて!」

「ユーリいいから前っ!」


 ユーリは聞き返そうとしたが、緑色の光は凄い勢いで近づいてくる。マヤは迎撃するためにナイフを投擲するが、避けられた。


 ユーリが大盾から短槍を突き出すが相手を捉えられずに虚空を突く。


「チェルシー!」


 私は叫んだが、チェルシーは弓も構えず呆れた様に笑っていた。

 剣を構え、敵と対峙する。


「え!? トウヤさんっ!!!」

「後からボス来ますので、後はお願いします────」


 すれ違い様にトウヤさんはそう叫んで通路の奥に姿を消していった。

 何が起きたのか理解が追い付かない。

 皆も何が起きたのか理解できてないようだ。


「おいおい、今のマジで、トウヤか!?」

「あの顔はどう見てもそうでしょ! つーか、攻撃避けられたんだけど!? なんであんなに速く動けるのよ! ってかあの担がれてるドワーフなに!?!? 意味分かんない!」

「何か言ってたわね? ボスがどうとか?」

「うん。そう言ってたね。本人に聞き直したいけどもう姿見えないし……」


 カチカチッ!!


「またなんか来るわよっ!」


 マヤの声に反応して身構える。

 通路の先から赤黒く揺らめく光迫ってくる。


「デカイ、スケルトンか!?」

「そうね。でもなんで武器持ってないのよ?」

「落としたのかしら?」

「トウヤさんが言うにボスらしいから皆、油断せずにやるよ!」


 全員から掛け声が返ってくる。色々と混乱するが、まずは目の前の敵を倒すのが先決だ。

 私たちならやらるさ!




〈WORLD topic〉

 ゲーム初のダンジョン攻略を果たしたPTは“灯の杖”だった。ワールドメッセージが流れ、全プレイヤーは興奮して歓声を上げた。

 攻略掲示板などで、灯の杖に幾つもの質問が投げ掛けられた。その中でも皆が注目するのはやはり、ダンジョン最深部にある宝についてだ。

 全プレイヤーが注目の中、書き込まれた内容に本当になのか、冗談なのか、情報を隠すために嘘を言っているのか分からないが、こう書き込まれた。

「壊れたつるはし、回復薬、空き瓶入った木箱」

 真偽は灯の杖にしか分からないが、この情報は攻略掲示板を大いに賑わわせた。

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