No.16 ゲーマーと鉱山(1)
憩いの場であるメルルの出店は今とても居心地が悪かった。
遠目から興味津々にこちらを伺うモニカ。
心配そうに見つめるメルル。
私の向かい側に座る獅子王クランリーダー。リバースティアは今にも涙をこぼしそうなほど顔をくしゃくしゃにして目の前に座っている。
「この度は本当にに申し訳ないッ!」
何度目になるか分からない謝罪と勢いよくテーブルに額をぶつけるリバースティアには困惑としか言い様がない。
「自分が不甲斐ないからいけなかったんです! たかが愛剣一つでうじうじとしているから! メンバーに余計な不安を抱かせて今回みたいな事にっっ!」
要するにあれだ、クランリーダーのためにメンバーが、独断で愛剣探しをしてたらこうなったと。探すにしても、もう少し脳筋思考を抑えて貰いたいんだが……
「頭を上げて下さい。結果的に私もそちらのクランメンバーに危害を加えてしまう事になったので、私にも非はあります」
「しかし! 俺がもっとメンバーを気遣っていれば今回みたいな事にはならずに済んだはずなんです! 俺がしっかりしないばかりにッッ!」
もう切りないぞ、このやり取り。モニカの顔見なさいよ。ドン引きですよ、ドン引き。メルルさんなんで泣いてるの!?
「そ、それはそうとですね、私には勿体ない片手剣を手に入れたのですが、これ受け取って貰えませんか? 愛剣の代わりにはならないかもしれませんが……」
リバースティアの愛剣の成れの果てがテーブルに置かれる。酷い冗談だがそんなの関係ない。さっさと、この場を納めたい一心だ。
「いえ、受け取れませんよ!」
「いや、受け取って下さい! この剣も使われるために作られたんです! 私の元にあったらその機会もありません! リバースティアさんの元に行けばこの剣も生まれた意味を持ちます! どうか受け取って下さい!」
何言ってるか、自分でも分からんがしょうがない。
無理やり剣をリバースティアの手に持たせ言葉を続ける。
「剣が象徴ではなく、貴方が獅子王クランの象徴なんですよ」
あーもう、意味合い分からん。
たが今の言葉がリバースティアに響いたらしく、強く抱きしめられてしまった。
「俺……頑張ります!」
「が、頑張って下さいね……」
暑苦しい抱擁から解放される。剣を握りしめるリバースティア。
「なんだか凄いしっくりきますね。昔から使っていた様な、手に馴染む……!!」
でしょうね!!!
「よ、良かったです……その剣も本望でしょう」
リバースティアは席を立ちようやく帰る様だ。一つ聞かねばならない事があったな。
「リバースティアさん最後に一ついいですか?」
「はい!」
「PKたちとまた会ったらどうします?」
「もちろん、殺しますッ!」
最高の笑顔で言いきりやがった。戦闘狂しかいねーのかこのゲームは。でもまぁ、戻るべき所に剣が戻ってよかった。
◆
リバースティアが去った後、ようやく寛ぎの空間が戻ってきた。通りから遠目でこちらを見ていた野次馬も何処かに消え、いつもと変わらない雰囲気だ。
あれから、ハルと一緒に《依頼:ゴブリン集落の再建》は無事終わらせ、報酬で”緑光石の礫”を貰った。
薬草屋の老人の依頼では欠片であったし、別の用途かとガヤック聞いたら、大慌てで探求者ギルドに連れていかれた。
緑光石の取扱いは、探求者ギルドが一括で管理しているのをその時、初めて知った。監視塔に使う欠片でモンスターが近付けない効果があるのだから、重要な物だと思ったが想像よりも遥かに重要だったみたいだ。
持ち込んだのは緑光石の礫であったため、そこまで大事にはならなかった。出所を聞かれたが、グリーンライト・ゴブリンからのドロップ品だと伝えたら納得した様子だった。本当にドロップするのかもしれない。
小さくても便利アイテムらしく、少しの加工を加え、ランタンの中に収まっている。陽光当てれば暗闇で発光するらしく、燃料要らず光源を手に入れる事が出来た。
ハルからは個人依頼の報酬、探求の書データを貰い受けた。想像よりもたくさんのデータが載っており、過剰な報酬では? とハルに言ったがそれは、これからの付き合いも兼ねての前金代わりに受け取って欲しいと言われた。
何か珍しい未登録のアイテムがあったら教えて欲しいとのこと。何かあったら連絡をとるためにフレンド登録もした。
そういえば初めてのフレンド登録だな。固定が居るわけでもないしさほど気にはしていなかった。決して。
「トウヤ、へんな人連れてきすぎ」
「なんだ藪から棒に……」
物思いにふけていると、モニカがこちらに来て。そんな言葉を投げ掛けてくる。
「さっきの人はへんな人」
「熱血漢とか言ってあげて、暑苦しい人ではあるけどさ……」
「トウヤもへんだけどね」
おっと聞き捨てならない事を言いましたよ、この子。
「いや、変じゃないでしょ? 何も変じゃないよね?」
「トウヤずっと荷物運びしてる」
「いや、冒険とかもしてるし……」
荷物運びしたらトロールとも戦ったし、荷物運びしてたら鳥に拐われたりしたし、荷物用運びしてたらPvPもしたし。
「荷物運びしかしてない……!?」
「そうだよ」
いや。でもこれはそういう職業設定だし、運ぶと色々な場所に行けるし、結構楽しいし。これはそういう遊びだよね。
「ま、まぁ楽しいからいいんだよ。うん」
「楽しいならしょうがないね。私も薬作るの楽しいよ」
モニカら納得した様子で出店裏に戻っていった。
そうだ、今度ダンジョン探索とかもしてみよう。
◆
トウヤは探求者ギルドの依頼板を覗きに来ていた。
繁忙時間を避けているので人は少なく、依頼板をじっくりと見れる。
残り物は大概が高難易度の依頼や、輸送護衛や配達の類いだ。それとは別にプレイヤーが個人で出す、個人依頼板も真横に置かれている。
《フレンド募集中!》《サポート職募集@1》《監視塔制圧PT募集中@職不問!》《午後9:00からプレイできる社会人プレイヤー募集!》《テスト》《ああああ》
まぁ色々と張られている。外部ツールで募集するのが今の主流だとしても、ゲーム内での募集板というのはやはり良いものだ。
色々と見て比較的まともな依頼を一つ選ぶ。
《個人依頼:つるはし10個》
西部にある鉱山までの配達依頼だ。最初に解放された西部方向には一度も足を運んでいなかったのでこの依頼は丁度いい。グレートヘルム団が復興作業中の廃村にも寄ってみたかった。
他には西部でやる様な依頼は特に張り出されていない。あとは早馬ギルドに顔を出して西部行きの依頼でも見てみよう。
個人依頼書をギルドカウンターに持っていくと正式に受領された。
早馬ギルドでは依頼はそこまで無かった。正確には西部に向かう配達依頼はほとんど無い。商人職が馬と荷馬車の購入が次々と済ませているので、解放済みエリアの街道沿い拠点や監視塔には、荷馬車でまとめて運搬されはじめている。
残っている依頼は街道から外れた場所や、荷馬車などで運べない場所の依頼ばかりだ。
今回は西部の村と鉱山に向かうので受けれそうな依頼はなさそうだ。……受付カウンターから、落胆の表情でこちらを見るのは止めてほしい。私だって毎日あれこれ受け回るわけじゃないのだから。
◆
つるはしを五個づつ束ね背負子の横枠に固定する。ぐらついて刃先が頭に刺さらない様に念入りに結んだ。
西部街道は比較的モンスターのレベルが低いため、初心者と思われる人がけっこう見受けられた。
毎日けっこうな人数の新規プレイヤーが来ているらしい。公式の告知で、たしか統計とか色々と出していたはずだ。
初々しい初心者たちを見ていると心がポカポカしてくる。私も初めての頃は……ろくでもなかったな。あれはあれで、いい経験なんだろう。たぶん。
余計な事を考えるのを止めて走り出す。インベントリから石炭を一つ取り出し放り投げた。
【荷捨て】にもっとも適したアイテムは、そこそこの価値があって、いつでも買えて、安いお値段だった石炭だ。これを使うともの凄く移動速度が上がる。これに【当て逃げ】も使えば馬にだって追い付き抜かせる自信がある。
私の中で移動するための【当て逃げ】【荷捨て】は最高のコンボ技なのだ。
私は世界を縮める。最速の担ぎ屋なのだから。
〈WORLD topic〉
2ndWORLDには数多くのプレイヤーが居る。
様々なプレイスタイルでゲームを楽しみ、名を轟かせるプレイヤーも多い。
攻略の先駆者“灯の杖”
面白枠で”自爆殺ヒーロー”
無敗のPK“血染め紳士”
プレイスタイルを貫く人は多くの人の目に止まる。最近街道で目撃される“石炭落とし”と言われる奇怪なプレイヤーも出てきた。




